私はえっちなので
『さよなら、わたしのラプンツェル』に登場するユキとミサによる番外編です。https://ncode.syosetu.com/n5827fj/
「ほんとカナノって、抜けてるとこあるよねー」
ベッドにバッグを放り投げて倒れこみながら、ユキが言った。私もそのとなりに腰掛ける。女子高生の部屋には似合わない、二人で寝てもスペースが余るような大きなベッド。
ユキの家は平たく言うとお金持ちだ。角ばった言い方だと、資産家。ユキ本人も、一生遊んで暮らせることが分かっているから、中学の時からずっと不真面目だった。
「……カナノは、私たちの大事なともだち。そんなこと言っちゃダメ」
「ミサは厳しいなあ」
ひらひら手を振って、ユキが適当に返事をする。
「私たちの演技がうまかったのかもしれない」
「あ、それあるかも」
首筋の後ろのあたりを意識する。高校生になってから、ユキと一緒に入れに行ったブラウンのメッシュ。ユキが目立つところに入れたいって言うから、私はわざと人から見えないところにした。
「でも、だますみたいな感じになっちゃったね」
ユキが寝返りを打って、パーマをかけた髪から耳たぶがのぞく。左耳に、ガーネットを模した、血のように真っ赤なピアスがついている。ちょうど、私の右耳にあるのと同じものだ。
「……それはユキのせい。なんであんなこと言うの」
今日、久しぶりに、東京に帰ってきたカナノと会った。カナノと私たちは、中学の時からの友達だ。でも、カナノは、私たちにはよくわからない、おばあさんみたいな理由で、地方の高校に進学してしてしまった。私たちみたいに東京の高校に来ればよかったのに、と時々思う。
高校に入ってから、ユキと私は、恋人として付き合い始めた。ユキから告白してきたのだ。その時は、私はユキのことを親友としか思っていなかった。ユキが女の子が好きな女の子だったってことも、私のことを中学の時から想っていたってことも初めて知った。
私は別にどっちでもよかったけど、まあユキがそう言うなら、みたいな感じでOKしたのだ。
でも、女どうしで付き合うのは、いろいろ障壁が多くて、まず周囲にばれないようにしないといけないってことがあった。ユキがパーマをかけてピアスを隠しているのも、私が見えないところにメッシュを入れたのもそのためだった。
カナノにもばれないようにしよう、と言い出したのはユキだった。カナノには言ってもいいんじゃない、と提案してみたけど、ユキは面白がって秘密にしたがった。ユキのそういうところは、嫌いじゃない。
カナノが私のピアスを見つけて、かわいいじゃん、と言ったとき、ユキはカナノに、彼氏に開けてもらったんだって、と嘘をついた。あの嘘は、たぶん必要じゃなかった。
「隠し事をするときは、嘘をつくほうがいいの」
ユキがどこで仕入れたのかわからないようなことを言った。私は瞳で不満を訴える。
「…………」
「何?」
「でも、私がえっちな女の子みたいな感じになっちゃった」
ユキが余計な嘘をついたおかげで、私がその「彼氏」と、手つなぎもキスも、初めてのえっちもしたっていう話もしないといけなくなってしまった。頬を膨らませてみせると、ユキが大笑いする。
「みたいな感じも何も、えっちじゃん! いまさら清純ぶっても遅いって!」
「…………」
こめかみのあたりがぴくっとしびれるのを感じた。ほんとになるんだ。
ユキはお調子者だし、一緒にいて楽しい。そういうところは、私としてもたいへん評価している。でも、たまに調子に乗りすぎることがある。そういうときは、恋人としてちゃんとお説教をしてあげないといけない。
「あ、ちょっ、ミサ……」
「……私はえっちなので」
「ご、ごめん! 謝るから!」
ベッドの上だったので、ちょうどよかった。
ユキとするのは、初めてでもなんでもないけど、シャワーくらい浴びればよかったかもしれない。
***
先にバテるのは、いつもユキの方だ。ぐったりしたまま、半裸で息をととのえるユキが、ろれつの回らない声で言った。
「ねー、ミサ」
どうしたの、と無言で聞き返す。
「カナノって……」
ユキが言いよどむ。めずらしい。
でも、なんとなく彼女が言いたいことは分かった。「先輩」の話をしているときのカナノの目は、私といるときのユキの目に似ている気がしたのだ。
「……まあ、そうかも。だったらどうするの?」
「…………」
「3P?」
「するか、バカ!」