二十七話 騎士団員視点
荷物を捨てて戦闘を離脱した後、自分の着ていた鎧を脱ぎ捨ててネケラスに向かう。
討伐隊と赤いオーガとの戦闘の決着がどうなるか分からないが、既に死んでいる人間もいたし、あれだけ派手に死闘を繰り広げていたら行方不明者も出るだろう。
鎧だけ見つかれば、行方不明者の死体は魔物に食われてしまったと思ってくれる可能性も少なからず上がるだろうし、騎士団の鎧はすぐに気づかれてしまうので門番に怪しまれないためにも脱いでおいた方がいい。
鎧を脱ぎ捨てて軽くなった体で数十分走ると、一つの街が見えてくる。
王都の壁よりも低い壁で囲われている、大きな街。
騎士になってから一回も帰って来たことがなかった故郷だからすごく懐かしさを覚える。
俺は歩いて街に近づき、門の列に並ぶ。
数人しか並んでいないからすぐに街の中に入れるだろう。
それにしても……
ネケラスの門周辺に数人の騎士の姿が見える。街の中に二人、街の外に三人。
王都だけじゃなく、他の街でも魔物の侵入があるって話は本当だったんだな。
通常、街の中に魔物が侵入することはまずない。
街の周辺の強力魔物は騎士団や冒険者によって、あらかた討伐されているから街の周辺にいるのは下級の魔物がほとんどだ。
魔物は自分から街に近づいて来たりすることは滅多にないし、街に侵入しようとすることなどもっと珍しい。
仮に侵入しようとしても下級魔物程度、門番が始末できるはずだ。
それなのにこの警備。
本当に異常だ。
赤いオーガといい、魔物侵入といい、一体何がおきているんだ?
ここ数日では、壁を登って街に侵入しようとする魔物までいると聞いている。
民間人にも死者が出ている街もあるらしい。
無事でいてくれよ、エレナ。
「ネケラスへようこそ……あんたそんな格好で歩いて来たのかい?」
街に入る順番が来て、門番が不思議そうに訪ねてくる。
鎧も剣も捨ててきたので、服と持ってきたなけなしの金しか身につけていない姿なので仕方ない。流石にこんな格好で他の街や村から歩いてきたら魔物に襲われて死ぬ可能性が高いから不思議に思うのも無理はないだろう。
「近くまで馬車に乗せてもらっていましたので」
「そうなのか。でも、最近は魔物が人を襲う事例が増えててな、近くまで馬車に乗せてもらってても、ナイフか短剣くらいは持っておいた方がいいぜ」
「そうなんですね。次、街を出る時は買っておきます」
「そうしな。その方が身を守れる確率は上がるからな。
えーと、入市税で千リルだ」
俺は持ってきていた袋から金を取り出し、門番に渡す。
「通ってくれていいぞ」
門番からの許可が出たので門をくぐる。
門をくぐった後、真っ直ぐ自分の家に向かった。
数分歩くと一つの家に着く。
両親が生前四人で住むために購入した家だ。
四人で住むために買った家なので両親が居なくなってしまった今では少々広すぎる。
俺は自分の家の扉のドアノッカーで扉を叩き、妹の名前を呼ぶ。
「エレナー!」
まだ朝日が昇ってからそう時間は経っていない。学校に行くにしても早すぎるので家にいるはずだ。
だが、応答はない。
ドアノブを回してみるが鍵がかかっているようだ。
「エレナー!」
もう一度、先程より強く妹の名前を呼ぶ。
それでも応答がない。
まさか……
俺の頭の中に嫌な考えがよぎる。
魔物が街に侵入した際に死亡した民間人がいる。それがエレナではないのか。
そんな考えが頭によぎってしまう。
「そんなわけない、よな」
今までにない異常な事態。
妹が心配で、守るために帰ってきたのに。まさか死んでいるなんて……そんなことあるはずが無い。
そう思い直して、もう一度。
「エレナー!」
「お兄、ちゃん?」
「え?」
思わぬ方向から声が聞こえ、その方向に視線を向ける。
家の中からではなく、背後から声が聞こえた。
振り返って、視線を向けた先にいたのは紛れもなく俺の妹だった。




