覚醒
【聖都スクード 聖堂 大広間】
ランプの明かりが満ちた聖堂の大広間。司祭、最果ての村の村長、サーラの父母、そしてジェスが輪を囲んで立っていた。
輪の中央にはヒューマが横たわっている。
その傍らにサーラが座っている。ヒューマの光った方の手を大切な物を抱え込むように持っている。ヒューマの腕にはサーラの手形が残っている
サーラ:「ヒューマは私に、私に何をしてくれたのですか?」
司祭と村長、それにサーラの両親は顔を見合わせた。
村長:「ヒューマは、太陽の子として目覚めたんだよサーラ」
サーラ:「ヒューマが?」
司祭:「ヒューマの父も、いや太陽の子に受け継がれている、全てを治す癒しの手で、ヒューマは自分の生命力を使って、お前の傷を治したのだよ」
サーラ:「ヒューマが?私を助けてくれた・・・」
ヒューマの光った方の手を握る手に力が込めるサーラ。
ジェス:「早いところどこかにかくまった方がいいぜ」
全員の注意がジェスに向く
ジェス:「しつこいぜあいつら、あんた達が思っている以上にな」
司祭:「君は、見たところ風の民のようだが、君はあの連中を知っているのか?」
ジェス:「急がないと、ここも砂漠になっちまうぜ」
司祭:「じゃあ、君の町も?」
ジェスはうなずいた。
ジェス:「もともと俺たちは漂泊するのが宿命みたいなもんだからな、別にそれはいいんだが・・・」
一同押し黙る。
サーラは大人達の会話が良くわからず、ただただヒューマの光った方の手を抱えていた。
ジェス:「この娘が襲われたのも、偶然じゃあないかもな」
司祭:「なんだと?」
ヒューマの目が開いた。
サーラ:「ヒューマ」
目が泳いでいるヒューマ。自分を取り囲んでいる面々が今ひとつ把握できていない
サーラ:「ヒューマ、ヒューマ、良かった」
サーラは大人達の目の前、自分の両親の目の前にもかかわらず、ヒューマに抱きついた。
ヒューマ「お、おいサーラ、どうしたんだよ」
とまどいつつも、サーラを受け止めるヒューマ。
それから自分を囲んでいる面々を見て、ジェスを見つけると、サーラを受け止めたまま立ち上がった。
ヒューマ:「おじさん!父さんのこと知ってるっていったよな!」
火が出るようにくってかかるヒューマ。
司祭:「なんだと!?」
村長:「本当なのか?」
ジェス:「あんたたちは、知らないのか?」
司祭と村長は頷いた。
司祭:「もう何年も前から『光』を見失ってしまった。私たちは太陽に仕える者だが、そこまでの力は持ってはおらない」
司祭はヒューマの頭を大きな手でなでる
司祭:「だが、私たちは新しい光を得た。これを守り通していかねばならない」
ジェス:「何でそうなんだ、何で守ろうとする!何で自分たちで打って出ようとしない?あんたたちがしているのは、死ぬのを待っているようなもんだ」
サーラを指さすジェス
ジェス:「この娘は殺されかけたんだぞ!そんな連中なんだぞ!このまま指くわえて見ていたら、滅ぼされるのはこっちだ!少なくとも、太陽に従って、俺たち風まで滅びるのはゴメンだぜ!」
司祭:「若き風の旅人よ」
司祭は手をかざして、場の空気を落ち着けようとした。
司祭:「これは太陽が、いやこの世界が私たちに与えた試練だ。私たちの全てが太陽の子であり、風の旅人にふさわしいのかどうかの試練なのだ」
ジェス:「それで死ぬのを待てっていうのか?いつまでろくすっぽ実を付けない麦の、味も素っ気もねえパンを食えっていうんだ!太陽が出ないとパンも満足に食えネエだろうがよ」
司祭:「我々は滅びない。太陽もまた滅びない。やがて復活し、夜は明ける」
【聖堂 大広間】
その夜、ヒューマは聖堂の大広間で雑魚寝をしている。疲れているのに眠れない。
目の前にはサーラの寝顔がある。
ヒューマの光った方の手を離さない。
ヒューマはサーラの細くはないが白い指を一本ずつはがすと、静かに起き上がった
【聖都スクード 大広場】
たき火を中心に輪ができている。カラフルな布地のポンチョ、極彩色の羽をあしらっている若者が躍っている。
楽器をひく者もいる。
ジェスは仲間達と談笑しながら酒を飲んでいた。輪の中にはグレイスもいた。輪を囲んでいるのは風の旅人たち
