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太陽が昇らない国の物語(仮)  作者: 岸田龍庵
6/32

秘密

【ゆりかごの森 大木の()()の部屋】

 


 木のテーブルと木の椅子がある、無駄のない部屋。

 その中をたくさんのホタルが飛んでいる。ホタルたちの明かりで、部屋の中は当然明るい。


サーラ:「すごいキレイ」

ヒューマ:「こんなにたくさんのホタル、見たことない」

スーリヤ:「喜んでくれたかい?」

出てきたのは初めて見る老婆。手に鍋と木の食器を持っている。声は広場にいた鹿に似ている。



ヒューマは部屋の中の壁の肖像画を見つける

ヒューマ:「父さん」

絵に殺到するヒューマ

ヒューマ:「なんで父さんの絵がここに・・・」

ヒューマの父ファロスと揃って描かれているのは、やわらかい微笑みをたたえた女性。

サーラ:「これが、ヒューマのお父さん?」

頷くヒューマ

サーラはヒューマがひとりぼっちになってしまった、ちょうどその頃に最果ての村にやってきたのでヒューマの父を見たことがない。

サーラ:「この女の人は?」

ヒューマ:「・・・知らない」

肖像画の中の知らない女性がヒューマ達を見ている。太陽光のような金色の髪に穏やかなほほえみを持った女性。



スーリヤ:「さあさ、温かいスープでもお食べ」

スーリヤはささっとスープを皿によそい全員の前に給仕する。スープ皿を前に顔を見合わせるヒューマとサーラ

ヒューマ:「あの、なんでここに父さんの絵が?」

ジェス:「まあ、座れよヒューマ」

先にテーブルに着くジェス

ジェス:「森の恵みに感謝します」

ジェスとグレイスは皿を額の前に捧げ持って、感謝を表しスープを食べ始めた。

ヒューマとサーラも、もごもごと感謝の言葉を口にしてからスープを食べる。村を出てから初めて食べるまともな食事

サーラ:「おいしい!」

スーリヤ:「そうかい、たくさん食べなさい」

サーラはスープを全部平らげてしまった。

スーリヤ:「おかわりはいるかい?」

サーラは恥ずかしそうに木の皿を出す

サーラ:「あの、おばあさんは誰ですか?」

スーリヤ:「おや、うっかりしてたよ、わたしゃさっきの鹿だよ」

驚いてスープを噴き出し、むせるヒューマ

グレイス:「なあにヒューマったら、もったいない」

ヒューマ:「鹿?おばあさんが?」

スーリヤ:「森の中にいる時は鹿の方がラクなんだよ。ユニコーンになっているときもあったけど、猟師(りょうし)に狙われやすくってね。でも、人と話すときは人の方がラクってことさ」



【時間経過】

 ()()の部屋の中を飛び交うホタルたち


スーリヤ:「そうかい、そんなに砂に飲まれてしまっているのかい」

ジェス:「ここ十年で俺たち風の民も完全にバラバラになってしまいました。部族部族で勝手にしています」

グレイス:「水の民も一緒です。船の技術が発達してか、利益を求めて陸地から海へ向かう一方なんです」

ジェス:「なぜ、太陽の民は動かないんですか?こうして新しい太陽の子が生まれているのに、星や月は何をしているんですか?」

スーリヤ:「三天は滅多な事じゃ動かないさ。まして月は太陽がいないあいだは空の支配者だからね。それに星は秩序を守ることが仕事みたいなもんだからね」

ジェス:「しかし、このままだと風が吹かなくなってしまう」

スーリヤ:「そのためには太陽もそうだけど、大地も動かないとね」

ヒューマとサーラは、半分わかったような、わからないような顔で大人たちの会話を聞いている。




ヒューマ:「あの・・・みんなの話は少ししかわからないけど、俺はどうすればいいんですか?どうして父さんの絵がここにあるんですか?父さんを探せば、太陽が昇るんですか?」

