表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/100

第23話 旅の途中


 徒歩で町へ向かっている途中、またもや魔物に出くわした。

 まるで蛇のような枝を持った食人植物だった。

 根っこを足のようにして歩くさまは、なんとも気味が悪い。


 だが、毎度のごとくネズミ化し、食人植物を倒すことができた。

 もちろん最後にはシェムがオレを呑み込んだ。



 目を覚ましてみると、今回は素っ裸のままだった。

 いままでは服を着せてもらっていたのだが。


「あら、目を覚ましたのね。お疲れ様でした」


 微笑みかけているのはムアンだ。

 そんな彼女に尋ねてみる。股間を手で隠しながら。


「ええと、オレの服はどこだろう?」

「もうちょっと待ってて」

「えっ? あの……」


 てか、彼女は何をやっているのだ。


「汚れていたから洗濯しておいたわ。綻びもあったから縫っているところよ」


 淡々と答えるムアン。


「ど、どうも感謝します……てか、オレ裸なんだけど」

「いいじゃない。そういう露出狂みたいなの、もうみーんな慣れっこだし」


 露出狂ってなんだよ。慣れっこってなんだよ。

 もはや彼女はキャッとも言わなくなっている。


 続いてチャオプの声。


「師匠、本当かっ。やはり露出狂だったのか」

「ち・が・う!!」





    ◇





 衣類が縫い終わるまで、木陰で休むことにした。

 そよ風が気持ちいい。ああ、また眠くなった……。



 くっくっくっくっ


 ケモ耳少女が笑っている。

 てことは、ここは夢か。

 だけど……。


「何を笑ってるんだ?」

「素敵なアダ名をいただきましたね。露出狂」

「露出狂じゃねえ!」


 ケモ耳少女が小首をかしげる。


「怒っていらっしゃるのですか」

「あたりまえだ」

「てっきり喜んでるとばかり思っていました」


 馬鹿なこと言うな。


「で、オレに用があって出てきたんじゃないのか?」

「はい、そうです。前回の夢で言いそびれましたので」


 そういえば何か言おうとしてたっけ。


「じゃあ話してみてくれ」

「前回のレベルアップで、戦闘が少しラクになるかもしれません」

「本当か」

「はい、服を脱がなくてもよくなります」

「そりゃいい! ならばもう露出狂なんて呼ばれなくて済むな」

「風ネズミと唱えてみてください」

「わかった。風ネズミだな」





    ◇





「おい、露出狂、露出狂、露出狂っ」


 誰かが呼んでいる?

 目が覚めた。


「やっと目が覚めたか。露しゅ……師匠!」

「いま、オレを露出狂って呼んでただろ」


 慌てて首を横に振るチャオプ。


「そんなことはないぞ、師匠。師匠に失礼なことを言うわけがない。てか、綻びの修繕はとっくに終わってる。それにもうほとんど乾いてる。師匠はいつまで素っ裸のままなんだ? きょうはいくら暑いからって」


「わっ」


 チャオプがこの恰好にまったく動じずにいるから、オレもすっかり着衣した気分になっていたではないか。とうとうチャオプまでも慣れっこになってしまったとはな。


 だけどこんな恥ずかしい思いをするのは、これで最後かもしれない。

 そう。夢の中でケモ耳少女が話してくれたことがある。

 あれが本当ならば――――。


 風ネズミ……どんなものなんだろう。


「早く服着てくれ、師匠。すぐ出発しよう」

「わかったから急かすな」


 ムアンから服とズボンを受けとった。

 服を着ている最中にチャオプが呼ぶ。


「師匠、師匠」

「どうした」


「師匠が居眠りしてたときのことだ」

「おう」


「わたしは師匠の服を干したんだ」

「そりゃどうも。で?」


「そのあと、この猛暑に堪えきれなくなった」

「ふうん、それで?」


「ムアンと二人で川泳ぎした。どうだ、そそるだろ」

「別に」

「別にってなんだ。乙女二人が川泳ぎだぞ」


 ぷうっと頬を膨らませるチャオプ。


「そんなくだらない話をしたかったのか」

「違う、違う。その話はいったん置いといて、ムアンのことだ」

「ムアンがどうしたって?」


 チャオプが小声になる。


「泳いでいるときも帽子を被ったままだったんだ。下はすっぽんぽんなのにさ」

「そういえば帽子を取ったときのムアンを見たことなかったな」

「ヘンだろ?」

「確かにヘンだ。あたま蒸れるだろうし」

「わかったことがある」


 あどけない顔がニヤッとする。


「何がわかった?」

「内緒だぞ。わたしの名推理によると、ムアンの頭頂部、きっとハゲなんだ」

「ハゲだったのか」





    ◇





 オレたちはふたたび歩いた。

 林を越え、草地も越え、岩地を進む。

 やがて道が道らしくなってきた。


 前方に馬車を発見。

 立ち往生している。

 事故か?


