第29話 変質者
「変質者!!!!」
元の姿に戻ったオレは、姉妹たちに変質者扱いされてしまった。
でもネズミ化するために素っ裸になったのだから仕方がない。
それにしても、さすがムアンは堂々としたものだ。
両手で前を隠す。
「てか、ムアン。さっきなんでオレを口の中に入れたんだよ。食われたかと思ったじゃん!」
「シェムがいつもやってたでしょ? ラングを元の姿に戻すためにパクりって。わたしも真似てみたのよ。ほら、成功したじゃない」
まあ、確かに人間の姿に戻れた。
でもこの状況はいったい……。
姉妹といっしょにいるのは中年男。
その三人が身を寄せ合って怯えている。
やはりグルだったのだ。
オレたちはずっと騙されていたというわけだ。
「こういうことだったとはな」
ムアンが首肯する。
「誘拐後の段取りを話し合っていたわ」
誘拐といえば奴隷……。また嫌なことを思いだしてしまった。パーティー仲間に裏切られた怒りと悲しみが、ふたたび心の底から溢れ出していく。
こんなヤツらでも話を聞いてみるか。どうせならシェムとチャオプも呼び、皆でいっしょに話を聞こう。厚い壁をぶち破れば、中に入ってこられるはずだ。
「チャオプ、いまからそこの壁をブッ壊す。離れていてくれよ」
壁の向こうからOKの返事があった。
オレは『風ネズミ』をブッ放した
……つもりだった。
はあ? 何故だ。
どうして風ネズミが使えないんだ?
「まだか、師匠?」
「お、おう。ちょっと待て」
小さなハツカネズミと同様だったか。
シェムがいないところじゃ使えないとはな。
それならばと内側から手で壁を開けた。
太い木材を取り去ると、ラクに開いたのだ。
初めからこうすべきだったか。
ムアンのもとへと戻った。
シェムが入ってきたので抱きかかえる。
チャオプも入ってきた。
眉間にシワを寄せる。
「ややや、師匠!」
「どうした?」
「やっぱり変質者だったんだな」
ハッと気づいた。
足を鎖で繋がれたムアンの隣に、すっぽんぽんのオレが立っていたのだ。
「こ、これは違う……」
「見損なったぞ、師匠」
「オレじゃない! アイツらだ。アイツらが悪いっ」
中年と姉妹たちを指差した。
「師匠、指を差すな。わかったから早く両手で前を隠してくれ」
「それより預けておいた服をくれ」
衣服を受けとり、さっと上下着込んだ。
そのあとムアンと重りを繋ぐ鎖を外してやった。
あらためて中年と姉妹たちの話を聞く。
彼らは借金のために悪行を働いたようだ。
しかし誘拐は決して許されることではない。
すぐにでも警察へ突きだしたいところだが、町に警察はない。
法律も裁判もないのだ。
ならばオレたちが懲らしめるしかない。
誘拐行為なんて許せるものか!
かと言って、殺すつもりもない。
ではどうしよう。ボコボコに痛みつけるだけでいいのか?
