一話
「こちらでお待ちください」
聖女である私、マリアは婚約者である第一王子に呼び出されて王城にやってきていた。
王城に着くと執事さんに案内されたので今、その部屋のソファーに腰をかけている。
「やっと来たか、マリア」
ノックもなしに乱暴に開け放たれた扉から入って来たのは私の婚約者である第一王子、イオン。
そして……私の妹であるミアだった。
二人は腕を組みながら部屋に入り、私の座っているソファーの真向かいのソファーに腰をかけた。
「これから言う事だが……もうこの状況で理解できるだろう?」
「ど、どう言う事ですか!? 何故ミアがイオンと一緒にいるの!?」
何故、私の婚約者であるはずのイオンが妹と一緒にいるのか。
何故、腕まで組んで目の前に座っているのか。
普通ならそんな事聞かずとも分かりきっていることだったけど、混乱した頭では理解することができなかった。
「この状況を見て理解できないのか?」
「あれ~? お姉ちゃん、もしかしてショックで頭まわってません?」
イオンが軽蔑するような目で、ミアは嘲笑いながら言ってくる。
「な、なんでミアがイオンと一緒にいるの!」
私は訳が分からず声を荒げた。
「うるさいぞ。こんな分かりきったことを口に出さなければ分からないのか?」
「あのね~お姉ちゃん。私たち婚約する事になったの」
「婚、約?」
あぁ、そうだよね。
分かりきった事だよね……
「そうだ。俺たちは婚約する事になった。
当然だがマリア、お前との婚約は破棄させてもらうぞ」
「もう、決定事項なんですね?」
「しつこいですよ。お姉ちゃん」
毎日毎日、この国のために聖女として尽くしてきた。
数少ない休日もイオンがデートをしたいと言うから何処へ行くのでも付き合った。
聖女には第一王子と婚約できる権利がある。
本当は自分で婚約者を選びたかったけど、伯爵家の当主である父上がこんなチャンスは滅多に無いからと無理矢理婚約させられた。
三年間。三年間も我慢してきて、それがみんなの為になるからって思ってたのに……馬鹿みたい。
「分かりました。ではイオン殿下、私との婚約は破棄という事でよろしいですね?」
最後に一応確認してみる。
「だからそうだと言っているだろう。それと、もう婚約者じゃ無いんだからしっかりとした言葉遣いをしてくれよ」
「はい……では、これで失礼します」
「ちょっと待ってよ、お姉ちゃん」
部屋から出ようとする私は妹に呼び止められて扉の前で立ち止まった。
「私にさ、聖女の座、譲ってくれない?」