十一話 ミア視点
少し時間は前後して、マリアがマンドルク帝国国境付近でアティス皇太子と出会った頃、ミアは道の脇で頭を抱えていた。
どうして、どうしてよ!
どれだけ頑張っても結界が全く作れない。結界を作ったあとは定期的に魔力を流して結界を維持する必要があるのに、結界を作る魔力すら足りないなんて……
今日で私が聖女になって六日目。
結界がなくなってそろそろ一週間になる。
王都では優秀な騎士団を使って警備を強化したことで魔物が街に侵入することはあってもすぐに討伐されるから今のところ人的被害は出ていない。
門に並んでいる人にも被害は出ていない。
だけど、他の街ではすでに魔物に人が襲われていて、死者も少ないけど出ているらしい。
他にも結界がなくなったことで森にいる魔物が凶暴化したり急に強くなったりしていて、今までに比べて商人が襲われる数や冒険者の死亡件数がここ数日で増加しているらしい。
せっかく、せっかく聖女の座も手に入れて、イオンとの婚約もできたのに……!
前のデートの時は聖女の仕事は順調と言ってしまったけど、流石に事実を伝えなければイオンにバレてしまうのも時間の問題。
でも、万が一、億が一に婚約破棄でもされてしまったら……せっかく理想の婚約者も憧れの聖女の座も手に入れたのにすべて水の泡になってしまう。
どうにか、どうにかしないと……!
「おーい、ミア。遅くなってすまない」
「私も、今来たところですよ」
「では、行こうか。今日は王都でも最高級のランチを食べられる店を用意してある。なんでも珍しくドラゴンの肉が手に入ったらしくてな。
王族でもたまにしか食べれないドラゴンの肉だ。少量しかないらしいが予約をさせておいた。期待していてくれ」
「はい、楽しみです」
私は口ではそういったがとても楽しい顔を作ることはできなかった。
「……ミア? どうかしたのか?」
どうせ、近いうちに気づかれる。
今は聖女入れ替わりの影響で魔物が街に入り込むことが多くなったりしていると思っているけど、すぐに気づかれてしまう。
なら、今のうちに言った方がいいのかもしれない。
……お姉ちゃんが古代の遺物の髪飾りのことを最初から言っておいてくれたらこんなことにはならなかったのに!
その事さえ知っていればお姉ちゃんに結界と加護を維持させたまま、聖女の座だけ譲ってもらうことも考えたのに!
髪飾り。あれがあれば負担なんてほとんどない。それなのに壊れてしまったことを一言も言うことなく街を出て行くなんて、本当にありえない。
こんな事になったのは全部お姉ちゃんの所為だ。
全部、全部お姉ちゃんが悪い。私は何も悪くないのに。
……お姉ちゃんが、全部?
「イオン。聖女の仕事の話なんだけど」
「どうしたんだ?」
「聖女の髪飾りってあるでしょ?」
「あぁ、聖女の資格を持った人間が魔力を流せば結界と加護を得られる古代の遺物のことだな」
「お姉ちゃんがこの街を出る時に、私への嫌がらせで髪飾りを壊して出て行ったらしいくて。
だから、私、まだ結界も何もできてなくて……うっ、うっ、今まで黙っていてごめんなさい。頑張ってみたんだけど私の魔力だけじゃ全然できなくて。
うっ……うぇ……」
私は泣くふりをした。
国王が急に危篤状態になったからイオンは髪飾りの件を聞いていないはず。
私だってそんな話聞いたことはなかったし、知っていたら流石にイオンも私を聖女にするわけがない。
大丈夫、全部お姉ちゃんの所為にすれば、全て上手くいく。
これでイオンの中でお姉ちゃんの印象はもっと悪くなるけど、私はお姉ちゃんに嫌がらせをされた可哀想な女の子だ。
もう帰ってくることもないんだし、どう思われようと構わないよね。
お姉ちゃん。