第25話 盛りに盛った武勇伝?
姉妹たちの家に招かれることになった。
彼女たちの家は山麓の町にある。
馬車は町に入っていき、川辺で停車した。
橋の手前にはたくさんの車両。奥には厩もある。
貸し馬車屋の看板を見つけた。
馬車はここでレンタルしたものだったらしい。
馬車を返却したのち、徒歩で橋を渡った。
しばらく歩いて姉妹たちの家に到着。
家に入れてもらった。
「今晩、泊まってってね」と姉妹の姉。
それはありがたい。
ふと思った。この状況……。多くの女子たちの中で男子はオレ一人だけ。これってハーレムみたいじゃん! 姉妹たちとムアン……でもチャオプはガキだから、カウントからは除外だな。そしてなんといってもシェムがいる。シェムはオレの大本命だ。
「だよなぁー、シェム」
「ミャー」
◇
ムアンが提案する。
「今夜、皆で酒場に行ってみない?」
「大賛成! ムアンもお酒が好きなのかしら」
嬉しそうな姉妹の姉。酒好きなのか。
「ううん、そういうことじゃないけど……」
小さく首を横に振るムアン。
ここで彼女がハッとする。
「……やっぱり酒場じゃなくて食堂にしましょ」
姉はチャオプを見てコクりと首肯した。
なるほど。言いたいことは容易にわかった。
よしっ、オレが言ってやる。
「チャオプはガキだからなあ。そりゃ酒場には入れないだろう」
「えっ、あなたは……?」と姉。
「オレか? 最近、十五になったんだ。だから大人だ。大丈夫」
何故か姉は困惑しているようだ。
代わって妹が言う。
「十五が大人って。どこの国の話よ?」
「なんだとっ、十五で大人だと認められない国もあるのか」
「いやいや、それが普通だから」
そうか。ソンクラムが例外だったのか……。
ラオラオ町の酒場でジロジロ見られていたわけが理解できた。
「じゃあ、オレも酒場に入るのは違法ってことか」
「この町はどこの国にも属していないから、法律なんてないわ」
「法律がない?」
「十五で大人というのはあまりに早すぎるとは思うけど、この町は何歳から大人っていう決まりはないの。公安とか警察とかそういうのもないわ。だから逮捕も裁判もない。だけど悪いことをしたら、町の皆から閉めだされる。ただそれだけよ」
続いて姉が言う。
「お酒が飲みたいのなら、買ってくるけど?」
ムアンは首を左右させた。
「そうじゃないの。明日、山に入るからいろいろ情報が欲しいと思って。酒場ならたくさんの話が聞けるでしょ。別にどうしてもっていうわけじゃないの。酒場は無理でも、皆で食堂へ行きましょうよ」
「それならいい場所があるわ」と姉が口角を吊りあげる。「町の冒険者ギルドが経営しているレストラン&バーがあるの。冒険者の溜まり場にもなってるから、山の情報は入りやすいと思うわ。もちろん小さな子も入れるし」
オレはシェムを両手で抱えた。
「この子も大丈夫だろうか」
「猫ちゃんも大丈夫よ。使い魔を連れた冒険者だって店にたくさん来てるし」
「そりゃいい!」
冒険者ギルド経営のレストラン&バーへ行くのは、夜になってからだ。
それまでまだ時間があるので、シェムといっしょに散歩へ出かけた。
途中でムアンの姿を見かけた。
町の若者たちと話し込んでいる。
ナンパでもされているのか?
嫌がっているのなら止めに入るべきだが……。
彼女のようすからは、どちらともとれない。
「あら、ラング」
彼女がオレを見咎めた。
オレはとりあえず寄っていった。
「何してんだ」
「山の情報を集めてるのよ」
彼女が礼を言うと、若者たちは去っていった。
単なる聞き込みだったらしい。
「何かいい情報、入った?」
「うーん、微妙ね」
「それにしても情報収集に熱心だな。酒場に行こうって提案もそうだったし」
「ああ、あれは半分違うの」
半分違う? 情報集めのためって言ったはずだろ。
彼女は目を細めて笑うのだった。
「だって、あの姉妹たちたいへんでしょ? わたしたちを家に泊めるとなると、料理もふるまおうとするかもしれないじゃない。馬車旅で疲れてるはずなのに」
どうやらあれは姉妹たちを気遣っての提案だったようだ。
◇
夜、冒険者ギルド経営のレストラン&バーに皆で入った。
屋外テラス式の店だった。
オレたちが席に着くと、男たちに口笛を吹かれた。
若い女人が多いからだろう。しかし彼らはオレと目が合うと嫌な顔をする。
こんな店で情報収集なんてできるだろうか?
