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太陽が昇らない国の物語(仮)  作者: 岸田龍庵
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【海路編】マリア・アズーラ号

【港町ポート・オブ・エリア 港】


 出港する帆船


【海上 マリア・アズーラ号甲板】


 風をはらむ青い一つ星の帆。真っ暗な海を進むマリア・アズーラ号。水の女神像を取り付けた舳先が波を切り裂いてゆく。

 

ヒューマとサーラは舳先(へさき)の近くの甲板で身を乗り出して、初めて見る海と、初めて見る船に興奮している。

ヒューマ:「すげえ・・」

サーラ:「まるで黒い石みたいね」

ジェス:「どーだい、初めての船は」

ヒューマ:「すごいよ」

サーラ:「村じゃ、私たちだけじゃない?船に乗ったななんて」

ジェス:「(笑う)まあ、無事に出航できてよかった、それに水の民の協力も得られたし」

サーラ:「ジェスってすごいのね、見直しちゃった」

ジェス:「もっと()めろ」

グレイス:「何言っているの、船をチャーターしたのは私だし、水の民に話を付けたのも私じゃない」

ジェス:「まあ、堅いこと言うなよグレイス」



グレイス:「どう、初めての船は?」

ヒューマ:「すごいよグレイス。こんな大きいものが動くなんて」

サーラ:「どうやってこんな先の見えない海を進んでいけるの?」

ジェス:「それはだな・・・」

グレイス:「先が見えない海を事故もなく無事に進んでいけるのは、水の民の力。彼らは古くから水とともに生きている。だから水先案内人としてはうってつけ。そして、この大きな船を動かすのは、見てご覧」

頭上では青い帆が風をいっぱいふくんでいる

グレイス:「この帆に風をはためかせているのは、私たち風の民の力。水の民と風の民。これほど両者の力が合わさって有益になっているものも珍しいわ」



ベルタ:「そして増えすぎた船は水と風のバランスを崩そうとしている」

青一色のロングドレスに着替えたベルタ。その姿は夜の海に輝く月のように美しい



ヒューマとサーラはあまりの美しさと、あまりの変わりようにビックリしてポカンと口を開けている。

ムチをふるっていた人と同一人物とは思えない

ジェス:「紹介するぜ。ベルタ。これが『太陽の子』ヒューマだ」

ベルタ:「ようこそ、マリア・アズーラ号へ。私はこの船の船長ベルタ」

ヒューマ:「さっきは助けてくれてありがとう」

ヒューマの顔を食い入るようにのぞき込むベルタ。(あお)い瞳に、ちぢみあがっているヒューマが映る

ベルタ:「この世に再び太陽が昇ると思う?」

何を言われたのかわからない表情のヒューマ。だが、

ヒューマ:「もちろん。絶対に太陽は昇るよ。昇らせてみせる」

ベルタ:「だと、いいが」

サーラ:「そうよ。また小麦がたくさん()れるようになるわ」



遠い目でサーラを見るベルタ

グレイス:「ベルタ、この娘はサーラ」

サーラの肩を抱くグレイス

グレイス:「大地の乙女なの」

ベルタ:「なに?」

サーラ:「何言っているのグレイス。私は太陽の巫女よ」

ベルタ:「太陽が死の時間を過ごしている時には、大地の乙女は、太陽のそばで太陽を復活に導く。そして太陽が覚醒したならば、大地の乙女に戻り、世界に安定をもたらす」

朗々(ろうろう)と伝承を語るベルタ。

サーラ:「じゃあ、私は、大地の民なの?」

頷くグレイスとベルタ

サーラ:「そんなのヤダ。私は太陽の巫女(みこ)よ。ヒューマと一緒にいるの。これからもずっと」

いつになく興奮するサーラ。

ヒューマ:「大丈夫だよサーラ。これからも一緒にいられるよ」

ヒューマの言葉にも納得しない様子のサーラ

ベルタ:「大地の民を私の船に乗せたのは、これが初めて。でも人はいずれは必ず港に戻り、大地へと帰って行く。水にとっても、それが正しいのかも」

ベルタは船室に戻っていった。



ヒューマ:「良く見ると、彼女とグレイスって似てるよね」

グレイス:「妹なの」

ヒューマ:「いもうと?」

サーラ:「姉妹で違うの?」

グレイス:「まあ、いろいろあるのよ。色々あって妹は水に(かえ)っていた。ただそれだけのことなんだけどね」

読了ありがとうございました。

海路編まだ続きます。

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