黒い記憶(嫉妬)
色々な作家さんからアドバイス等を頂いて、割とモチベーションが高い状態で執筆中。
展開が複雑なのは相変わらずだなー、、、って思ってます。分かりにくかったりしたら申し訳ない、、、
序盤もそろそろ終盤戦ですなーとか一応考えながら執筆している私です。
ツイッターで宣伝してくださる皆様に感謝の念を、、、
ただ今、イラストを描いて下さっている「しらたまだぶる@絵描き」様には、本当に感謝の念が尽きません。こんな無名の私にも描いて頂きありがとうございます。
イラストは出来次第、こちらにも載せて行こうと思います。
自分の作品を評価して下さった方にも感謝を。。。
鏡の奥にいる自分の姿を見る。
そこに映っているソイツは、複雑な感情を抱いているようだった。
嫉妬。憎悪。悲哀。憤激。そんな激情が身を包み込むそんな感覚に彼は陥っていた。
ーー夜夢愛斗は、端的に言ってイケメンである。自分にもその自覚があったが、その事で自慢をする事などはしなかった。
その性格の良さも相まって、小学校高学年の時には一部ファンも出来ていたほどだ。
そんな、愛斗は、幼馴染である1人の少女のことを好いている。
幼稚園の頃から、その少女の事が気になっていて、恋をしていると気づいたのは小学3年の時だった。
2年生の頃までよく兄である白と一緒に家に行っていたが、ある日を境にして、家には行かなくなってしまった。
頼れる兄に聞いても、悲しそうに首を振るだけで理由を知らないようだった。
この頃になってようやく愛斗は自分の気持ちに気づくことができた。
凛と一緒にいたい。凛と一緒に話したい。凛の姿を見たい。
学校で凛と会いたい。
今まで愛斗は凛と学校で話す事を少し避けていた節がある。
………緊張するのだ。凛と話すと妙に心臓が騒めき出す。
そんな知らない感覚に陥るのが嫌で、凛とは話してこなかったのだが。
愛斗はこの緊張の正体に自分で気づくことにできた。そして同時に折り合いをつけることもできた。
だから、愛斗はもうビビらずに自分から話しかけようと思った。
最初は驚かれた。みんなも自分と凛が幼馴染という関係だという事を知らないから、何であんなに話しかけてるのだろう?と疑問に思われることもあった。気の会う友人に「凛のことが好きなのか?」と聞かれた時は、対応に困ってしまった。
それでも凛との会話は楽しかった。
笑う彼女。少し頰を膨らませる彼女。真面目な彼女。
ーーどこか遠くを見つめる彼女。
少し前までは意識しなかった、彼女が見せる様々な感情に、心が吸い込まれるような錯覚に陥る。
目が離せない。美しい彼女の赤髪が帰り道に夕焼けと相まって、より一層華やかになる。
昔の彼女はこんなにも感情豊かだっただろうか?
何か、この一年で彼女は変わってしまったようにも思える。
でもそんなことどうでも良かった。凛にとっての幸せが、自分にとっての幸せと錯覚してしまうぐらいには。
「ねえ。愛くん?」
久しぶりに自分の名前を呼ばれたような気がする。
どきっとして直視ができなくなる。さっきまであんなに話しかけていたというのに。話しかけて話すのと話しかけられるのでは、こんなにも嬉しさが違うのか。
ついにやけてしまいさらに彼女を見れなくなる。
「もう。どこ見てるの?」
それは卑怯だ。
彼女に恋愛感情はまだ無いのだろう。天然でそんなセリフを言われるのだからたまったものでは無い。
とは言え、嬉しいことにも変わりはない。
少し反応に遅れてしまいながら「何だよ。」と返す。
彼女はにこりと笑って、僕に話しかける。
「最近、良いことばっかりなんだ」
本当にその通りなのだろう。彼女の顔には満面の笑みが浮かべられている。
俺自身も最近は良いことばかりだなーと思う。
小学2年生の頃には想像もしていなかった事が今目の前で起きておるのだから。
「愛くんとはまた話すようになったし」
それはこちらの台詞だ。俺がどれだけ凛を好いているか、絶対に凛には伝わり切らないと思う。
でも………いつか………この想いを………
「そしてね」
自分の世界に若干囚われている俺に告げられた次の言葉は、
俺の人生を大きく狂わせることになる一言だった。
「新しい家族が家に住むようになったんだ!」
「………えっ?」
その一言は、俺を現実に呼び戻すには十分すぎる威力が込められていた。
いま彼女は何と言った?
「新しい………家族………?」
よく分からない。彼女は何を言っているのだろうか?
「あ………姉さんに言うなって言われてるんだった………」
誰だ?それは誰だ?
「え………?愛………くん?」
誰だって聞いてるんだよ!
