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第17話 炎とハツカネズミ


 仮眠を終えたオレたちは相談を始めた。

 ターゲットは恐ろしいファイアリザードだ。

 いままでの魔物とはワケが違う。


 だが誰も引き返すことを主張しなかった。


 では、あのような強敵をどうやって倒せばいい? 

 厄介なのは地獄の業火のように凄まじい炎だ。

 小さなネズミなんてすぐに黒焦げとなるだろう。


 そこでオレは言う。


「物理攻撃でヤツをるのは難しい。しかし方法はある。なんてったってオレはウィザードだからな」


「いくらウィザードだとしても、師匠の初級魔導じゃ……。まさかこの前の水流魔導なんて考えてちゃいないよな? あのときは敵の服を少し濡らすのが精一杯だったし。さては師匠、まだ奥の手を隠していたのか? どんな魔導だ!」


 チャオプの目が輝く。

 大きな期待の眼差しだ。


「す、水流魔導です」

「ふう」


 チャオプが溜息を漏らす。


「おい、弟子のくせに失礼なリアクションだな」

「師匠がアホすぎる」


「ここは龍騎士としての特殊スキルに賭けるしかないのかしら」


 ムアンはそう言うが……。チャオプに頼るしかないのか?

 何やら誇らしそうに胸を張るチャオプ。

 

「うむ、わたしにしかできない」


 本当かよ。





    ◇





 いったん地底湖に戻ってきた。そこからふたたび川沿いを歩く。


 ファイアリザードの吐く炎は恐ろしい。だからいきなり襲われた場合、そこに跳び込むつもりだ。けれども川の水くらいであの炎を防げるのだろうか? そんな疑問が残る。実のところ川なんて、気休めとしても不十分だった。



 オレたちの足が止まる。



 ファイアリザードを発見したのだ。

 この遭遇が二体目となる。


 まだオレたちに気づいていないようだ。

 巨大な体に激しい炎をまとっている。

 近づくことさえ恐ろしい。


「さあ、チャオプ、龍騎士の出番だ」


 頼んだぞ?


「え……っ」

「どうした、チャオプ。何を怯えている」

「いや、ちょっと心の準備を」

「あーだ、こーだ、考えるな。とりあえず乗れ。乗ってみろ」

「師匠はそう簡単に言うけど、命がかかってるんだ」

「何が命だ、頑張れよ。男だろ」



 ぐへっ



「いきなり腹パンはやめろ。暴力反対……」

「いまのはラングが悪いわね」とムアン。


 チャオプの顔つきが変わる。キリッとなった。


「わかったよ、師匠。もう逃げない。わたしやってみる」

「チャオプ、やるって?」

「あれに乗る。特殊スキルの『乗龍』を試す。わたしに従わせる」


 オレは慌てて彼女の手を引いた。


「待て待て待て、さっきのは冗談だ。本気にするな。冷静になれ」

「いいや、わたしはやる! 逃げっぱなしじゃ、何も変わらない」

「よく考えてみろ。失敗したら死ぬんだぞ。謝るから待ってくれ」

「だって、わたしがやるしかないだろ」


 チャオプのくせにカッケーじゃん。

 でもダメだ。絶対にさせない。


「ヤツをしっかり見てみるがいい。ほら、あの炎だぞ」


 チャオプは首を左右させる。


「もう決めたんだ。見ててくれ、師匠」


 まさか本当にやる気を出すとは思わなかった。

 こうなったら力尽くで止めるしかない。


 彼女の腕を再度引こうとしたとき、シェムがミャーと鳴いた。


 なんだ? 悪いが待ってくれ、シェム。

 いまはちょっと忙しいんだ。

 あとでたくさん遊んでやるから我慢してくれ。




 ああああああああああああああっ




 オレの体が縮んでいく。

 おいおい、嘘だろ。


 やだ、やだ、やだ!

 あんなのを相手にしたくはない。

 炎のバケモノに向かうなんて無謀だ。

 マジで死ぬ。焼き焦げて死ぬ!


 意識が朦朧としてきた。

 前足を地面について四つん這いに。

 服の隙間から外に出た。



 ああ、でもこれでチャオプを止められるのか。

 だったら……。



 大きな猫が目の前にいる。

 明らかにオレを狙っている。


 食われてしまう!


