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第37話 <黒髪少女視点②>


 プリーストと呼ばれた男が、ソードマスターという女に言う。


「ほう、ソードマスターの試合か。これはいい。ならばド派手にやってくれ。俺たちのパーティーは、まだプロとしてデビューしたばかりだ。多くの人々から目をかけられれば、それだけチャンスが生まれる。有名になることはトップへの近道なんだ。いいか、ちゃんと勝てよ?」


 どうやらわたしは彼らの宣伝道具にされるらしい。





    ◇





 その夜、闘技場に連れていかれた。


 闘技場はプリーストという男の親戚が所有している私営施設だという。そのため定期的に開かれるイベントに、わたしたちの試合をエキシビジョンとして無理矢理押し込むことができたらしい。


 控え室で係員から試合の説明があった。寸止めルールであり、また木剣を使用するというものだ。わたしが森でファーストたちに勝てたのは、白煙剣があったからこそだ。しかしこの試合ではそれが使えない。まあ、当然といえば当然だ。殺し合いとは違うのだから。


 わたしたちの試合の時間となった――。


 多くの観衆の中、闘技台にのぼっていく。

 司会が両手を広げ、観衆に言う。


「いま始まるのは若き女剣士の戦い。最初に紹介するのはこちらの剣士。彼女の所属する冒険者パーティーは、おととい仲間全員の歳が十五に達し、ようやくプロとして認められてばかりだ。しかし不幸にも仲間の一人を亡くしてしまった。本日はそんな悲しみを乗り越え、彼女はここに立っている。一人の剣士として。そう、これがプロの魂。亡くなった仲間の墓前で、必ず勝つと誓ってきたのだ」


 観衆からは割れるような拍手。


 そしてわたしの紹介に移った……。ところがその内容は悪意に満ちており、嘘八百を並べられてしまった。わたしはまったくの悪役だ。


 そもそもセカンドの妹分の顔はなんなのだ? しっかりと化粧されているではないか。話が違う。控え室では、真剣勝負なのだからと言われ、体裁を整えることを許されなかった。髪に櫛を通すことさえ禁じられたので、いまボサボサになっている。


 そこまでだったらいい。最悪なのは強制的に左の義手をつけられたことだ。

 闘技者の片方にハンディがあったなどと、観衆から思われては困るからだとか。

 義手なんて邪魔だし、重たいし、痛い。これでは動きが悪くなってしまう。

 わたしにとっては、逆に大きなハンディでしかない。


 ここでセカンドの妹分から提案があった。


「プロとして木剣は使いたくありません。本物の剣を互いに使用することを希望します」


 彼女の視線がわたしに向く。ノリノリの観客からはさらなる拍手が湧いた。


「好きにすれば?」


 そう答えたことにより話が決まった。

 わたしは本物の剣の代わりに、白煙剣を右手に生じさせた。


 試合開始――。


 義手という大きなハンディを課せられたものの、白煙剣使用中は体が軽くなり、素早い動きが可能。だから彼女の剣は、わたしを捉えることができないでいた。


 しかし相手も特殊スキルの使い手だった。それらを使ってきたのだ。

 雷光斬と風月斬――そんなワザ名を口にしながら。


 さすがは特殊スキル。襲ってくる剣は豪雨のようだった。

 それでもなんとか払いのけ、自分の間合いで戦うことができた。


 そしてついに、彼女の剣を真っ二つに切った。

 これで勝負あった!


 このとき、ぞくぞくっと寒気を覚えた。

 何故か観衆の一人と目が合った。

 その瞬間、わたしの体は動かなくなった。


 彼のことを知っている。プリーストと呼ばれていた男だ。

 

 もしや魔導を使われたのか?

