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扉の無い部屋のたからもの

作者: タツヤ・ピエロ


これはどこかで聞いた事がある様な小さな青春の物語


「一体ここはどこだろう?」

目が覚めると知らない部屋で私は寝ていた


「ねぇ?知ってる?扉の無い部屋の話?」

「知ってる!知ってる!!この学園の3階からにょきって枝分かれした様に塔が屋上の方へ伸びてるやつでしょ?」

「そうそう。その塔に行ける道も階段も何も無い小さな小窓だけがある不思議な部屋みたいよ」

「何か大切な物があるらしいよ?」

「何だろう?」

「お宝とか?」

「そうかもね」

(お宝だと…!?)


四月

桜が咲き乱れるこの春花ノ宮学園の中学三年生になった俺、三浦聡司は割と暇な学園生活に飽き飽きしており何か刺激を求めていた

(確かにこの学園には不自然な造りの変な塔があるがまさかあの塔にお宝があったとはな!ちょっと見に行ってみるか!)


注意・この物語の主人公は至って真面目なので盗みに入る訳で無く至って好奇心で行くので悪しからず


放課後花ノ宮学園・屋上にて

(あそこの塔にお宝がねぇ)

確かにその屋上から少し下の位置には不自然な塔の先に小さな窓の付いた部屋がポツンとあった

そこに行ける手段は無くその塔が伸びている根元と思われる位置に来ても壁しかなくどう考えてもあの部屋に行ける手段は無かった

(無いなら、自分で切り開くまでだぜ!)

そして少年は屋上から飛んだのだった


注意・危険なので屋上からの無理な飛び移りはやめましょう


実に屋上からその部屋までは2メートルぐらいあり少し下の位置にあるにしても飛び移るにはギリギリの距離だった

しかし聡司は何の躊躇いもなく飛び移った

「おりゃあああ!!」

(よし!いける!!)

寸前の所まで勢いそのままだったがもう少しの所で聡司の勢いは失速した

(駄目なのか)

いつも自信たっぷりの聡司だが今回は自身の無謀さ、計画性の無さを痛感した

予定では勢いそのままに窓を破り部屋に乗り込もうと考えていたが勢いは無くなりそのまま下へ落ちていく

(ヤバい…!!)