 道なりに進み、馬車の近くまできた。

 溝に車輪が挟まっているではないか。

 こりゃ、たいへんだ。


 二人の若い女が車両の裏から現われた。

 どちらも薄紫のワンピースを着ている。


「すみません。力を貸してもらえませんか」

「そこの馬車、あなたたちのものですか」


 オレが尋ねると、二人は「はい」と言って首肯した。

 とても困った顔をしている。


「山麓の町に帰る途中、このとおり馬車が動かなくなっちゃって」

「溝にハマった車輪をあげればいいのかな。喜んで手伝うよ」

「助かるわ。ありがとうございます」


 二人は大喜びし、頭を深くさげた。


 さっそく皆で車両のサイドに立った。

 車両を押しあげようとする。


「せーのー、よいしょっ」


 グッと足を踏ん張る。

 しかしなかなか持ちあがらない。


「師匠! 男のくせに非力だな」


「うるせー。魔導士ってのはなあ、そもそも肉体労働はしないもんなんだ。むしろチャオプのような龍騎士こそ、肉体労働向きだと思うぞ?」


「そ、そうなのか。だったらもっと頑張る! ぬぬぬぬぬぅーーーー」


 だが車両はビクともしなかった。


「力で持ちあげるのは難しそうね」とムアン。


 そう、ここには怪力の持ち主なんていない。

 こんなときプリーストがいたら、なんとかなったかもしれない。


 くそっ、くそっ、くそっ、オレは何を考えている。

 ヤツのことなんか思いだしたくもない。


 皆、いったん車両から手を離した。


 薄紫のワンピースの二人が目配せしている。

 片方がオレたちに尋ねてきた。


「ごめんなさい。決して聞き耳を立てるつもりはなかったのよ。でもさっき聞こえてしまったので……。あのう、そちらにいるは龍騎士様なの?」


 チャオプが偉そうに胸を張る。


「えへんっ。いかにもわたしは龍騎士様だ」

「まあ! 龍騎士様なんて、伝説の中だけに登場するものだと思っていたわ」


 一応、真実を伝えておく。


「でもドラゴンがいないんで、龍騎士なんて名ばかりだ」


 いてっ


 チャオプがオレの足を踏みつけやがった。

 薄紫のワンピースのもう一人が言う。


「あなたは魔導士様というお話のようだけど、その魔導で馬車を動かせないものかしら」

「無理無理無理。師匠は初歩魔導しか扱えないから」


 チャオプめ、さっきの仕返しのつもりだな。

 両手で彼女の頬をつねり、左右に引っぱった。


「チャオプ、面白い顔になってるぞ」


 彼女もオレの頬を引っぱり返す。


「師匠だってずいぶんと滑稽な顔になったぞ」

「いでででで。謝るからやめてくれ~」


「ところで、あなたはどんな冒険者様なの?」


 ワンピースの若い女たちの視線はムアンに向けられた。


「わたしは冒険者じゃないわ。冒険者に同行しているだけ。なんの特殊能力もない一般人よ」

「だったら、わたしたち姉妹と同じね」


 ワンピースの若い女たちは姉妹だったらしい。

 言われてみれば、目元や鼻が少し似ている。



 さて。『てこの原理』で車両を動かせないか、という話になった。

 しかし頑丈な棒が都合良く見つかるようなことはなかった。

 地道な作業になるが、溝の周りを掘ってみることにした。


 時間をかけることで、ようやく車輪が溝から出てくれた。

 姉妹がふたたび深々と頭をさげる。


「おかげで馬車を走らせることができるわ。もし山麓の町へ向かっているのなら、この馬車でいっしょにどう?」


「オレたちも乗せてくれるのか。それはとても助かるよ」

「そうだ。山麓の町に着いたら、ぜひわたしたちの家に来て」


 オレたちは彼女たちの言葉に甘えることにした。

 馬車がガタゴトと揺れ始める。


 ところが馬車はすぐに停まってしまった。

 馬車を操る姉妹の姉が、大きな声をあげる。


「きゃあ! 賊よ、賊」


 賊だって? ああ、本当だ。


 確かに前方に人が立っている。

 やれやれ。また賊騒ぎかよ。


 さらに姉妹の妹が言う。


「しかもオーガを連れてるわね」


 そりゃ見ればわかるが……。

 賊とオーガの組み合わせか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