三十一話
部屋の扉が開かれてアティスが入ってくる。
今、私たちがいるのはミノタウロスの討伐をした場所から最寄りの街ブロサス。
アティスが言うにはここ数日でこの街から子供が消える事件が発生していたらしい。この街に来てから二日目だけど今のところこの二日間で子供が消えると言う事件は起きていないので恐らくミノタウロスの仕業だったと見て間違いない。
影を操れるから街の子供を連れ去るなんて造作もなかったと思う。
だから私が助けた子もこの街の出身ではないかと思ってこの街の騎士に頼んで調査してもらっていた。
「どうでした、アティスさん?」
「ハズレですね。捜索願の中に彼女と一致しそうな人物のものはありませんでしたし、両親が亡くなっている可能性も考えて聞き込みもしてもらいましたがダメですね」
「そうですか……ごめんね、ユリアちゃん」
助けた子、ユリアちゃんに謝る。
騎士が探してくれていることもあって、絶対に見つかるなんて安易な言葉をかけてしまっていた。
まさか、見つからないなんて……
「謝らないで下さい……私が覚えていないのが悪いんですから」
ユリアちゃんには記憶がない。
ミノタウロスに食べられそうになった恐怖からか、連れ去られる時に頭でもぶつけたのか、それとももっと前からなのか分からないけど。
ユリアと言う名前も、そう呼ばれていたような気がすると言う曖昧なもので本当の名前かどうか定かではない。
正直なところ、この街から多く子供が消えた報告があるのと、ミノタウロスが近くにいたという事でこの街でユリアちゃんの親の捜索をしている。
だけど、本当のところそもそも帝国の人間かすら分からない。助けた直後はボロボロの服以外は何も身につけていなかったので、身元が分かるものがなかったからだ。
「一応、近隣の村、街も調査してみますがあまり期待しない方がいいと思います。
ミノタウロスが移動した痕跡があるのはせいぜいこの街付近の森まで。他の街に行った痕跡は無いですし、何十キロもある他の街まで影を操作出来たとは思えませんからね」
「じゃあ、ユリアちゃんは……」
「残念ながら孤児院に入れるしかありません。
私たちもずっとこの子の親を探しているわけには行きません。そもそも今この世にいるかどうかも分かりませんしね」
確かに、この世界で親がいない子供なんて珍しくない。ユリアちゃんがその類であっても不思議はない。
「そう、ですか……」
「孤児院と言っても、そこまで悪いところではありませんよ。親がいないと言っても、人並みの生活は送れます」
「気にしないでください。私は普通に生活できれば十分ですから」
ユリアちゃんは笑顔でそう言ってくるけど、少し強がっているように見える。
まだ10歳、11歳くらいなのに……
ここ二日間、妹ができたようで楽しかった。
実の妹はこんなに可愛くはなかったのに。
こんなに可愛い妹のような存在を易々と孤児院に入れるしかないのだろうか……?
せめて記憶さえ思い出してくれれば……
私は頭を抱えることしかできなかった。




