表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/100

第41話 占い師の館


 空からの白い雨。これはなんなんだ?

 小さな白い雨粒は赤いドラゴンの翼や体を貫いた。


 雨粒にしてはヤケに大きい。大きいなんてものじゃない。

 近くに落ちてきた雨粒もある。それを見てゾッとした。


 極小のハツカネズミだった。ウズラの卵ほどの大きさだ。

 ハツカネズミは地面に当たると、やがて泡がはじけるように消えていった。


 赤いドラゴンが血飛沫をあげながら落下する。

 斜面の遙か下方へと墜落したようだ。


 もしかして……いまの雨ってオレの新しいワザってことか?

 ああ、またヘンなワザが使えるようになってしまったようだ。

 とりあえず『雨ネズミ』とでも名づけておこう。


「さっきのって、シェムがオレに力を与えてくれたんだよな?」


 当然ながらシェムはミャーとしか鳴かなかった。

 ドラゴン姿のチャオプはまだ意識がない。


「しっかりしてくれ、チャオプ」


 しばらくしてチャオプが目を開ける。

 良かった。オレは安堵の溜息を吐いた。


 首筋を撫でてやると、ドラゴンは目を細めるのだった。


 ようやくムアンがオレたちに追いついた。

 彼女なりに急いできたのだろう。とても疲れたようすだ。


「ラング。チャオプは無事なの?」


 まだハァーハァーと呼吸の荒いムアン。


「いま目を覚ましたばかりだ」

「あの赤いドラゴンは?」

「たぶんもう平気だ。襲ってこないだろう」

「安心していいのね」


 オレは彼女に首肯した。

 ムアンがチャオプに微笑みかける。


「あなたの脱いだ服を持ってきたわ」

「グォー」


「ラングは後ろを向いて」

「わかった」


 チャオプたちに背を向けた。





    ◇





 チャオプは元に戻っても、ドラゴン状態のときのことをしっかり覚えていた。

 人が住んでいそうな小さな家を、上空から目にしたと言っている。

 しかしここから山をぐるっと半周近くも歩かなければならないそうだ。


 チャオプはケガをしており、歩くのが辛そうだった。それでオレが背負うことにした。他人を負ぶっての山歩きというものは、通常ならばそれなりに大きな労力が必要だ。しかしチャオプは小柄で軽いので、ずいぶんとラクだった。



 生い茂る木々の間隙に、一軒の丸太小屋が見えた。


 山歩きしてから初めて見る建物だ。

 あそこが占い師の住処なのか……?


「師匠、ありがとう。もう立てるから大丈夫」

「そうか。でも無理すんなよ」


 チャオプを背中からおろした。


 丸太小屋の近くまでやってきた。

 干された洗濯物……。誰かが住んでいるのは間違いない。

 そこの住人がコールワットという占い師であってほしい。


 民家をいきなり訪ねていって大丈夫だろうか。

 どんな人だろう? 気難しい人だったらイヤだな。

 なんだか緊張してきた。思いきってドアをノックする。


 コン コン コン


 反応がない。誰もいないのだろうか。

 もう一度ノックしてみる。


 コン コン コン


 するとドンっと、壁を強く叩く音が聞こえた。

 中の人を怒らせてしまったのか? たぶん怒ってる。


 ギーーーーーーーっと、軋りながらドアが開く。


 丸太小屋からが人が出てきた。

 目つきの悪い中年男だ。眉間にシワが寄っている。


 ほーら、やっぱり怒らせてしまったようだ。

 これはマズい……。どうしよう。

 中年男が口を開く。



「あー、おんにゃのこだ!」



 ムアンとチャオプを見て喜んでいる。

 オレとシェムのことは眼中にないようだ。


「おんにゃのこ、おんにゃのこ♪」


 大丈夫か、コイツ?