 だとすれば反則ではないか。

 それ以前に、もう勝負はついたはずだ。

 さっきわたしが相手の剣を切ったのだから。


 セカンドの妹分は刃の欠けた剣を捨て、腰にさげたダガーを抜いた。

 そして動けないわたしの腹に突き刺した。激痛が走る。


 ここで試合が終わった。


 わたしは負けの判定をくだされた。

 同時に、やっと体が動くようになった。


 こんなのおかしい。


 わたしの勝ちではないか。

 魔導による反則もあった。


 いくら抗議をしても受け入れられないどころか、それがますます悪役を演じる結果となってしまった。観衆から野次や汚い言葉を浴びせられた。


 しかし腹部の出血が酷くなり、床に両膝をつく。

 一応、回復薬(ポーション)で応急処置を施された。


 司会が中央に立ち、観衆に言う。


「さあ、『美しすぎる女剣士』の堂々たるデビューに拍手を!」


 またもや大拍手だ。司会が話を続ける。


「そして試合前の取り決めにより、敗者は奴隷として商品化が決まっている。もちろん必ず実行され、取り消されることはない。これがプロの厳しい世界なのだ!」


 なんだ、なんだ、何が奴隷だ。どういうことだ?


「嘘だ! そんな話は聞いてないぞ」


 何度も床を叩いた。


 観衆の中からプリーストの笑みが見えた。

 同様の笑顔を浮かべている者が正面にもいる。

 セカンドの妹分がわたしを見おろしていた。


 ああ、嵌められた!

 奴隷の話にしたって、試合後に決められたのだ。


 司会が近づいてくる。


「事前に交わした約束事をなかったことにしようとは、この黒髪剣士は根っからの悪党だ! やはり奴隷になるのが相応しいぞ」


 馬鹿な。確かにわたしが勝っていた試合だ。

 奴隷として売られるべきはあいつだ。



 わたしは他人を信じられなくなった。人間が嫌いだ。





    ◇





 奴隷を扱う組織に売られていく。

 牢馬車に乗せられるとき、ファーストたちの顔が見えた。


 わたしがこんなことになっていても、彼女たちの日常は変わらない。

 皆、何ごともなかったように、普段どおり笑っていた。


 着いたところは要塞のように大きな武装基地。

 そこの地下牢へと放り込まれた。


 多くの人々が収容されていた。わたしはそこの誰とも関わらなかった。

 くる日もくる日も、人が運び込まれてきた。だが興味はなかった。



 そして、きょう五日ぶりに組織の幹部がこの地下牢へ来た。

 商品奴隷となる者を選んで連れていくためだ。

 その幹部は手下からカモーイ様と呼ばれていた。

 やはりわたしには興味もない。


 被収容者の筋肉青年が、その男の首をはねた。

 兜を被ったまま首が床を転がる。


 首をはねた筋肉青年は、そのまま牢から出ていった。

 続いて老人が彼の跡を追った。


 次に牢を出ていったのはわたしだった。別に何かをしたかったわけではない。

 何日もずっと寝続けていたので、ただ歩きたくなっただけだ。


 大きな武装基地の内部を歩く。

 たちまち剣を持った者たちに見つかり、囲まれた。


 牢で死体を目にしてから気分が悪かった。

 もっと気分が悪くなるようにと、死体を増やしてみることにした。

 白煙剣で次々と彼らを斬った。


 ひたすら歩き続ける。

 どこを歩いているのかなんて考えていなかった。


 くだり階段をおりてみたところでハッとした。

 元の地下牢に戻ってきてしまったのだ。


 カモーイや手下たちの死体は、床に転がったままだった。

 皆、よくこんなところにずっといられるものだ。


 死体は剣や盾を奪われていた。

 なおも被収容者たちによって、鎧を奪われようとしている。

 その死体は首がないので、カモーイの骸だとわかる。


 鎧を脱がされたカモーイ……。


 立派な鎧だった。奪った者はそれを高々と掲げた。

 喜色を浮かべながら、さっそく装着を試みる。

 そのとき鎧の内側から何かが落ちた。

 鎧を身につけたあとで、床に落ちたものを拾う。


「なんだ、この紙キレは? 手紙かな」


 彼がそれを読みあげる。


「猫紳士様、帽子淑女様、幼淑女様、タハーン様。この手紙があなた方に読まれていることを願います。この手紙が読まれているということは、わたしがあなた方に殺されたということでしょう。しかし殺されるべくして殺されたのです。どうぞ気にされないでください……」


