第23話 旅の途中
徒歩で町へ向かっている途中、またもや魔物に出くわした。
まるで蛇のような枝を持った食人植物だった。
根っこを足のようにして歩くさまは、なんとも気味が悪い。
だが、毎度のごとくネズミ化し、食人植物を倒すことができた。
もちろん最後にはシェムがオレを呑み込んだ。
目を覚ましてみると、今回は素っ裸のままだった。
いままでは服を着せてもらっていたのだが。
「あら、目を覚ましたのね。お疲れ様でした」
微笑みかけているのはムアンだ。
そんな彼女に尋ねてみる。股間を手で隠しながら。
「ええと、オレの服はどこだろう?」
「もうちょっと待ってて」
「えっ? あの……」
てか、彼女は何をやっているのだ。
「汚れていたから洗濯しておいたわ。綻びもあったから縫っているところよ」
淡々と答えるムアン。
「ど、どうも感謝します……てか、オレ裸なんだけど」
「いいじゃない。そういう露出狂みたいなの、もうみーんな慣れっこだし」
露出狂ってなんだよ。慣れっこってなんだよ。
もはや彼女はキャッとも言わなくなっている。
続いてチャオプの声。
「師匠、本当かっ。やはり露出狂だったのか」
「ち・が・う!!」
◇
衣類が縫い終わるまで、木陰で休むことにした。
そよ風が気持ちいい。ああ、また眠くなった……。
くっくっくっくっ
ケモ耳少女が笑っている。
てことは、ここは夢か。
だけど……。
「何を笑ってるんだ?」
「素敵なアダ名をいただきましたね。露出狂」
「露出狂じゃねえ!」
ケモ耳少女が小首をかしげる。
「怒っていらっしゃるのですか」
「あたりまえだ」
「てっきり喜んでるとばかり思っていました」
馬鹿なこと言うな。
「で、オレに用があって出てきたんじゃないのか?」
「はい、そうです。前回の夢で言いそびれましたので」
そういえば何か言おうとしてたっけ。
「じゃあ話してみてくれ」
「前回のレベルアップで、戦闘が少しラクになるかもしれません」
「本当か」
「はい、服を脱がなくてもよくなります」
「そりゃいい! ならばもう露出狂なんて呼ばれなくて済むな」
「風ネズミと唱えてみてください」
「わかった。風ネズミだな」
◇
「おい、露出狂、露出狂、露出狂っ」
誰かが呼んでいる?
目が覚めた。
「やっと目が覚めたか。露しゅ……師匠!」
「いま、オレを露出狂って呼んでただろ」
慌てて首を横に振るチャオプ。
「そんなことはないぞ、師匠。師匠に失礼なことを言うわけがない。てか、綻びの修繕はとっくに終わってる。それにもうほとんど乾いてる。師匠はいつまで素っ裸のままなんだ? きょうはいくら暑いからって」
「わっ」
チャオプがこの恰好にまったく動じずにいるから、オレもすっかり着衣した気分になっていたではないか。とうとうチャオプまでも慣れっこになってしまったとはな。
だけどこんな恥ずかしい思いをするのは、これで最後かもしれない。
そう。夢の中でケモ耳少女が話してくれたことがある。
あれが本当ならば――――。
風ネズミ……どんなものなんだろう。
「早く服着てくれ、師匠。すぐ出発しよう」
「わかったから急かすな」
ムアンから服とズボンを受けとった。
服を着ている最中にチャオプが呼ぶ。
「師匠、師匠」
「どうした」
「師匠が居眠りしてたときのことだ」
「おう」
「わたしは師匠の服を干したんだ」
「そりゃどうも。で?」
「そのあと、この猛暑に堪えきれなくなった」
「ふうん、それで?」
「ムアンと二人で川泳ぎした。どうだ、そそるだろ」
「別に」
「別にってなんだ。乙女二人が川泳ぎだぞ」
ぷうっと頬を膨らませるチャオプ。
「そんなくだらない話をしたかったのか」
「違う、違う。その話はいったん置いといて、ムアンのことだ」
「ムアンがどうしたって?」
チャオプが小声になる。
「泳いでいるときも帽子を被ったままだったんだ。下はすっぽんぽんなのにさ」
「そういえば帽子を取ったときのムアンを見たことなかったな」
「ヘンだろ?」
「確かにヘンだ。あたま蒸れるだろうし」
「わかったことがある」
あどけない顔がニヤッとする。
「何がわかった?」
「内緒だぞ。わたしの名推理によると、ムアンの頭頂部、きっとハゲなんだ」
「ハゲだったのか」
◇
オレたちはふたたび歩いた。
林を越え、草地も越え、岩地を進む。
やがて道が道らしくなってきた。
前方に馬車を発見。
立ち往生している。
事故か?
