第16話 猛火の息吹
オレたちはファイアリザードを尾行することにした。
「おい、チャオプ。龍騎士の特殊スキルで『乗龍』とかあっただろ。なんでそれを試さなかったんだよ?」
「あんなもんに乗ったら、わたしが丸焼けになるだろ」
「豚の丸焼きって。いくら謙遜のつもりでも、それは言い過ぎじゃないか」
「誰も言ってないぞ! それにわたしは痩せっぽちだと言われてる」
うごっ
チャオプに後頭部を殴られて失神。
意識が戻ると、チャオプに背負われていた。
「あの、チャオプさん?」
「気がついたか、師匠」
「ええと、ここは……」
「師匠は鳥頭か。ファイアリザードを追ってきたんじゃないか」
どういうことだ?
ファイアリザードなんて、どこにもいないぞ。
もしいれば炎ですぐにわかるはず……。
あ、いた。
ヤツの体から火が消えかかっている。だからすぐに見つけられなかったのだ。激しい炎に包まれていたときには確認できなかったが、ヤツの表皮は黄色とオレンジのまだら模様だった。
「どうして火が弱くなったんだろう」
ムアンが小声で答える。
「自分の意思で火力を調節できるみたいね。いまは隠れているのよ」
「ファイアリザードが隠れてるって?」
「そうよ。ファイアリザードの先、よーく目を凝らしてみて」
やはり何も見えない。位置が悪いのだろうか。
チャオプの背中から離れ、少し横にズレてみる。
岩柱の間から何かが見えた。
アレは……。
おおおおおおおおおおおおおお!
ドラゴンだ!!
真っ白で美しいドラゴンだった。
背中には翼が生えている。
すっげえ、ドラゴンなんて見るのは初めてだ。
ここに来て良かった。実物は感動するなあ!
ファイアリザードがドラゴンを獲物として狙っている。
オレたちに近づく足を止めたのは、このためだったようだ。
ファイアリザードが岩陰に隠れながら、徐々に進んでいく。
オレたちも少しずつ距離を詰めていった。
白いドラゴンがハッキリ見えるようになった。
頭には細長い角が二本あり、両方の頬には縦筋が一本ずつ走っている。
思っていたよりずっと小柄だったが、見れば見るほど美しい……。
白いドラゴンが長い首をよじった。
岩陰のファイアリザードに気づいたのだろう。
大きな翼を広げ、口も大きく開ける。
白い霧のようなものを吐いた。毒霧だろうか?
ファイアリザードは霧に包まれたが、ダメージを受けたようすはない。
岩陰から堂々と姿を現した。全身の炎が元の勢いを取り戻していく。
白いドラゴンに対して反撃を開始。
大きな口から灼熱の息吹を発する。
燃えさかる炎が白いドラゴンを直撃。
キィーーーーーーーーオ
白いドラゴンは甲高い声で鳴いた。
体を揺らし、翼を羽ばたかせる。
しかし体に着火した炎は消えない。
やがて岩床に沈む白いドラゴン。
ファイアリザードがそれを貪り食う。
ドラゴンすらも倒してしまう炎なんて……。
ファイアリザードとは恐ろしい魔物だ。
この信じられない光景に、オレたちは震えあがった。
しばらく放心状態となり、その場から動くことはなかった。
ふと我に返り、溜息を吐く。
こんなヤツの肝を入手なんてできるのだろうか。
ファイアリザードは去っていった。
◇
大きな洞窟に入ってからどのくらい経っただろうか。
洞窟の外は夜の帳がおりた頃かもしれない。
あるいはもう夜が明けているかもしれない。
皆で少しだけ仮眠をとることになった。
ムアンとチャオプは仲良く岩床に寝そべった。
オレは座ったままの状態で岩壁にもたれかかる。
ウトウトしかかったときのこと――。
ふぎゃっ
ムアンの声だ。
ただ、いつものムアンらしくない声の出し方だった。
何ごとかと目を開けてみる。
彼女の顔面にチャオプの足がヒットしていた。
なんという寝相の悪さだろう。
チャオプの頭と足の位置が、ひっくり返っているではないか。
少し仮眠するだけってことだったのに、熟睡かよ。
ムアンがむっくり起きあがる。
「わたしもそっち行くわね」
オレの隣にきて、岩壁に背中をつけて座る。
しばらくして肩に重みがかかった。
ムアンの頭が乗っている。ぐっすり眠っているようだ。
もしこれがチャオプだったら、押し返してやるところだ。
けれどもムアンはあんな色気のないガキとは違う。
正直なところ、大人の女性にこうされるのは悪くない。
てか、むしろ嬉しい。いい匂いだ。ドキドキする。
しかしこのまま喜んでいていいのだろうか?
いけないような気がする。
かといって、眠っている彼女を起こすのも気が引ける。
きっと考えすぎだ。このままこうしていよう。
オレも眠りに落ちた。
夢の中――。
白い靄がかかっている。
少女の姿を見つけた。
いつものケモ耳娘だ。
サファイアブルーの瞳がこっちを見ている。
「鼻の下伸ばしちゃって、みっともないですね」
少し険のある声だった。
はて、なんのことだろう。
彼女が消えていく。
「おい、待ってくれ」
しかし彼女は待ってくれず、見えなくなってしまった。
どこへ行ったのだろう。いろいろ話したかったのに。
ふぎゃっ
奇妙な声。またもやムアンのものだ。
さっきと声の出し方がまったく同じだった。
おかげでオレは目を覚ましてしまった。
奇妙な声の原因がわかった。
ムアンがオレの肩とは反対側に倒れたのだ。
驚いたようにパッと上体を起こす彼女。
そして周囲をキョロキョロし始めた。
シェムがミャーオと鳴きながら歩いてくる。
さあ、おいで。膝上に乗せて撫でてやった。
オレはもう一度眠ることにした。