「え………愛くんどうしたの?」
自分の様子がおかしい事ぐらい自分で気づいている。
でも、でも、
収まらなかった。カラダ中を巡ったこの激情を。この哀しさが。
「そいつは、男なのか?」
違うよな?半分そう願っての質問だった。
「………お、男の子………だよ………?」
「ーーーッ!!!」
「愛くん!?」
おかしい。こんなのおかしい。
さっきまで幸せだったのに。
楽しく過ごしていたのに。
まるで夢だったかのように。
リアルな明晰夢であったかの様に。
バラバラと世界が崩れる。そんな感じ。
だから逃げてしまった。凛から逃げてしまった。
あのまま、その場に残っていたら凛が遠くに行ってしまう気がして………自分からその現実に背を向けた。
気づけばそこは自分の家で、俺は風呂場にあるその家唯一の鏡と向かい合う。
そこに居たのは、優しい自分でも、みんなからチヤホヤされる自分でも、無邪気な子供でもなかった。
醜い嫉妬を胸に抱えた少年がそこに居た。
あれからしばらくして、電話で凛と話をしていた。
あの時のことはしっかりと謝っているし、凛自身がどう思っているかは知らないけれど禁句としているのか、俺の前でそいつの話はしなくなった。
でもそれで、俺の心が晴れやかになったかと訊かれれば、答えはNOだ。
俺の中に生まれた独占欲はみるみると強くなっていき、俺は遂にこの会話でアイツについて触れた。
「なあ、前言ってた家に新しく来た男についてなんだけどさ」
ソイツも話題を出したと同時に、通話口から息を呑む声が聞こえた。
明らかに動揺している様だったので、更に言ってみる。
「その男って何者なんだ?親戚とかそういうのか?それとも………まさかとは思うけど、他人なんて事はないよな?」
後半になるにつれて、俺の語勢は強くなって行き最後は問い詰める様な形になってしまった。
だが、これぐらいにでもしないと凛はきっと答えてくれないだろう。
そして彼女は………
「分かった。教える」
俺のことを信用して、教えてくれる彼女に少し罪悪感が湧いたが、その感情を無視して彼女の話を聞く。
………清宮 瞬………か。
覚エタ。モウ忘レナイ。
俺のキャンパスがどんどん黒く滲んで行く。嫌な感情に心が蝕まれていく。
ーー凛は、俺の物。
ーー兄は、そんな風に女を扱った事はなかった。
ーー凛に好かれたい。
ーー兄は好かれようと様々な事をしていたが、その行動の全ては優しかった。
ーー取られたくない。
ーー兄は取られたら取られたで祝福しようとしていた。
ーー兄の様になりたい。
ーーこれでは、兄に怒られてしまう。
「いいか?愛斗。人に優しく接していたら、いつかその行いはいい方向に自分に返ってくるんだ。悪い事をしてみろ。バレて怒られるだろう?つまり、悪い事したら悪い事が自分に返ってくるんだ」
兄の優しい笑顔が浮かぶ。受話器を持つ手が震える。
「凛のこと、好きなんだろ?気付かれてないと思ってたか?ハァ、俺と同じで行動に出やすいんだよ、お前は」
兄の呆れた顔が浮かぶ。凛の声が遠くなる。
「まあ、行動に出るって事は、積極的とも捉えれるからな。俺はお前の恋応援するからよ」
ーーごめん。俺はもう、戻れないみたいだ。
キャンパスが、黒く黒く濁っていく。
ーーせめて、バレない様に、この感情が破裂しないように、
そのキャンパスにまた黒い液体がぶちまけられる。
ーー此処に封印するから。
凛の家に来た。
そこで、奴に出会った。
名前は、清宮瞬。
出会いは最悪だった。
でも、こんな俺にもアイツは優しくしてくれた。
一緒に居て、なんだかんだ良い奴なんだなって、思えてしまった。
凛の隣にいるのに相応しい人物なんだなって、諦めが………
ーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
ーーーーー
ーーつくわけ無かった。
兄みたいな奴だった。俺が目指しているような、優しい奴だった。
理性で取り繕っているような俺じゃなくて、
本能で優しくなれる、兄みたいな人だった。
後で、凛と瞬が同じ組だと知った時の絶望感は酷かった。
これ以上黒くなれないキャンパスに想いをぶちまけた。
暗くなる部屋を見て、更に気持ちが沈んでいく。
でもこの気持ちを兄に見せるわけにはいかない。凛に見せるわけにはいかない。
学校で曝け出すわけにはいかない。
俺は、良い子だから。今までが良い子すぎたから。
笑顔でみんなに接してきたから。
俺が変わったら、みんな驚くだろうから。
自分が抱えているこの感情を人になすりつけるわけにはいかなかった。
でも、俺はもう、解放される。
いつもと違う鏡の前で、俺は笑った。
「時は来た………てか?」
もう会う事の無いであろう、兄の情景をキャンパスの中に落とす。
「ごめん。ごめん。兄貴。俺、もう………」
ギラついた目と禍々しく輝く刀身が光を反射する。
「我慢できそうに無いよ………」
………これは、少し未来の話。
いつか起こる厄災の少し前の話、
黒いキャンパスに描かれた唯一の色である紅色を、手に取る為に。
青年は………
◯◯完了。◯◯への情報量増加を確認。
次回からは対象者の観測を再開する。
『夜夢 白』の確認。