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三十四話



 街でユリアちゃんの関係者が見つからず、他の街も探してもらったが残念ながらユリアちゃんを知っている人物を見つけ出すことはできなかった。


 孤児院に入れてしまったけど、私のお給料が出て住む場所を手に入れたら迎えに行くという約束をした。流石にユリアちゃんを宮廷に招くわけにはいかないから少しの間孤児院にいてもらわなければならない。

 孤児院の環境が悪いとは思わないけど出来るだけ早く迎えに行きたい。


 そんなことをボーっと考えながら外の景色を眺めていた。

 身体は不規則なリズムで揺れている。

 村まで来た時のように地竜が全力で走っているわけではなく、馬並みのスピードに落として走ってくれているので馬車が怖いほど揺れたり、身体中が痛くなりそうな揺れではない。心地いいくらいの穏やかな揺れだ。


 そんな穏やか揺れの中で少し眠気を感じていると、『ピピピッ』という明るい音が聞こえた。

 何だろう そう思い音が聞こえた方に視線をやるとその視線の先にはアティスがいた。そもそもこの馬車の中には私とアティスしかいないので当然といえば当然だけど。


 「……」


 その明るい音を聞いたアティスはあからさまにに嫌そうな表情になる。まだたったの数週間しか一緒にいたことはないがアティスがこんなに露骨に嫌そうな表情をしたのは初めてだった。


 いったい何の音なんでしょう?


 「アティスさん?」


 「はぁ……」


 私が名前を呼ぶと大きなため息を吐いた。


 「この音って何ですか?」


 「この音は帝国の魔道具研究開発室で作られた超最新の連絡用魔道具です。

 まだ量産は出来ていませんし、色々な問題もあるので帝国とその近隣諸国に一つずつと私にしか渡されていない魔道具なのですが……」


 アティスはまた心底嫌そうな顔をする。


 「近隣諸国から私に連絡が来ることはありません。連絡が来るとすれば帝国にでしょう。だから私の持っている連絡用魔道具に連絡が来る時は帝国から、父さんからの連絡以外あり得ません。

 以前にも何度かこの魔道具で連絡をとっていますが、ロクな連絡が来たことがないんですよ」


 「そうなんですか……」


 話している間も鳴り続ける連絡用魔道具。

 アティスは渋々といった表情で片手サイズの魔道具を操作する。


 『おっ、やっと繋がったか』


 「何の用ですか? 父さん」


 『可愛い息子の声が聞きたくなったんだ』


 「……切りますよ」


 アティスは魔道具を切る準備を始める。


 『待て待て待て! 冗談だ!』


 「それで、要件は?」


 『たった今隣の王国から連絡が入ってな。確認できているだけでも高ランクモンスターの変異種が二体出現したらしい』


 「同時に二体? 流石にそんなこと……」


 『それだけじゃない。ネケラスという街には二、三万の魔物の大群が進行中らしい。その中にはホワイトウルフと思われる個体も確認済みだ。

 王国の戦力だけではどうにもならない、と救援要請が来た。

 何とか王国に近い街から軍を動かすが、それでも軍が王国に到着するまでは二、三日かかるだろう。

 それで、お前に先行して王国に行ってもらいたい。地竜ならそう時間はかからんだろう。今どの辺だ?』


 「まだミノタスロスを討伐した場所からそう離れていません。

 ここから全力で飛ばせば4時間ほどで王国内に入れます。その後は王国内の状況によりますが一日もあれば王都までたどり着けると思いますよ」


 『なら、頼んだぞ。アティス』


 「分かりましたよ、父さん。それにしても、今までで一番クレイジーな任務ではないですか?」


 苦笑いを浮かべながらアティスが言う。


 『王国の状況を聞く限りではそうかもな。王国も状況を全て確認できているわけではないそうだ。今後、また魔物が増える可能性も考えられる。

 無いとは思うが、我が息子アティスよ。死ぬなよ』


 真剣な声が魔道具から聞こえて来る。

 その声に応えるようにアティスが言う。


 「私は、二十八代も続いた最強の皇家に終止符を打った冒険者リベルの息子ですよ? 必ず生きて帰ります」


 『そうか。なら期待しているぞ』


 魔道具の電源が切られ、馬車の進行方向が反転する。


 「マリアさん、申し訳ないですがもう少しだけ仕事に付き合ってもらえますか?」


 「はい、分かりました。私は私の出来ることします」


 地竜が全速力で王国に向かって走り出す。

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[一言] 無双が見れるかな
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