三十二話 イオン視点
やっと父上の葬儀が終わった。
死体などさっさと埋めてしまえばいいものを。
わざわざ貴族を呼び集めて葬儀をする必要などないだろう。この時期に死んでくれたことには感謝するが、こんな時期だからこそ仕事を増やさないでほしい。
まぁ、何はともあれ葬儀は一通り終了した。私が国王になることもできた。
あとは国王即位の祝いをするぐらいだ。
少しだけ時間が空いた私は今王都の貴族街にいる。
久しぶりにミアとのデートができるからだ。
少し待っているとミアの姿が私の目に映った。
「久しぶりだなミア」
「はい、久しぶりですね、イオン……陛下?」
「やめてくれよ、何時ものままでいい」
私は笑いながらそうは言ったが、イオン陛下……ミアに呼んでもらうといい響きだ。
父上が死んでからイオン陛下と呼ばれてはいたがやはりミアに呼んでもらうと別格に気持ちが高鳴るな。
「それでは、行こうか」
ミアと手を繋ぎ、歩き出す。
久しぶりに会うということで、行きつけのカフェを予約させてある。
あそこのコーヒーは甘味・酸味・苦味のバランスが良く飲みやすい。深みのある私好みの味だ。
コーヒーを淹れる店主の腕もそこそこ上手い。
女子に人気のパンケーキもあり、前に一度ミアを連れて行った時はすごく喜んでくれたから軽いデートに最適な場所だろう。
「あの、イオン。結界がなくなってからその後は……?」
カフェまで歩く途中、ミアが申し訳なさそうに聞いてきた。
あのクソ女が全て悪いのにまだ気にしているなんて……
民が傷ついている事に罪悪感を覚えているんだろう。あの女と違って優しい子だ。
「あぁ、一番厄介だった変異種は討伐したし、その後何か強力な魔物が出たという報告はない。
依然として魔物が街に入り込んではいるが、始めの頃のように大きな増加傾向にはない。冒険者にも依頼は出しているし、魔物の侵入被害がなくなるのも、もうすぐだろう。
あんな女の魔力で張った結界など無くなったところで大したことはない。
大丈夫だ」
赤いオーガの討伐は成功した。
討伐隊にいた精鋭はほぼ全滅してしまったが、街への魔物の侵入被害の増加は少なくなりつつある。このままいけば抑え込むことも可能だろう。
「そう、ですか。それなら良かったです」
「ミアも、ケガ人の治療を頑張ってくれているそうじゃないか。
助かっている、ありがとう。ミア」
「い、いえ、私にできることをしただけです」
自分に非がないのに、人の為に尽くせるなんて流石ミアだ。
その後カフェに向かうまでは魔物や結界が絡まないような話をしながら歩いていた。
そして、もうカフェは目前という時。
「きゃぁぁぁぁあ!」
「うぁぁぁぁああ!」
「魔物だ! 魔物が街に入ってきたぞ!」
前から三つ目の狼が走ってくる。
走りながら近くの人間を爪で切り裂き、噛みつき、負傷させていく。
死んでいるものはいないが、足がぐちゃぐちゃになっている者など重症であろう人間も見受けられる。
一体、何が起こっている!?
増加のペースは弱まっているが、魔物が街に侵入する事件があることに変わりはない。
だが、ここは貴族街から出てすぐの場所だ。門の近くなどではない。街の中心部に近い場所だ。
そんな場所まで魔物が侵入した事例など、今までなかったではないか……!
門の警備は厳重、門をくぐり抜けたところにも騎士が待機している。それなのに、それを通り抜けてここまで来るなど……ありえない。
「ミア! 逃げるぞ!」
「う、は、はい!」
恐怖で硬直しているのか、動こうとしないミアの手を引いて私は走り出す。
だが、なんの訓練も受けておらず一般人と変わらないスペックしか持たない人間が三つ目の狼から逃げきれるわけがない。
近くにいる人間を攻撃しながら徐々に私たちの方へ向かって来る。
ミアと二人っきりのデートがしたい。
ルファルスにはそう言って護衛をつけるのをやめさせたが、裏目に出たか。
くそッ! ここまでか……!
三つ目の狼が私たちに追いつく直後、何処からか駆けつけた騎士が割って入り応戦する。
「お下がりください!」
「た、助かった」
辺りを見渡すと、負傷者が数多くいる。
今までの街に侵入した魔物の報告で一匹の魔物がこれほどの被害を出したことがあっただろうか?
これまでの報告で侵入したのはほぼ下級の魔物。だがこの魔物は? 見たことのない魔物だ。
少なくとも下級の魔物ではないだろう。これはもっと森の奥にいるような魔物だ。
抑え込める。
そう思っていたのが、間違いだったのか……?
「ミア、ここは危険だ。とにかく王城に行こう。あそこなら安全だ」
「分かりました!」
考えるのは後だ。
また何か侵入して来るかもしれない。とにかく安全を確保しなければ。




