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第35話 <ファラン視点>


  කුකුකුකුකුකු  ファラン視点  කුකුකුකුකුකු



 話は数日前に遡る。

 ワシは山麓の町に来ていた。


 きょうは仕事のことをいっさい考えないようにしよう。

 たまにはリフレッシュが必要だ。


 酒を飲みに店に入った。

 昼から飲む酒は贅沢な気分にさせてくれる。

 だが美味い酒はなかったので、すぐに店を出た。


 店の隣が冒険者ギルドだったことに気づいた。

 小さな町の割には賑わっている。冷やかしに入ってみるか。


 建物の中に入ってみると、若者――というより少年――が掲示板の前で頭をさげていた。誘拐団と化した匪賊の壊滅に協力を求めているようだ。


 ヤツは頭がおかしいのか? 冒険者ごときに何ができる。いまや、くだんの誘拐組織は大国の軍隊にも匹敵するほどの武力を持っているというのに。ワシは笑わずにはいられなかった。


 冒険者たちの声が聞こえてきた。


 その少年はファイアリザードを倒すほどの実力を持っているとか。

 これには驚いた。同時に興味が湧いてきた。なんて面白そうなガキんちょだ。


 いくら待っても、賛同する冒険者はいなかった。

 少年がギルドの建物を去ろうとする。


 おや――?

 少年の背中を追う者がいた。


「ちょっと待ってくれないか」


 少年に声をかけたのは、まだ二十代と思える若者だった。

 誘拐団壊滅の話に乗り気なようではないか。


 これはますます面白くなっていきそうだ。

 ワシも声をかけずにはいられなくなった。


「ワシも加わるぞ」





    ◇





 少年には仲間がいた。若い女と童女の二人だ。

 彼女たちはなかなかの器量好しだった。

 何やらお遊びで冒険者パーティーの真似をしているらしい。


 彼らにはまた別の協力者もいた。

 驚いたことに、ワシの知っている顔ではないか。

 父親と二人の娘だ。しかし名前までは知らない。


 逆に親子はワシの顔を知らないようだ。

 まあ、知るはずがない。なぜなら……。


 とにかくどんどん面白くなっていく。笑いが止まらない。

 ワシは親子について知らぬフリを通すことにした。



 さっそくこの一団は匪賊壊滅に向けて出発した。



 荷馬車で魔物街道を走っていると、二体の百目巨人アルゴスが現われてくれた。これはいい! 子供のくせにファイアリザードを倒したらしいが、その話の真偽をいま確認できるかもしれない。さあさあ、楽しませてくれよ。嘘でしたなんて言わせんぞ。


 ワシは二体の魔物を見あげた。


「二体ねえ……。四体だったら各自一体ずつ相手にすれば良かったのだが、まあ、そんな都合のいい話などあるまい。そうだ! まずは、我々に依頼を出したアンタらの実力が見たい」


 ここで少年が言う。


「なあに、ここはオレ一人で……」


 ほう、強気じゃないか。

 と思ったら……。


「……やっぱ、せっかくなんで二人でやってみようかな」


 まあいい。一度に二人の戦い方が見られるのだ。


 ここでなんと、少年の隣で童女が姿を変えたではないか。

 髪が真っ白になっていく。顔つきも少し大人っぽくなった。

 驚愕せずにはいられなかった。この童女は魔物だったのか……?


 二人は奇妙なワザを見せてくれた。


 童女は白い息で百目巨人アルゴスを凍りつかせ、さらに蹴りで破砕した。少年は半透明な空気の塊のようなもので、百目巨人アルゴスをノックアウトした。なかなかやるものだ。


 荷馬車が進む。そしてトロールの群れに遭遇したとき、今度は若者の実力を見ることになった。彼は腰から剣を抜き、群れの中へと突っ込んでいく。いわゆる筋肉馬鹿だった。だが、なんとトロールの群れを造作もなく一掃。剣の腕はたいしたものだ。


 いいものを見せてもらった礼に、ワシも実力の一部を見せてやろう。


 しばらくすると上空にグリフォンを発見。ちょうどいいターゲットだ。突風を起こし、さらに火球魔導でグリフォンを倒してみせた。どうだ、お前らには負けておるまい?



