六話
「すいません、隣国のマルドルク帝国に行きたいんですけど、乗せてもらえそうな馬車ってあります?」
私は親切な商人のおじさんに村で降ろしてもらってから歩いてマルドルク帝国に一番近い街に来ていた。
今、乗れる馬車がないか確認している場所は冒険者ギルド。冒険者ギルドで護衛を雇っている商人が数人なら乗せてくれることがよくあるのだ。
護衛付きなのでそれなりのお金はかかるけど。
出来るだけ安いのがいいな!
「えーと、申し訳ありません。マルドルク帝国に行く馬車は現在ありませんね」
そんな馬鹿な。
一人として馬車を使って隣国に行く予定がないなんてありえないでしょ。
「一つもないんですか?」
まさか、お金を持ってなさそうな身なりだから雑に扱われているんじゃ……
「はい、そうなんですよ。つい昨日マルドルク帝国とこの街との間にある森に屍食鬼之王が出たという情報が入りまして、護衛依頼を出していた商人達が全員依頼を取り下げられてしまいまして」
なんだ、私がお金持ってなさそうだからじゃないんだ。疑ってごめんなさい。
それにしても屍食鬼之王なんて何百年に一度出るか出ないかの超高ランクモンスターじゃないですか。
今は森にいるからいいけど、もし街にやってきたら一時間もせずにこの街は壊滅する。下手をすれば国の一つや二つ滅ぶんじゃないかな?
「それは仕方ありませんね。誰も自分から死にに行くような真似はしたくないでしょうし。
お姉さんも、屍食鬼之王が街に進行してきたらすぐに逃げた方がいいですよ」
「大丈夫、その心配はないわ。今この街で最強のSランク冒険者パーティーが討伐に向かってくれてるから」
「そうなんですね。ありがとうございました」
私はお礼を言って冒険者ギルドを後にした。
あぁ、馬車がないなら歩くしかないよね……
急いで行けば3日くらいで国境に着くはずだし。
それにしてもこの街最強のパーティーが討伐に向かったって言ってたけど……多分勝てないよね。
仮に五人のパーティーだったとして、一人一人がこの国の王国騎士団長レベルだったとしてもほぼ希望ないし。
恐らくこれも結界と加護がなくなった影響だろうけど……それにしても出てくるのが強力すぎじゃない?
はぁ…私が森を通る時、会いませんように、会いませんように。
私は必要なものを揃えて、祈りながら街を出た。