 手紙の冒頭はそんな書きだしだった。


 宛先の四人目だけが、何故か固有名詞だった。もちろん誰のことなのか、わたしにわかるはずがない。それでも『猫紳士様』や『帽子淑女様』ともあるので、だいたい推測できる。牢内にそのような小集団がいたのを覚えている。いま彼らはこの場にいなかった。


 読みあげられている手紙によれば、その小集団の中にいた老人こそがカモーイだというではないか。つまりこの殺された者は本物のカモーイではなく、組織の被害者だったようだ。


 その場の皆から驚愕の声があがった。

 読み手はさっき奪った鎧を慌てて脱いだ。


 さらに手紙が読み続けられる。


 この手紙に書かれていたのは、四人に向けられた謝罪と弁明、老人カモーイの危険性について、それから娘二人の保護依頼だった。


 しかしこの手紙はリスクがありすぎる。もし老人カモーイに読まれたら、娘二人は危険に晒されるはずだ。それでも手紙を書いたのは『老人カモーイに読まれようが読まれまいが、娘たちの結果は同じことになる』と考えたからだろう。手紙の受取手が老人カモーイを始末しない限り、娘たちが無事に済むことはなさそうだ。



 またタハーンという人物についても長々と書かれていた。

 その内容に正直驚いた。なんという因果だろうか――。


 わたしは読み手から強引に手紙を奪った。

 地下牢から出て階段をのぼっていく。


 ああ、どうして……。

 いまの自分の行動が不可解だった。


 わたしは人間が嫌いになったはずなのに。

 この手紙を書いた死人のことなどどうでもいいのに。

 ヒトとしての感情を捨てたのではなかったのか。



 通路を適当に進んでいく。

 途中からは死体を見つけながら進んだ。



 広い部屋を発見。誰かいる。


 筋肉青年と老人だ。例の小集団にいた顔だった。

 間違いない。この二人こそタハーンとカモーイだ。


 老人の手底に眩しい光の槍が生じている。

 これから筋肉青年に向けて放つつもりのようだ。


 わたしは老人の背後から白煙剣を振りおろした。



「うわぁーーーーーーーーーーー」



 老人は叫びながら前のめりに倒れた。

 彼の気絶を確認したあとで、止血する。

 ここで殺してしまうのはもったいないからだ。


 筋肉青年には、まだかろうじて息があった。

 彼が死ぬ前に聞かせてやらなくてはならない。

 耳に届くかどうかは不明だが、手紙を声に出して読んでいく。


 手紙の書き手――すなわち首を切られて死んだ男――は、筋肉青年の名前を初めて聞いたとき、顔がザーッと青ざめていくのを自覚したそうだ。


 なぜなら、タハーンという名前を忘れていなかったからだ……。


 数年前、手紙の書き手はある少女を誘拐した。

 少女は何日も何日も泣き続けた。『タハーン兄様』と口にしながら。


 筋肉青年と『タハーン兄様』が同一人物だとは限らない。同名でも別人の可能性がある。それでも手紙には『どうせ殺されるのならば、タハーンに殺してもらうのが本望』と記載があった。


 つまり手紙の書き手の望みは叶ったことになる。

 もし両者のタハーンが同一人物ならば、妹のカタキを討ったことにもなる。



 動かない筋肉青年をその場に残し、猫少年たちを探しにいくことにした。

 意識のない老人を引きずりながら、ふたたび通路を歩く。



 ようやく猫少年たちを発見した。



  කුකුකුකුකුකු  黒髪少女視点終わり  කුකුකුකුකුකු


 次話から主人公ラングの話に戻ります。

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