 なんであれ、少年や若者の実力は認めざるを得ない。

 そこであることを考えた――。


 トイレ休憩で馬車を停めさせる。

 休憩中、荷馬車の御者(姉妹の父)に接触した。

 ヒト気のないところへと連れだしていく。


「久しぶりだな」


 姉妹の父は首をかしげた。


「は?」

「二人の娘は相変わらず美しかった」

「えーと、あの……」

「ワシの声に聞き覚えがないのか」

「ファランさんの声に?」


 ここでワシは声音を少しさげた。


「ファランは偽名だ。気づかなかったか。ワシの名はカモーイだ」

「カ、カ、カモーイ様!?」


 姉妹の父は慌ててその場に土下座した。


 この男はかつて町医者だった。美しい妻を実質的に奪われて、組織の仕事に加担するようになったのは、我が弟分の目の治療に失敗したためだった。これまでよく働いてくれたものだ。


 だがこの男はワシの素顔を知らなかった。

 普段、ワシは兜で顔を覆っていたから当然だ。


「すぐ立て! 誰かに見られたらどうする」


 少年たちの実力を知ったワシとしては、このまま小さなアジトへ向かわせるわけにはいかなくなった。あそこには戦力になるような者は少ないし、ワシ一人で少年たちすべてを相手にするのも危険だ。


 姉妹の父に告げる。


「二つ目の橋を渡り終えたら、右に曲がって進め。我々の武装基地へ行く」


 行き先は小さなアジトから大きなアジトに変更。

 そこには組織の戦闘要員が待機しているうえ、我々の秘密兵器もある。


 そう。秘密兵器――。

 少年たちの実力をこの目で見たが、ワシらに敵うはずがない。


「で、ですが……」

「なんだ。言ってみろ」

「彼らの強さは半端ではございません」

「ほう。ヤツらにひざまずけと?」

「とんでもございません」


 姉妹の父は少年たちのことをだいぶ恐れているようだ。


「安心しろ。我々には秘密兵器があるではないか。ヤツらの力は秘密兵器(アレ)の足元にも及ぶまい。そういえば、お前の娘たちはイイ女になったな。お前の女房にそっくりだ。あれは良かった……。また抱きたいものだ」


 顔をあげる姉妹の父。

 憤怒の形相で睨んでいるではないか。


「なんだ。文句でもあるのか。お前の女房の話をしていたら、いろいろと思いだしてきたぞ。あれは次第にヒトじゃなくなっていった。メス豚だ。夫であるお前があの姿を見たら、どう感じていたことだろう。次は娘二人の番かな」


