十七話 イオン視点
マリアが一ヶ月の給料に驚いていた頃、王城にいるイオンも驚きを隠せない状況に陥っていた。
一つ違う点を挙げるとすれば、マリアの驚きとは違い悪い方の驚きだという事だろうか。
「ルファルス、すまないがもう一度言ってくれないか?」
「ここから西に220キロ程の場所にある街、ネケラスの騎士団員が街周辺の魔物を討伐中、赤いオーガに襲われたとのことです」
西に220キロだと!?
騎士団長が殺されてから動きがないと思って安心していたがまさかそんなに移動していたのか。
森でおとなしくしていればいいものを。
「襲われた騎士団員は?」
「命からがら逃げ出してきた一人は助かりましたが、他の四名は遺体で発見されたとのことです」
「そうか」
「それとですね、ネケラス近くの村が一つ壊滅した状態で見つかったとの報告もありました」
「それは赤いオーガの仕業か?」
「分かりません。発見された時には既に村人は一人残らず絶命、死体も魔物に食い荒らさせれていたそうです」
「そうか。だが、もし赤いオーガの仕業ならまずいな。
村を襲ったということは街を襲う可能性も高いだろう」
「もし赤いオーガにネケラスが襲われればひとたまりもありません。
あそこの街は小さくはありませんが、領主が雇っている騎士も少ないですし、騎士団員もそれほど多くありません」
「そう、だな」
だが、どうする?
ネケラスの戦力だけで赤いオーガ討伐は恐らく難しいだろう。
しかし、ここ数日さらに王都に侵入する魔物の数が増加。低ランクの魔物ではないものも侵入して平民が数人死亡している。そんな中、王都の騎士団員から精鋭を集め討伐隊を出す余裕はあるのか?
ただでさえ騎士団員のほとんどを警備にあてているのに魔物の侵入増加が止まらないのだ。討伐隊を出したはいいが、王都が滅んでしまっては意味がない。
いったい、どうすれば……
「……ルファルス、王都の騎士団員から精鋭を集めて討伐隊を結成しろ。同じことを魔導師団にも伝えておけ」
少し考えたあと私はそう指示を出した。
騎士団だけでなく魔導師団からも精鋭を集めよう。変異種を討伐するんだ。万全を期したほうがいい。
過去に剣の攻撃はほとんど効かなかったのに、魔法なら倒せたという事例や、その反対の事例も存在する。
「了解致しました」
ルファルスは私の指示を聞いてすぐに動き出す。
精鋭を集め、結成する討伐隊。そもそも、騎士団長を無傷で倒したような魔物を倒せるのか?
精鋭を集めたところで全滅するのでは?
「いや、大丈夫だろ……」
私は頭の中に広がるネガティブな思考を振り払い、再び仕事を再開した。