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第42話 美しすぎる女剣士


 オレたちは夜遅くなってから、山麓の町に戻ってきた。


 空腹だったので食堂を探してみたが、開いている店はほとんどなかった。

 それでも冒険者ギルド経営がするレストラン&バーはまだ開いていた。

 だから今回もそこの店に入ることにした。


 テーブル近くの壁を見て愕然とする。


 ポスターが張られていたのだ。最近、魔導を使った『印刷』技術が発明され、ポスターが流行りだしたことは知っている。しかしオレが驚いた理由は、ポスターを間近で目撃できたからではない。ポスターの内容が衝撃的だったためなのだ。


『美しすぎる女剣士』


 そんなタイトルのポスターだった。

 ポスターに描かれた剣士には見覚えがある。

 かつてパーティー仲間だったソードマスターだ。


 実物より三割増しに、美人でセクシーに描かれている。

 胸なんかこんなに大きなものかよ。


 ポスターの隅にはこのような記載がある。


『彼女にあるのは美貌だけではなかった。最近、彼女の所属する冒険者パーティーがプロとしてデビュー。それ以降、立て続けに行なわれた闘技試合に連戦連勝している女剣士。ソンクラムの期待の星』


 ムアンがオレに横目を送ってきた。


「何を見てるの? まあ、とても綺麗な人ね。こういう人がタイプなのかな」

「ぜんぜんタイプとかじゃねえよ」

「それにしてはじっくり見ていたわね」


 チャオプが勢いよく走ってくる。


「わーわーわー! シェムぅー、暴れるなぁー」


 どてっ。


 壁に衝突した際、ポスターを破いてしまった。


「おい、チャオプ!」

「ヤバっ、どうしよう」


 店主がやってきた。


「ああ、これは……。高かったのに!」


 このあと、さんざん怒られたのは言うまでもない。

 当然ながらポスターを弁償することになった。


 もちろんチャオプ一人に支払わせるなんてことはしない。

 パーティーを組んでいる間は、財布は皆で共有するものだ。

 それがソンクラムにおけるパーティーのやり方だった。

 ムアンとチャオプもそのやり方に大賛成してくれていた。


 ちなみに『へそくり』なんていうのも珍しくない。

 以前、オレもやっていた――。


 たとえば冒険者スクールの学食で、オレはパンを毎日三つ買うことになっていた。しかしあるときから二つしか買わなくなった。こうして浮いたカネを一年間かけて貯め、高級品であるケーキを買った。プロデビューの祝賀会で皆にふるまい、驚かせようと思ったのだ。結局、誰も口にしなかったが……。