「そ、それだけはご勘弁を!」


 ふたたび額を地面につける。何度も何度もワシに許しを請うた。

 こうしてワシは姉妹の父を素直に従わせた。


 メモ程度の手紙をササッと書き、姉妹の父に持たせた。

 アジトに到着したらそれをワシの部下に渡すように命令した。

 姉妹の父にワシのフリをさせろ、と書いておいたのだ。


 ワシのフリをしたコイツは、少年たちに殺されるだろう。

 ハハハハハ。組織を裏切ろうとした罰だ。





    ◇





 ワシの指示どおり、荷馬車は武装基地(大アジト)へと向かっていった。

 そしてこれも指示どおりだが、停車したのは南門前。

 この南門にはワシの素顔を知っている者がいないからだ。


 案の定、組織の仲間にはバレず、地下牢へと連れられていった。

 いまごろ姉妹の父はワシの部下に手紙を渡している頃だろう。

 ヤツが逃げることなどあり得まい。娘二人が危険にさらされるわけだから。


 それにしても牢内は不潔だ。メシも不味い。

 こんなところに、あと二日もいなくちゃならんのか。

 などと思いつつも、ワシはわくわくしていた。

 これから楽しいイベントが見られるかもしれないからだ。



 いよいよ、その日がやってきた。



 ワシに扮した姉妹の父が、仲間とともに地下牢へとおりてくる。

 いま姉妹の父が連れている手下は、正規の組織員ではないはずだ。

 どうせ誰かがどこかで拾ってきた借金債務者だろう。

 姉妹の父のことを『カモーイ様』と、手紙の指示どおりに呼んでいる。


 タハーンという若者が剣を抜いた。


 この何も知らない筋肉馬鹿は、姉妹の父や手下を殺した。

 あっさり殺してしまうところは残念だった。

 もっとイタブってからでないとつまらない。

 まあ、それについては初めから期待はしていなかったが。


 タハーンは地下牢を出たというのに、少年たちはグズグズしている。

 おいおい、いっしょに行動しないのか? ワシの体は一つしかないのだぞ。

 二班に分かれたら、片方の行動が見られないだろ。


 どっちについていこう。

 面白そうなのは筋肉馬鹿の方だ。

 ワシはタハーンを追った。


 この男、組織員たちを次々と屠っていきやがった。

 さすがはトロールの群れを一人で殲滅しただけのことはある。

 やれやれだ。そろそろワシの出番だろうか。


 耳に手を当てる。


「いま女の悲鳴が聞こえたぞ。反抗的な奴隷の処刑でも始まるのかのう」


 もちろんそんな悲鳴などなかった。


「どこだ、どこから悲鳴が聞こえた!」

「こっちの方だ」


 タハーンをある部屋へと導いた。広い部屋だ。

 部屋にドアはないが、出入り口が小さいので問題はない。

 ここでパイアという魔物が飼育されている。凶暴な巨大イノシシだ。


 タハーンが部屋に入ると、パイアが巨躯を起こした。

 ワシは出入り口に立ちはだかる。もう逃げられまい。

 さあ、見せてくれ。お前の勇敢な戦いっぷりを。


「おい、ここにヒトはいないじゃないか。ファラン、そこをどけ!」

「はて……。ワシには悲鳴が聞こえているが。とにかくその魔物を倒してみせよ」

「まさか、お前?」


 タハーンはワシに長く気を取られているわけにはいかなかった。

 パイアの猛突進――バトルが始まった。


 なんと……予想に反してタハーンが善戦している。

 人間がパイアに勝つのか? ありえない。大魔導士でもない限りは。

 そしてとんでもないことになった――。


 タハーンのヤツは負傷しながらも、パイアを屠りやがったのだ。


 さすがに満身創痍となったようだが、危険な男には変わりない。本当はもっと楽しませてもらいたいところだが、可愛い部下たちが全滅させられてしまう。ならばここでワシがヤツを終わりにしてくれよう。


 懐に隠しておいた袋を天井に向かって投げた。


「そーれ、回復薬(ポーション)だ」


 もちろん回復薬(ポーション)ではなく毒薬だ。

 中身の液体が飛び散っていく。

 苦しそうに悲鳴をあげるタハーン。


 ではトドメといこうか。


 てのひらに『光の槍』を作った。

 そーれ、喰らってみるがいい。



「うわぁーーーーーーーーーーー」



 叫んだのはタハーンではない。ワシだ。

 背後から誰かに斬りつけられたのだ。


 誰だ。例の少年か?


 振り返ってみると、一人の少女だった。

 少年の仲間ではない。


 見覚えがあるような……ないような……。

 ああ、思いだした。確かにあの牢にいた。

 黒髪で片腕の少女が。


 ワシはそのまま気を失った。



  කුකුකුකුකුකු  ファラン視点終わり  කුකුකුකුකුකු


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