九話
「あ、あの、失礼な態度をとって申し訳ありません! 皇太子殿下だと知らなかったもので……不敬罪だけは……」
私は全力で頭を下げた。
今まさに行こうとしていた国の皇太子に不敬罪認定なんてされたら打ち首とかになるかもしれないですし、国に入国拒否されたら他の国に行くのも大変です。
こんなところで不敬罪をかけられるわけにはいきません。
「そんなことはしませんよ。マルドルク帝国の人間じゃなくても話くらいは聞いたことあるでしょう? 帝国は超実力至上主義国家。貴女のような人間をそう簡単に不敬罪にしたりしませんよ。
それに、助けてもらったのに不敬罪なんてするわけないでしょう」
呆れ顔でアティスがそう言ってくる。
「そうなんですか? 良かったぁ……」
「それで、えーと、名前を聞かせてもらっても?」
「マリアです」
「マリア、君はマルドルク帝国に行きたいのかい?」
「はい。この森を突っ切って帝国に行く予定です」
「そうか。それなら馬車に乗っていかないか? すぐそこに馬車が止めてある。それに、君を帝国で歓迎したい」
「歓迎してもらえるんですか!?」
「実力のある者は特に大歓迎さ。まぁ、君程の実力者なら帝国でも一位、二位を争うくらいだけどね。さぁ、馬車はこっちだ」
私はアティスについて森を少し歩いて行く。
すると、いかにも権力者が乗るような豪華な馬車が見えてきた。
「足元に気をつけて」
アティスが馬車の扉を開けてくれたので先に馬車に乗り込む。
うーん、皇太子様に馬車の扉を開けてもらうなんて事してもらっていいのかな?
「今後の予定とかは何かある?」
「いえ、特にないですね」
「なら、このまま帝都に向かおうか。助けてもらったお礼もしたいしね」
目的地が帝都に決まり馬車が動き出す。
……すごいスピード出てません?
「あの、この馬車速くないですか?」
「あぁそれはね、御者が馬に強化魔法をかけながら走っているからだよ。帝国一の速さの馬車だと言ってもいいくらいには速いと思うよ」
それはすごいですね。
「どのくらいで帝都に着くんですか?」
「このペースで行って7日ってところかな」
「結構かかるんですね」
「君がいた王国とは国土の差が六倍ほどあるからね」
デカっ!
「少し長旅になるけど我慢してくれ。その分帝都に戻ったら最高のベッドと食事、風呂を用意しよう」
あ、そういえばお風呂に長いこと入ってませんね。
それは助かります。