躍る仲間の向こうにヒューマの顔が浮かび上がる。
ジェス:「おい」
ジェスは仲間に歌と踊りを止めさせた。
ヒューマは輪の外側で突っ立っている。
ヒューマ:「・・・あの・・・」
普段、ヒューマの方から大人に喋りかけることは、まずない。
ジェス:「まあ座れよヒューマ」
ジェス手振りで仲間に場所を空けさせた。
のそのそと座るヒューマ
ジェス:「飲むか」
酒が入ったブリキのカップを渡すジェス。
ブリキのカップを手にしたヒューマは一気に飲み干した。
むせかえるヒューマ
風の民:「(笑)」
ジェス:「なかなかいけるじゃねえか」
ヒューマは目を白黒させている。
ジェス:「どうしたい?寝られないのか?」
すぐに答えないヒューマ。
黙って待っているジェス。
ヒューマ:「俺は、いったい何をすればいいんでしょうか?おじさん」
ほろ酔い気味のジェスは急に真顔に戻る
ジェス:「お前がわからない限り、太陽が昇ることもないし、太陽は沈まない」
ジェスは「沈まない」の部分で声を張った。
ジェス:「太陽が昇らない限り、風が吹くことはない。風が吹かなければ水は流れてゆかない。水が流れなければ、大地は渇く。渇いた大地からは何も生まれない。砂に呑み込まれるだけだ」
ヒューマ:「砂に・・・」
群衆:「来たぞー!」
ジェス:「くそっ、しつこい連中だ」
ブリキのカップを投げ捨てるジェス
ジェス:「みんな宴は終わりだ、とにかくここは守れ。星の騎士団は何をしているんだ」
立ち上がって部署するジェス
ジェス:「ヒューマ、サーラを起こしてこい!」
ヒューマ:「サーラを?」
ジェス:「ここを切り抜けられたら、お前の聞きたいことに答えてやる」
ジェスは自分の腰から、反り身の剣をヒューマの足下に放った。
ジェス:「行くかいかないかはお前が決めろ。だがな、このまま滅びの道を歩いていくことになるのなら、俺様はとことんあがく事を選ぶぜ」
ヒューマ:「・・・・」
ジェスは仲間の所に向かった。
ヒューマの足下に反り身の剣が転がっている。
反り身の剣を拾うとヒューマは駆けだした
【聖堂 大広間】
聖堂の大広間は、最果ての村人で立錐の余地がない。ヒューマが姿を消したことでちょっとした騒ぎになっている。その中にサーラの姿もあった。
聖堂の扉が開く
サーラ:「ヒューマ」
村人の中をかき分けてサーラが出てくる
サーラ:「どこに行っていたの?」
ヒューマが抜き身の剣をもっているのを見てギョっとするサーラ
サーラ:「どうしたの?それ」
剣をこれみよがしに見せるヒューマ
ヒューマ:「行こうサーラ」
サーラ:「え?、どこに?」
ヒューマ:「いいから行こう」
村長:「ヒューマ!どこへ行くと言うんだ。我々にほかに行くところはないぞ!」
ヒューマ:「村長、サーラのお父さん、お母さん。俺は父さんを探しに行く」
村長:「なんだと?」
ヒューマ:「聞いて欲しいんだ。このまま太陽が昇らないのなら、それも自然の流れかもしれない。でも俺はそんなのイヤだ。もう一度、もう一度、太陽を見たい、だから俺は行く」
村長:「だからといってサーラを連れて行くのはどういうことだ?」
ヒューマ:「サーラ」
ヒューマは村長ではなくサーラに呼びかけた。
ヒューマ:「行こう、サーラがいなくちゃダメなんだ」
サーラに手を伸ばす。サーラを甦らせた光り輝く手
サーラ:「ヒューマ」
ヒューマの目には、不安の色やくもりが全くない。強い光をたたえた意志のある瞳の中に映るサーラ
ヒューマ:「一緒に、夕焼けを見よう」
司祭:「行くがよいヒューマ」
高らかに言う司祭
司祭:「私たちは待っていよう。次の太陽が昇るまで。
それが私たちに示された太陽が行く道ならば、その道に従おう。
旅立つのならそれはお前に示された太陽の道だ。
お前はお前の道に従え。たとえ、それが滅びの道であってもだ」
ヒューマ:「司祭様、このまま滅ぶしかなくても、俺、俺はとことんあがいて見せるよ」
司祭:「ただ滅びを待つだけの我々でもない」
司祭は床の隠し戸を開けた。地階に続く階段が見える。
司祭:「ヒューマ、旅に必要な物を持って行け」
読了ありがとうございました。
まだ続きます