 全力で逃げた。思いっきり走った。

 巨大猫はまだ追ってくるだろうか。

 振り返る余裕はない。ひたすら前方へ直進。

 そして大ジャンプ。


 炎の中を突っ込んでいく。もちろん炎は強烈だ。

 だがそれより何より、背後の巨大猫が怖かった。

 うぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

 オレの小さな体が超巨大なトカゲの体を貫いた。



 岩床に着地。

 体は焦げてない。無事だった……。



 巨大猫に対する恐怖のあまり、炎の中が熱かったかどうかなんて覚えてない。

 それほど必死だったのである。だとしても、どうして無事に済んだのだろう。

 この体は炎にも堪えられるってことか。


 巨大猫が前方へ回り込んできた。

 もちろん逃げる。真後ろに向かって大ジャンプ。

 炎の中をくぐって超巨大トカゲの体を穿った。


 それを何度か繰り返したのち、最後は巨大猫がパクり。

 オレは呑み込まれた。





    ◇





 目を覚ます。あっ!


 ちょうど服を着せられているところだった。

 ムアンとチャオプの共同作業中だ。


「も、もういい。あとはオレが自分で着るから」


 オレは体を起こした。


「きゃっ」と驚きの声を発するムアン。

「師匠っ、こ……これはその……」と赤面するチャオプ。


 こっちまで恥ずかしくなってきた。

 なんたって素っ裸の状態から、着せてもらっていたのだから。


「前回もこんなふうに着せてもらっていたのか。礼を言わなきゃな。ありがとう」


 背中を向けるチャオプとは違い、ムアンはもはや平然としていた。

 しっかりオレの目を見ながら、優しい笑顔で言う。


「無事で何よりね。火傷の一つもなかったわ」


 なるほど、これが年上の余裕というやつなのか。

 と言っても彼女の年齢は不明だが。


「ところでファイアリザードは?」

「あなたが倒してくれたのよ」


 それを聞いて安堵した。


「じゃあファイアリザードの肝は?」


 沈んだ目をするムアン。


「灰になってたわ」


 彼女にもっと詳しく聞いてみると、ファイアリザードは動かなくなったあと、しばらく燃え続けていたそうだ。それでも燃え尽きたのち、肝を取りだそうとしてみたところ、灰しか残っていなかったらしい。


 すなわちファイアリザードの臓器等は、生きている間は燃えることがないにもかかわらず、死んだらちゃんと灰になるってことだ。ということは、死後すぐに肝を取りださなければならないようだ。でも烈火の炎の中からどうやって……。いい方法はないものか。


「そっか残念だ。うまくいかないもんだな」


「何言ってるのよ。残念なんかじゃないわ。灼熱の炎の中から無事に戻ってきたことだけでも奇跡なんだから。それどころか、あなたはあんな恐ろしい怪物を圧倒したのよ。信じられないことをやって見せたの。本当にビックリしちゃった。ラングの勇姿は素敵だったわ」


 ハツカネズミの姿を褒められても。

 ちょっと複雑だ。


「師匠……」


 今度はチャオプだ。

 やっとこっちを向いたが、半べそをかいていた。


「どうした、チャオプ。元気出せ。今回、肝は燃えてなくなったようだけど、きっと何か方法があるはずだ。またいっしょに考えようぜ」


「そうじゃない。師匠は……師匠は……無鉄砲なわたしを止めるために、死を覚悟してくれた。わたしが冷静さを失ったせいで、危険な敵に立ち向かっていくことになった」


「いやいや、誤解だ。ネズミ化は自分の意思でできるものじゃない」

「なんであろうと、わたしを守ってくれたんだ! 師匠ぉーーーー」


 チャオプが胸に飛び込んできた。彼女をガッチリ受け止める。

 いつものチャオプらしくなかった。ちょっと可愛げがある。


 シェムがニャーと鳴いた。

 地面から高くジャンプする。


 オレの胸で泣いているチャオプの頭上に着地。

 ところが着地は上手くいかなかったようだ。

 チャオプの頭からズリ落ちる。しかも爪を立てていた。



「痛――っ」とチャオプ


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