十四話 騎士団員視点
「なんか見つけたか?」
「この街の騎士団員の七割を使って、王都周辺の魔物を討伐しているんだから見つけるわけないだろ」
俺ーーカイルは同僚の騎士ルデウスと一緒に王都周辺の見回りをしていた。
「それもそうか」
今日の昼過ぎに第一王子であるイオン殿下から通達があった。騎士団の大部分の戦力を使い王都周辺の魔物を一掃しろとのことだった。
通達を受けてすぐに騎士団長が偵察部隊と戦闘部隊を作り魔物の一掃を始めたというわけだ。
まだ新米の俺とルデウスは魔物との戦闘を極力しない偵察部隊に割り当てられた。
偵察部隊の仕事は魔物を発見次第、直ちに戦闘部隊に連絡すること。だけど、今回の作戦に使われている戦力は王都の騎士団の七割。その中でも戦闘部隊が五割強を占めていて、戦闘部隊も王都周辺を散策しているので偵察部隊の俺たちが魔物を見つける可能性は限りなく低い。
「噂では冒険者ギルドにも依頼を出してるらしいぞ」
「まじかよ!?」
俺の情報にルデウスは心底驚いていた。
それもそのはず、騎士団をほぼ総動員して魔物の討伐をしているのにそれに加えて冒険者まで動員するなど前代未聞だ。
「最近魔物が街の中に侵入することが多かったり、人が襲われることが多くなってるとはいえやり過ぎだよなぁ」
「そうだよな。現に俺たちはまだ一度も魔物と出くわしてないわけだし」
本当に一体イオン殿下は何を考えているんだ?
「やっぱり国王陛下が倒れて急にイオン殿下が国のトップになったから、イオン殿下も初めての事で万が一があったら困るとでも思ってるのか?」
「あぁ、確かに。ここで失敗したら国王陛下が回復した時に超怒られそうだもんな。
王位継承第一位を維持するためにも万が一は許されないからな」
この異常なほどの規模の作戦が起こったのはイオン殿下が心配症なだけだと。俺たちはそう結論づけた。
「まぁ、でもこんな楽な仕事でも給料は変わらないんだからラッキーだよな」
「そうだな。当分はこの仕事がいいな……」
「それは無理だろ。これだけの戦力がいたら一日あれば王都周辺の魔物なんて一掃できちまうよ」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
全く緊張感など持っていなかった俺とルデウスの顔が強張る。
聞こえたのは男の悲鳴。
森の奥の方から聞こえた。
「おい、行くぞ」
動こうとしないルデウスに声をかける。
「なぁ、行かなきゃだめか?」
「俺も行きたくねぇけど、仕事なんだから仕方ないだろ」
行くたくはないが、仕事なんだから割り切るしかない。
「俺たちは偵察部隊だ。人が襲われてても勝てそうにない魔物なら速やかに戦闘部隊に連絡する。
分かったな?」
偵察部隊は魔物との戦闘は極力しないようにとの指示がある。それに従うなら妥当な判断だろう。
だけどこの判断はもしも勝てない魔物がいたら襲われている人間を見捨てると言うことだ。
「勝てないなら見捨てる。それでいいんだよな?」
「そうだ。勝てない魔物に向かっていっても無駄な犠牲が増えるだけだ」
俺たちは判断の確認を終え走り出す。
重い鎧を着た身体で木々の間を走り抜ける。
騎士団に来た時なんて鎧の重みで死にそうだったけど少しは成長しているらしい。
それから40秒ほど走ると少し開けた場所に出る。
そこには……怯える騎士団員と鎧を着た頭のない死体が一つ横たわっていた。
「あ、あぁ……」
横にいるルデウスの顔が急速に青くなるのが分かった。今にも倒れそうだ。
そして、俺もきっと同じような顔をしているんだろう。
転がっている死体の鎧には見覚えがあった。
恐らく王都の騎士団員なら全員が俺と同じ考えに行き着くだろう。
「き、騎士団長……?」
頭が無いので顔が分からないが、この輝くような鎧は間違いない。
騎士団長が殺されている。
ここはまだ王都からそう遠くない場所だ。こんな近くで騎士団長が魔物に殺されるなんて……
「か、カイル! 逃げるぞ!」
ルデウスが俺の手を全力で引っ張った。
逃げる……? 何から?
俺はルデウスが見ている方向と同じ方向を見る。
そこには赤い肌をした人型の魔物が立っていた。
その手には原型をとどめていない頭部がある。恐らく騎士団長のものだろう。
この魔物はダメだ。
すぐに理解して走り出そうとする直前、人型の魔物ーーオーガが俺たちを嘲笑するような笑みを浮かべ、手に持った頭部を投げ捨て森の中へ消えて行く。
「……」
ひとまずは助かったらしい。
だけどとても喜ぶ気にはなれない。それどころかまだ恐怖が心を支配している。
あんな魔物が王都付近にいる。その事実を考えるだけで身体が震え上がりそうだった。