 食事の間、ムアンのようすがおかしかった。

 こっちをチラチラ見て笑っているのだ。


「なんだよ、ムアン。オレの顔に何かついてるのか」

「ううん。ただね、ラングの好みのタイプ、わかっちゃったから」

「ポスターのことだな? まだ言ってるのかよ。あんなのタイプじゃねえって」

「でも舐め回すように見てたでしょ。ちょっとキモかった」

「馬鹿言え。アイツはなあ……」


 そう言いかかったところで躊躇した。

 あまり口にしたくない話だったからだ。


 ムアンとチャオプが好奇心に満ちた目を向けている。


「師匠。さっき『アイツ』って、まるで知人みたいな言い方だったな。ポスターには『ソンクラム』がどうのって書かれてたけど、そうなのか」


 コイツ、そこまでしっかり読んでたのかよ。

 でもまあ、隠したままなのは水臭いだろうな。


「以前、チラッと言ったよな。パーティー仲間に売られたことがあるって。アイツがオレを裏切ったんだ。元パーティー仲間のうちの一人だ」


 しばしの沈黙後、二人が言う。


「ごめんなさい、ラング。軽率で不謹慎だったわ」

「わたし、グッジョブだったのか? そんなヤツのポスター破いて」


「グッジョブじゃねえ。ポスターは破くなよ。弁償することになっただろ!」





    ◇





 タハーンとイリガの前に顔を出したのは翌日だった。

 ギルドからの特別金がもらえたのは、それから七日後のことだった。

 大金とまではいかないが、そこそこの額のカネが手に入った。


 タハーンの情報では、カモーイは被収容者たちによって即刻殺されたらしい。

 その他の連中の処遇については、敢えて聞くことをしなかった。

 知るのが少し怖かったからだ。


 誘拐団の匪賊については、ギルドの調査員からこんな結果報告があった――。

 カモーイらの誘拐組織は非常に規模の大きいものだった。島全体に勢力を伸ばしており、あのアジトにいた連中もほんの一部に過ぎなかった。


 残念ながらタハーンとの行動はここまでとなった。

 彼は今後も誘拐組織壊滅に向けて行動したいそうだ。

 したがって新しく仲間に加わったのはイリガのみとなる。


 明日の早朝、この似非パーティーはソンクラムに向かう。

 ただしオレが冒険者スクールに戻るためではない。

 ムアンの記憶を取り戻すためだ。





    ◇





 乗合馬車を二度乗り換え、最終目的地の馬車ターミナルに到着。

 ここは第二の故郷とも言うべき都市国家ソンクラムだ。

 チャオプとムアンは街の喧噪に驚いている。


「師匠、師匠! 人がいっぱいだぁー」

「騒ぐなよ。田舎もん丸出しだぞ」


「皆、垢抜けてるし、おしゃれな人ばかりねぇ」

「オレはそんなふうに思ったことないけどな」


 この二人と対照的なのはイリガだ。

 身を小さくして、顔を隠すように俯いている。

 右手で長い黒髪を掻いた。


 それを見てムアンは察したようだ。

 バッグからヘアブラシを取りだした。

 ボサボサだったイリガの髪を梳かす。


「櫛は持ってなかったの? 借りたければいつでもわたしに言ってちょうだい。ほーら、こんなに別嬪べっぴんさん」


 ムアンの言うとおり、ハッとするほどの美少女となった。

 例の『美しすぎる女剣士』なんかよりずっと綺麗だ。


「着ている服も綻びが多いから、新しいのを買わないとならないわ」

「おカネないから」


 首を横に振るイリガ。

 ムアンは彼女に優しく微笑んだ。


「いまはイリガがおカネを出す必要はないのよ。似非パーティーを組んでいる間はお財布を共有しているの。あとの二人がOKすれば問題ないわ」


 チャオプが首肯する。


「わたしもちょっと気になってたんだ。イリガはその一着しか持ってないのかなって。この機会にぜひ買うべきだぞ」


「オレも賛成だ」


「師匠……。わたしも服欲しい」


 大きな瞳がオレを見つめている。


 おい、チャオプ? ポスター破って弁償させられたのをもう忘れたのか!

 と言ってやりたいところだったが、そんな顔されたらNOとは言いにくい。


「オレは構わない。あとはムアンにも許可を取れ。あっ、そうだ。どうせなら、ムアンも新しい服を買ったらどうだ?」

「いいの? だったら買いたいなー。皆でいっしょに買いにいきましょ」



 オレはショッピングに興味がなかった。

 だから彼女たちとはいったん別行動をとることにした。


 シェムといっしょに街の中をぶらぶら歩く。

 街には老若男女が集まっている。オレと年齢の近い人々ともすれ違った。

 冒険者スクールの同級生たちは、いまごろ授業を受けているはずだ。

 オレも顔を出した方がいいのだろう。


「ラング」


 オレを呼ぶ声。背後からだ。

 走ってくるような足音も聞こえた。

 誰だ?


 振り向くと同時に、抱き締められる。

 その直前、チラッと顔が見えた。


 えっ、ムアン? ちょっとどうしたんだ。

 他の二人もいるのか?


 オレの腹の辺りにムアンの胸が当たってる……。

 いやいや、そんなことを意識している場合ではない。

 重大事件でも起きたのだろうか。


 彼女が顔をあげる。ムアンに似ているがムアンではなかった。


「ルアンナ!」


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