それで終わりなんていうのも、ちょっと……。
そこでムアンとチャオプに提案する。
「コイツら、オレたちを売るために誘拐しようとしたんだろ。だったらさあ、逆にオレたちがコイツらを奴隷としないか? で、買い手を探して売り込む。売られていった人々の気持ちがよくわかるだろうし」
チャオプも満足そうな顔だ。
「お、お願いします。娘たちだけはどうか見逃してください!」
中年が土下座する。
おいおい。
「お前たちは『見逃してくれ』と言われたら、誘拐された人々を見逃したのか」
「それは……」
「だろ? 見逃せるわけがないんだよ」
チャオプが横から口を挟む。
「師匠、悪人顔になってるぞ」
「うるせっ」
「ねえ、ラング。他のやり方はないかしら。奴隷として売る以外で」
今度はムアンだ。
「ねーよ」
「あなたが誘拐行為を憎む気持ちはよくわかるわ」
「じゃあ問題ないだろ」
「ううん、もっといいこと考えたの」
「なんだよ」
「彼らに一つ、仕事をしてもらうのがいいと思って」
「仕事?」
オレが首をかしげると、ムアンはニコッと目を細めた。
「元を叩くのよ。誘拐被害者たちの引き渡し場所に、連れてってもらうの」
「そいつらの話に出てきた『匪賊』とやらを叩き潰すってか。なるほど」
実のところ、自分がやろうとしていたことに、違和感を抱いていた。人間を奴隷としたり売ったりという行為は、最も嫌い憎んできたことだ。それなのに、相手がいくら悪人だとは言え、オレが同じ悪行を為そうとしていた。だからこそムアンの提案には救われた思いがした。
中年が震えながら言う。
「それは困ります。アジトへの案内なんてできません。アジトををバラせば、我々親子が消されてしまいます」
「ならばバラす必要ないわ。わたしたちを奴隷としてアジトに納めにいくの。初めからそのつもりだったわけでしょ?」
つまり奴隷のフリして連れられていった先で、大暴れするってことだな。
「だったら売られていくのはオレ一人でいい。初級魔導士は高値がつくんだろ」
「師匠、わたしもいくぞ。龍騎士の誇りにかけて師匠を守る」
「わたしも行くわ」
「冒険者じゃないムアンが行くのは危険すぎる」
「あら? それじゃ匪賊との戦闘中、シェムちゃんを守るのは誰になるのかしら」
「わかった……。ムアン、ついてきてくれ。イザというときはシェムを頼む」
だがムアンは首を振るのだった。
「まだ話は終わりじゃないわ」
「他に何があるっていうんだ」
「匪賊の規模の問題よ。バックに構えているのが巨大な組織かもしれないでしょ」
「じゃあ、やっぱりやめろってか」
彼女はまた首を振った。
「ううん、念には念を入れるってこと。敵の正体をきちんと把握できていない限りは、仲間を大勢増やさないと危険。この町にも冒険者ギルドがあったでしょ? それを利用するの」
オレは身を乗りだした。
「なるほど。冒険者ギルドに、誘拐団と化した匪賊征伐の依頼を出すのか」
「そうよ、ラング。そうすれば、より手堅く勝利できるはず」
チャオプがふうっと溜息を吐く。
「あのさあ。カネの問題はどうするんだ?」
何を言うか、チャオプ。
でもまあ、言いたいことはわかる。
冒険者というのは職業なのだ。一般人が冒険者に依頼する際には報酬の支払いが必要。これについては、この旅に出るまであまりよく知らなかった。だから初めて入った酒場では、恥を掻くことになった。
だが……。
「もし一般人が依頼するのならば、確かにカネが要るようだな。だけどチャオプは知らないのか? 冒険者がギルドを通して依頼する際、ギルドも請負人も依頼者に金品を要求してはいけないんだ。これは冒険者スクールでしっかり習ったことだ。つまりカネはかからない」
「ふう。これだから机上のことしか知らない学生は……」
なんだかチャオプが偉そうだ。
「話のどこに問題がある?」
「依頼だけならば無料だし自由だ。けれどいっしょに戦う仲間を募ったとして、タダで参戦してくれるような冒険者が存在すると思うのか。冒険者っていうのは職業なんだ。報酬のない仕事は見向きもされないぞ」
確かに……。
オレもムアンも黙ってしまった。
「でも師匠、ムアン。ダメ元で依頼してみるのもいいと思う。世の中には奇特な冒険者がいるかもしれないし」
「そうだな。とりあえずはギルドへ行ってみよう。それにまったくタダの仕事だと決まったわけじゃない。ギルドの宣伝になるような活躍ができれば、スズメの涙ほどだけど、ギルド特別金が支払われる場合もあるって習ったんだ」
こうして話は決まった。