 まあ、年頃の娘であるムアンを見てはしゃぐのはまだ理解できる。

 でもチャオプはマズいだろ。コイツ、ロリコン趣味もあるのか。


「さあ、さあ、中に入りたまえ」


 しかしムアンもチャオプも足を動かさない。

 ムアンが中年男に確認する。


「あの……。コールワット様はご在宅でしょうか」

「いかにも。わたしがコールワット様だ」


 ニヤニヤしていて気持ちが悪い。それに汚い身なりが胡散臭い。

 この中年男は本当にムアンが探している占い師なのだろうか。


 ムアンもオレと同じことを思ったらしい。


「ここは偉い占い師の館でしょうか」

「とっても偉い人の家だ」

「ええと、占い師の館ですよね?」

「まあ……そう言われている。さあ、入った、入った」」


 奥歯に物が挟まったような受け答えだった。

 ムアンとチャオプが中に入っていく。

 続いてオレもシェムを抱えて入る。


「あっ、キミも入るの?」

「オレも入れてください!」


 中年男は舌打ちしたが、小屋に入れてくれた。

 横に並んだ椅子に座らされる。


 茶を運んできてくれた。だが二人分しかない。

 やはりオレとシェムの分はナシか。なんだよ、コイツ。


 中年男がムアンとチャオプの前に茶を置こうとする。

 しかし茶は置かれることなく、さげられてしまった。

 オレたちはポカンとしてしまった。


「女の子だと思ったのに!」

「確かにオレは男ですけど」

「そうじゃない。メスが三匹、オスが一匹」

「はあ?」

「人間だと思ったのにぃーーーーーーー」


 どういうことだ? わけがわからない。

 ムアンとチャオプも呆気にとられている。


 中年男はオレたちを順に指差していった。


「スノードラゴン、ハツカネズミの化け物、猫の化け物、最悪な化け物」


 スノードラゴンについては理解できる。ハツカネズミと猫についてもまだいい。

 だけどムアンを指差して『最悪な化け物』とはなんだ?


 オレは膝上にシェムを乗せた。


「それって失礼じゃないですか。シェム(この子)を除けば皆人間です。化け物じゃありません。一応、オレとこのチャオプ(ちんちくりん)は、ネズミとドラゴンに関係しています。でもこっちのムアンに対して、化け物とはいったいどういうことですか」


 中年男がムアンを見ながらニヤッと笑う。


「さっさと帽子を取りなさい。ここは室内だ。失礼だぞ」


 ムアンは脱ぎたくないと言わんばかりに、両手で帽子を押さえた。


 オレとチャオプは目配せする。

 ムアンに帽子を取らせてはならない。

 彼女の頭頂部ハゲは極秘事項なのだ!


 ムアンを守るべく、二人で中年男に言う。


「すみませんが、彼女に帽子を脱がせるわけにはいきません」

「そうそう、ムアンは単なる毛髪の病気ってだけだ。フサフサしてるぞ」


 おい、チャオプ。バラしてどうする。

 中年男は首をかしげた。



「えっ、ハゲなのか?」

「ハゲじゃなーーーーーーーーーーーーーいっ」



 ムアンは帽子を取った。


 オレは初めてムアンの頭を目にした。チャオプもきっとそのはずだ。

 彼女は決してハゲではなかった。ハゲについてはオレたちの誤解だった。

 しかし頭には小さな角が二本生えていた。



 えええええええっ!

 頭に角……。しかも二本も。



 目玉が飛びだすかと思うくらいビックリした。

 頭の角を隠すためにずっと帽子を被っていたのか。


 ジロジロ見るのは良くないだろう。だからすぐに目をそらした。


 問題はチャオプだ。

 ヘンなことを口に出して言わないでくれよな。

 ああ、なんだか心配だ。


 しかしそれは杞憂だった。彼女もちゃんとわかっているようだ。

 常識的な振る舞いができるようなのでホッとした。

 てか、普段からそうであってくれよ。


「角だな」と中年男。


「角じゃありません。オデキができただけです」


 ムアンはそう言うが、明らかに角だ。


「ここに来た理由は、その角のことか?」

「違います。実はわたしには記憶がありません。その記憶を取り戻す方法が知りたくて参りました」

「ここは病院ではない。そっちへ行きなさい」

「有名な占い師の噂を聞きました。その占い師ならば記憶を取り戻す方法がわかるかもしれない、と言われたのです」

「ここに占い師などいるものか」


 オレは横から口を出した。


「じゃあ、アンタはなんなんですか!」

「なんなのかと訊かれても困る。少なくとも未来など見えない。単にちょっとだけ魔導が形として見えるだけだ。それを多くの人々が勘違いしているのだ」


 ふたたびムアンが口を開く。


「占い師でなくとも結構です。ご存じならば教えてください。わたしの記憶は戻らないのでしょうか」

「それはわからない。けれども……」


 中年男は目を瞑った。

 ムアンに鼻を近づけ、くんくんと嗅ぐ。


「よく似た魔導をかつて感じたことがある。ただし感じが似ているだけで、まったく別の魔導の形だった。そう、明らかに別物。しかし形の異なるものが、どうしてこれほどそっくりに感じられるのだろう」


「感じの似た魔導? ならば記憶をなくす前、わたしは魔導士だったのかしら」


「それは知らん。とにかく……もしかするとその魔導を有する人物と対面すれば、何かわかるかもしれないような気がしないでもない」


 ずいぶんと自信なさそうな言い方だ。


「それってどこの人ですか。どこに行けば会えるのでしょうか」

「いまもそこにいるという保証はない。だがその場所は確か……ソンクラムという都市国家だったかな」


 ソンクラム!!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