二話
「な、何を言っているの?」
本当に理解できなかった。
さっきの婚約破棄よりもずっと理解できなかった。
私の妹ながら、この子は何を言っているんだろう?
「そのままの意味だよ。聖女ってさ、国の神様みたいな存在じゃん?
ちょっと結界と加護を維持してるだけなのにさぁ。それくらいなら私でもできるし、聖女の称号はイオンの婚約者のような美しい人間の方がいいと思うの。
それに、私はもっとイオンの婚約者としてふさわしくなりたいの。 いいでしょ?」
いい訳がない。
私じゃなければこの結界と加護は維持できない。他の人間じゃ、魔力量も技術も圧倒的に足りないはず。
「貴女じゃ無理よ、ミア」
「はぁ……お姉ちゃんに出来て、私に出来ないわけないでしょ?
それに、私だって聖女の資格持ってるんだけど」
確かにミアは聖女の資格を持っている。この国に私以外で聖女の資格を宿しているのは二人。
でも、今は私以外の聖女じゃ結界も加護も維持不可能よ。昔とは訳が違う。
「貴女は確かに聖女の資格を持っているかもしれないけど、今の状態では絶対に無理なの」
「おい、ミアが譲れと言っているんだ。譲れよ」
私がミアを説得しようとしているとイオンが威圧するように言ってくる。
「私が聖女の座を降りたら、確実にこの国は滅びますよ! いいんですか!」
「ミアだって聖女の資格を持っているんだ。問題ないだろう。
それに、お前なんかよりよっぽど国を守ってくれそうだ」
「くっ……」
私だって毎日毎日辛い思いをして国を守ってるのになんでこんなこと言われなきゃいけないの……
「私の権限で今日限りでお前の聖女資格を剥奪する。
そして、新しい聖女はミアとする。分かったな?」
「聖女の仕事をする人間が変わる時は国王の許可が必要なはずです!」
私は最後の抵抗を試みた。
聖女は国の重要な役目。聖女が居るか居ないかで戦争の勝敗が左右されることもあるほど重要だ。聖女の力量でどれだけ強力な結界を張れるかなども変わってくる。
そんな重要な役目である聖女は国王の許可が無いと解任、任命はできないはず。
「現在この国の最高決定権は俺にある」
「そんな訳ないでしょう!」
イオンは小馬鹿にするように私を見下して説明を始める。
「ちょうど、3日ほど前から父上が危篤状態でな。今はもう衰弱して話すこともできないらしい。あと一週間が山だって言われたよ。だからこの国のことは全て俺に一任されているんだ。
勿論、聖女のこともな。
本当に良いタイミングで倒れてくれたよ」
自分の父親が死にそうになってるのに、何言ってるの!?
ありえない……
こんな奴が今後国王になるなんて……そんな国に居たくないわ……
「分かったわ。譲ってあげる、ミア」
「最初からそう言ってよ。お姉ちゃん」
「それじゃあ。さようなら、ミア」
私はミアに最後の別れを告げて、部屋を出る。
とりあえず、この国にかかっている結界と加護を解いてと。
よしっ。
私は聖女としての仕事を辞め、国外に行くことにした。