道なりに進み、馬車の近くまできた。
溝に車輪が挟まっているではないか。
こりゃ、たいへんだ。
二人の若い女が車両の裏から現われた。
どちらも薄紫のワンピースを着ている。
「すみません。力を貸してもらえませんか」
「そこの馬車、あなたたちのものですか」
オレが尋ねると、二人は「はい」と言って首肯した。
とても困った顔をしている。
「山麓の町に帰る途中、このとおり馬車が動かなくなっちゃって」
「溝にハマった車輪をあげればいいのかな。喜んで手伝うよ」
「助かるわ。ありがとうございます」
二人は大喜びし、頭を深くさげた。
さっそく皆で車両のサイドに立った。
車両を押しあげようとする。
「せーのー、よいしょっ」
グッと足を踏ん張る。
しかしなかなか持ちあがらない。
「師匠! 男のくせに非力だな」
「うるせー。魔導士ってのはなあ、そもそも肉体労働はしないもんなんだ。むしろチャオプのような龍騎士こそ、肉体労働向きだと思うぞ?」
「そ、そうなのか。だったらもっと頑張る! ぬぬぬぬぬぅーーーー」
だが車両はビクともしなかった。
「力で持ちあげるのは難しそうね」とムアン。
そう、ここには怪力の持ち主なんていない。
こんなときプリーストがいたら、なんとかなったかもしれない。
くそっ、くそっ、くそっ、オレは何を考えている。
ヤツのことなんか思いだしたくもない。
皆、いったん車両から手を離した。
薄紫のワンピースの二人が目配せしている。
片方がオレたちに尋ねてきた。
「ごめんなさい。決して聞き耳を立てるつもりはなかったのよ。でもさっき聞こえてしまったので……。あのう、そちらにいるは龍騎士様なの?」
チャオプが偉そうに胸を張る。
「えへんっ。いかにもわたしは龍騎士様だ」
「まあ! 龍騎士様なんて、伝説の中だけに登場するものだと思っていたわ」
一応、真実を伝えておく。
「でもドラゴンがいないんで、龍騎士なんて名ばかりだ」
いてっ
チャオプがオレの足を踏みつけやがった。
薄紫のワンピースのもう一人が言う。
「あなたは魔導士様というお話のようだけど、その魔導で馬車を動かせないものかしら」
「無理無理無理。師匠は初歩魔導しか扱えないから」
チャオプめ、さっきの仕返しのつもりだな。
両手で彼女の頬をつねり、左右に引っぱった。
「チャオプ、面白い顔になってるぞ」
彼女もオレの頬を引っぱり返す。
「師匠だってずいぶんと滑稽な顔になったぞ」
「いでででで。謝るからやめてくれ~」
「ところで、あなたはどんな冒険者様なの?」
ワンピースの若い女たちの視線はムアンに向けられた。
「わたしは冒険者じゃないわ。冒険者に同行しているだけ。なんの特殊能力もない一般人よ」
「だったら、わたしたち姉妹と同じね」
ワンピースの若い女たちは姉妹だったらしい。
言われてみれば、目元や鼻が少し似ている。
さて。『てこの原理』で車両を動かせないか、という話になった。
しかし頑丈な棒が都合良く見つかるようなことはなかった。
地道な作業になるが、溝の周りを掘ってみることにした。
時間をかけることで、ようやく車輪が溝から出てくれた。
姉妹がふたたび深々と頭をさげる。
「おかげで馬車を走らせることができるわ。もし山麓の町へ向かっているのなら、この馬車でいっしょにどう?」
「オレたちも乗せてくれるのか。それはとても助かるよ」
「そうだ。山麓の町に着いたら、ぜひわたしたちの家に来て」
オレたちは彼女たちの言葉に甘えることにした。
馬車がガタゴトと揺れ始める。
ところが馬車はすぐに停まってしまった。
馬車を操る姉妹の姉が、大きな声をあげる。
「きゃあ! 賊よ、賊」
賊だって? ああ、本当だ。
確かに前方に人が立っている。
やれやれ。また賊騒ぎかよ。
さらに姉妹の妹が言う。
「しかもオーガを連れてるわね」
そりゃ見ればわかるが……。
賊とオーガの組み合わせか。