ヒューマの質問ににジェス、スーリヤ、グレイスの3人は顔を見合わせた。

スーリヤ:「どうやら教えないまま、この子を置いていってしまったんだねファロスは」

ヒューマ:「やっぱり父さんを知っているんですね」

スーリヤ:「ああ、良く知っているとも。お前さんは若い頃のファロスにそっくり」

ヒューマ:「俺が父さんに・・・」

うつむくヒューマ

ヒューマ:「なんか、みんな父さんのことを知っているけど、一番俺がよく知らないみたいだ」

心配そうにヒューマの手を取るサーラ

スーリヤ:「そんなことはないヒューマ。お前さんもお父さんと同じように傷を治すことができるじゃないか。

 太陽の子である証じゃよ。お前さんの父のことは、お前さんは知らないことが多いかもしれん。でも、お前さんの体にはしっかり父の血がながれているんじゃよ」

サーラ:「良かったね。ヒューマ」

曖昧(あいまい)に頷くヒューマ



スーリヤ:「太陽が消えたのは、お前さんの父が消えたことが原因ではないんじゃヒューマ」

ヒューマ:「え・・・?」

スーリヤ:「ファロスはなんて言って出て行ったか覚えているかい?」

ヒューマ:「太陽を探しに行く・・・って」

スーリヤ:「お前さんの父が太陽の全てを司るのなら、太陽を探しに行くことはない。ファロスが持っているのは太陽を休ませる力なんだよ」



ヒューマ:「太陽を休ませる?」

グレイス:「ヒューマ、太陽は昇るとどうなるの?ここのところ、昇ったことないけど、それは置いておいて」

ヒューマ:「昇った太陽は沈む」

スーリヤ:「お前さんの父が持っているのは太陽を制御する力だ。太陽が昇りっぱなしだと大地や海はあっという間に渇いてしまう。

 ファロスは太陽を昇らせる力を持った者の所へ行っているはず」

サーラ:「その力を持つ人は、どこにいるんですか?」

スーリヤ:「今は私にもわからない。というより、ファロスに探せない者を、太陽の恩恵を受けているだけの私たちにわかるはずがない」

ジェス:「俺も、本当のところ、お前の父さんの居場所は今はわからないんだ」

ヒューマ:「じゃあ・・・」

ジェス:「ウソを付いたのは悪いと思っている。大人はウソも付くし隠し事もする。でも太陽の民を動かすためにはそういうしかなかったんだ」

グレイス:「私たち風の民は太陽から生まれたのは、あなたも知っているわね。子が親を動かそうとしているのは、あなたとお父さんの関係と同じよ」



黙り込むヒューマ

次から次へと全く知らない事ばかりに混乱している。ただ、父を捜すという意志は変わらない。

ヒューマ:「父さんを探すのは正しいんですよね」

スーリヤは、やや躊躇してから頷いた。

スーリヤ:「ただ、私じゃファロスがどこにいるのかまではわからないんだよヒューマ」

うなだれるよりも固まってしまうヒューマ

ジェス:「なにか方法はないんですか、森の賢者」

スーリヤ:「全てを知る者は、普通だったら月の民なんだけど、あいにく世間の事には興味のない連中だからね。こういうときは北の魔女に聞くしかないね」

一同:「北の魔女?」

スーリヤ:「私が森の民だとしたら、彼女は雪の民ってところかね。

 しかし変わった子でね。何も守りもしないし、誰にも手を貸さないくせに、全ての動きをウォッチするのが好きな娘でね」

グレイス:「娘って?」

スーリヤ:「雪男じゃなくて、雪女ってことよ。雪の魔女。あの娘だったら多分知っているはず。ちょっとみんな集まっておくれ」

スーリヤが合図をすると、ホタルたちが渦を巻いてテーブルに集まった。ホタルたちは地図の形に整列した。



サーラ:「わあ、ホタルの地図だ」

一同ホタルの光りの地図をのぞき込む。

スーリヤ:「今、私たちがいるのはここ。さらにこの町を通って、ここで防寒着なんかを買うといいかしらね。この北の山脈の5合目あたりにいるよ」

ジェス:「うへー、俺様って寒いの苦手なんだよねー」

スーリヤ:「バカいってんじゃないよ。このまま太陽が昇らなくてみんな凍っちまったらどうするんだい!」

読了ありがとうございました。

まだ続きます。

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