五十一話
ギルアスカと対峙していたアティスは地面を割るほどの力で踏み込み、一瞬でギルアスカの元へと距離をつめる。
「なにッ!?」
「!?」
ギルアスカの口から困惑の声が漏れる。アティスも口には出さないが困惑しているようだった。
「ハァァァァッ!!」
アティスはギルアスカの首を狙い全力で剣を振った。
何故自分が地面を砕くほどの力で踏み込めたのか、なぜ今までの数倍の速さで距離をつめられたのか、唐突な出来事に困惑しているがこのチャンスを逃すわけにはいかない。
自分が圧倒的強者だと、目の前にいるアティスは自分より格下だと思っていたギルアスカはほんの少しアティスの攻撃への反応が遅れた。
(この一撃で、終わらせるッ!)
マリアによって常識を遥かに超えるほど強化されたアティスの一撃。ノーガードで当たれば相手が強力な魔族だとしてもその首を切り落とすことなど容易いだろう。
だが、アティスの剣が首に触れる直前、虚空から現れた真紅の剣がそれを受け止める。
「おい! お前! 一体何をした!? 踏み込む直前お前の気配が変わった。数瞬前まで取るに足らない雑魚だったはずだ! 一体何をした? 力が隠蔽されている気配もなかった。一体何をした?
答えろッ!」
アティスの剣を首から遠ざけ、鍔迫り合いの形になりながらギルアスカが怒りと困惑を混ぜ合わせたような声で問い詰める。
「何のことか、分からない、なッ!」
真紅の剣を弾き、後方へ飛び一旦距離をとる。
「分からないだと? ふざけるな! 何かしなければ雑魚だった貴様が、これほどの力を得られるわけないだろう!」
雑魚だった敵が一瞬にして力を増す。身体強化などとは比較にならない強化。
今まで経験したことのない状況にギルアスカは少々混乱していた。遥か昔、今よりずっと強力魔物がごろごろ存在し、ギルアスカと同等、それ以上の存在がいた数千年前でもギルアスカはここまで相手の実力を読み違えたことはなかった。
「俺に感知されずにここまで自身を強化する魔法を使うなど……一体どんな小細工を!」
数千年前の化け物であるギルアスカが魔法の発動を感知できなかった。だがそれは、仕方のないことだ。
そもそも魔法を使ったのはマリアであり、アティスはその効果を受けただけにすぎない。魔法の発動を感知しようとするのならばマリアの近くにいなければ不可能である。
「この力が小細工だろうと何だろうと関係ない。今私がやるべきことはお前を、殺すことだ!」
この手の甲の紋様を通してマリアが自身を強化してくれたのだろうと察したアティスはすぐにギルアスカとの距離をつめた。
(私をここまで強化できる魔法ならマリアに相当な負担がかかっているでしょう。
早々に決着をつけなければ)