ムアンが昼間、山について集めてきた情報はこんなものだった――。
・秘宝が隠されているのは確かなようだが、値打ちのあるものは少ない。
・中腹までの魔物はあまり強くないので、ウォーミングアップにちょうどいい。
・それ以上のぼると強い魔物にも遭遇する。だがヤバすぎる魔物は出現しない。
・中級冒険者が経験を積むには、おあつらえ向きである。
・したがって上級冒険者は滅多に来ない。
残念ながら、占い師について知っている者はいなかったらしい。
近くのテーブルから武勇伝が聞こえてくる。
話の内容を聞く限り、その山は本当に中級者向けらしい。
聞こえてきた魔物の名前を拾っていく。
トロール、ケルベロス、ローパー、マンティコア……。
冒険者スクールに通っていた頃ならば、その名を聞いただけで震えあがるものばかりだった。しかしネズミ関係(?)の能力を得たオレとしては、なんとなく物足りないような気もする。
客の男たちの一人がこっちを向く。
「聞き耳を立ててなんのつもりだ? 俺たちの冒険話に興味あるのか」
「ごめんなさい。実はオレたち明日にでも山をのぼる予定で、情報が欲しくて」
別の酔っ払い男が言う。
「ボクちゃんたちは少年冒険者でちゅか? ガハハハハ」
「オレのいたソンクラムでは、十五から立派な大人だ」
また別の誰かが言う。
「へえ、ソンクラム? あの軍事都市国家から来たのか。そういえば聞いたことがあるぞ。確か……多くの兵士や冒険者を確保するため、十代半ばとか早いうちから成人と見做すんだったな」
そんな事情があったとは知らなかった。
また別の誰かが言う。
「そんじゃ大人のあんちゃんたちは、最近、何か魔物を倒したのか」
その質問、待ってました!
胸を張って答える。
「きょうはファイアリザードとオーガを」
どっと笑いが沸き起こる。
なんだ、その笑いは?
どちらも弱小ではないはずだ。
少なくともトロールやケルベロスよりもずっと強敵だぞ。
「それから他には?」
「数日前はポイズンベアとかユニコーンも……」
また笑いの渦に包まれた。
「あんちゃん、俺たちを笑い死にさせるつもりか」
「いやいや。それらの魔物は強敵だぞ。それらを倒してきたんだ」
「まいったぜ。ポイズンベアはともかく、ユニコーンまで出してくるとはな」
「なんでユニコーンがダメなんだ?」
よく考えろといわんばかりに、男は人差し指で頭を差した。
「話は多少盛ってもいい。ここじゃそれも笑って許される。だけどな、あんちゃんの話にはリアリティがなさすぎる。だいたいユニコーンを倒せるほどの上級冒険者が、あの山なんかにのぼるかよ。そのうえファイアリザードだ? あれはなあ、軍隊をもってしても、なかなか倒せない魔物なんだぞ」
いや、何体も倒してきたのだが……。
話だってまったく盛ってないぞ。
ムアンが耳語する。
「気にすることはないわ。彼らにとって倒すのが信じられないような魔物を、倒してきたってことでしょ。ラングの実力は彼らより遙かに上ってことなのよ。そう考えれば爽快じゃない?」
それもそうだ。無理に信じてもらえなくてもいい。
別に武勇伝を聞かせるために、ここへ来たのではない。
逆に彼らの武勇伝でわかったことがある。
とりあえず山で遭遇する魔物には楽勝できそうだ。
おや? どうしたのだろう。
連れの姉妹たちのようすがおかしい。
妹については顔が青ざめているではないか。
彼女たちに問う。
「大丈夫? あまり体調が良さそうではないみたいだけど」
「い、いいえ。それより……本当にファイアリザードやユニコーンを?」
「もちろん。この旅で最初に倒した記念すべき魔物こそ、ユニコーンなんだ」
「ひええええええええええ」
「ファイアリザードについては、えーと……全部で何体倒してきただろう」
「ひいいいいいいいいいい」
その奇声はなんだ? 姉妹たちは飲み過ぎたのか。
だけど……さほど飲んでいなかったようだったが。
彼女たちは急用を思いだしたとかで、先に帰っていってしまった。