落ちる覚悟を決めた時偶然にもその窓は開き、窓の縁に手が掛かった

聡司は自分の無計画さを悔いていたが何とか届いて一安心し窓をよじ登って中へと入った


「誰なの?」

「え?」

不意に問いかけられた質問に少し気の抜けた声が出た

そしてその声の主を改めて確認した


そこには息を呑む様な今まで見た事の無いぐらい綺麗な少女が立っていた

「不法侵入なの?」

美しい透き通っていたがか細い声でその少女はそう聞いてきた

「いや、俺はただお宝を見に来ただけで…」


注意・それは不法侵入です


「お宝?そんなの無いわよ?」

「え?」

確かにその部屋は狭くベットと机しかない寂しい部屋だった

「そうだったのかあの噂は嘘だったのか、じゃ仕方ない、俺は帰るわ、邪魔したな」

聡司はそそくさと自分が用意していた縄はしごを窓から垂らし帰ろうとした

「ちょっと待って!」

その少女は慌てた様に聡司を呼び止めた

はしごを降りる聡司は降りるのを一旦やめた

「どうしたんだ?」

「えっと、その…」

その少女は何かを言いたげだったので降りかけていた縄はしごを聡司はもう一度登った

窓の縁に腰をかけてその少女の話を待った


中々話を切り出さない少女を辛抱強く待ったのはその少女が真剣な面持ちで何かを伝えようとしていたからである

そして何かを決心したかの様にようやくその少女は口を開いた

「私と、友達になりませんか?」

「へ?」

いきなりの意外な申し出に気の抜けたような声が出てしまった

「駄目かな?」

返事の無い聡司に不安そうにそう聞いて来た

「いや、特に断る理由は無いけど」

「じゃあいいのね?」

その少女のキラキラと輝いていた表情に少し照れた聡司は顔を他所に向けてただ拳を少女に向け親指を立てて答えた


「ありがとう!」

横目でチラリと見た少女の笑顔は更に輝いていた

「名前は何て言うんだ?」

「私?私の名前はハナビ!」

「ハナビか、いい名前だな!」

最初にみた暗い表情から一瞬にしてパアッと輝やくまさに花火(ハナビ)と言う名前に相応しい少女だった

「君の名前は?」

「俺?俺は聡司だぜ!」

「そうなんだ、聡司、よろしくね」

「おう!」


しばらく他愛の無い話をしているとすっかり辺りは暗くなっていた

「じゃあ俺はそろそろ帰るわ」

そう言って聡司は立ち上がった

「ハナビは帰らないのか?」

「…」

少しの間、ハナビは考えてるかの様にすぐには答えてくれなかった

先ほどまでの明るい顔が嘘の様に一瞬暗くなったのが分かったがまた笑顔を<作って>聡司の質問に答えた

「私はさ、ここで住んでるんだよ!」

その何処か悲しげな作り笑顔は聡司も気付いた

「ここが家なのか?」

「そうだよ!」

そうきっぱり答えたハナビには有無を言わせない何かを感じた

ただ一言

「そうか」

とだけ言って深く追求はしなかった


そして俺はその日は掛けた縄はしごを降りたのだった

「聡司!また来てくれる!?」

見上げるとハナビが窓から身を乗り出して聞いてきた

「おう!明日また放課後にくるぜ!」

「分かった!私待ってる!」

そう約束を交わし俺は帰路に着いた


家に帰ると親父が待っていた

「聡司!えらい帰るのがおせぇじゃねぇか!さてはこれか?」

親父はいつも通り酒に酔っており小指を立てて俺に聞いて来た

「ち、ちげぇよ、親父!」

と、言って否定はしたものの内心

(この親父、酔っぱらいの癖に鋭いな)と当てられた事に内心焦っていた

「まあ、そんな事より聡司よぉ、おめぇ俺を継ぐ気になったか?」

「またその話かよ」


そう俺の親父は職人だ

花火職人

夏の夜空に一輪の花を咲かせ、皆を魅力する仕事だ

そんな親父の仕事に俺は誇りに感じてる

だけど、一度きりの人生

俺は自分が本当にしたい仕事を見つけてそれをやりたいと思っている

親に決められたくは無い


「俺は自分のやりたい仕事をやるんだ、花火職人は継ぐ気は無い」

「そうかぁ、聡司、おめぇの言うやりたい仕事は何だ?」

「べ、別に今は決まって無い」

「じゃあ、いつ決めるんだ?」

「それは…!この先の人生で自分がしたい仕事を探して行くんだよ!」

「お!それはいい中学生で人生を語るか」

「馬鹿にするなよ!俺は大真面目だ!」

そして俺は机に並べられた晩御飯を掻き込んだ


しばらく俺がご飯を食べていて親父は黙ったまま酒を飲んでいた

少しの間、静寂が続いたがまた親父は縁側から夜空を見つめながら言った

「聡司、花火は好きか?」

聡司はドキッとした

何故なら一瞬、今日会ったハナビの事を思い出したからである

絶対親父にはその動揺の理由はわからないと思ったが俺はそれを悟らせ無い為ただ一言「別に」とだけ言った

我ながら何とも煮え切らない返事を返した

その答えに対し親父は「そうか…」とだけ言って酒をグビッと一気に飲みまたぼんやり夜空を見上げていた

晩御飯を食べ終わった俺はその日親父とはもう話す事は無く

「ごちそうさま」

とだけ言って部屋に戻った


それから数日が過ぎて五月になった

聡司は放課後、花火の部屋に遊びに行くのが日課になっていた

放課後のチャイムが鳴ると俺は教室を後にしてあの塔の下に行く

するとハナビがそれに気づいて縄はしごを下に垂らしそれを登っていった

意外にもハナビとの放課後の日々は楽しかった

二人はすごく気が合い、他愛の無い話を延々と話し、暗くなったら帰る毎日だった


だがそんな聡司にも花火に対し多くの疑問があった

何故こんな塔で住んでいるのか?

制服を着ているのに学校には行ってないのか?

親は心配してないのか?

外には出て無いのか?

生活は出来ているのか?


普段小さな事には何も気にしない聡司ではあったがこのハナビの不自然な点は色々気になった

しかし気になったがどれひとつも聞けないでいた

最初に会ったときの「帰らないのか?」と一言言った後の花火のあの悲しげな表情がその疑問を聞こうとすると過って聞くと今のこの穏やかな日々が終わってしまうのでは無いかと不安に思ったからである


縄はしごを登りきるとハナビは笑顔で出迎えてくれた

「聡司!いらっしゃい!」

「ああ、今日はこの本を借りて来たぜ」

「わぁ、ありがとう!」

俺はハナビが塔での生活が退屈かと思い、花ノ宮学園入学して校内案内以来行った事の無い図書室へ通い適当に一冊本を借りてハナビに貸していた

その本は本当に適当に選んでいてある時は分厚い本、ある時は薄い絵本、ある時は綺麗な写真が載ってる写真集、ある時は雑誌などを借りて来たのだった


そして今日は写真集だった

その綺麗な表紙にそそられたのかいつもは俺がいる時は借りて来た本は開かなかったが今日はその写真集を開いてみていた

「ねぇ、聡司綺麗だね」

そう言ってハナビは俺にその写真集を開いて見せてくれた

ひとつの本を二人で見るには少し体を寄せなくてはならなかった為俺は写真集を見ようとすると俺の肩がハナビの肩に触れるのを感じた

ドッ、ドッ、ドッ!

凄い心臓の高鳴りを感じた

まるで世界中に自分の心臓の高鳴りが響いているかの様だった

「…、ねぇ聞いてる?」

「えっ?」

聞こえてくる心臓の音に気をとられ話しかけてくるハナビに気付かなかった

「凄く綺麗だよ!」

そう興奮しながらハナビはある見開きの1ページを食い入る様に熱心に見ていた

そのページには大きな花火が盛大に写っていた

「おう、そうだな…」

俺は何とも言えない返事をした

「花火嫌いなの?」

不意に覗き込まれたハナビの顔が近くまた心臓の高鳴りを感じたが俺は必死に冷静を装ってこう言った

「わからない…」

そう俺は自分の気持ちが分からなかった

こと花火に対しては好きか嫌いか分からなかった

本当は家を継ぎたいのか本当に他の仕事をしたいのか


しばらく考え込んでいる俺にハナビは言った

「私は花火大好きなんだ、自分の名前もハナビで同じだし、ううん、それだけじゃない、あの夜空いっぱいに広がる一輪の花、凄く綺麗で凄く好きなんだ!」

ハナビは今までに見たことが無いぐらいの笑顔で真っ直ぐな目をして言った

迷っている自分にはハナビが眩しかった

そしてただ思うのだった

俺の造った花火を見せてやりたいな

そして俺の造った花火を見せて、その笑顔を見たい

ただ純粋に聡司はそう思ったのだった


降りしきる梅雨の雨で少し気持ちが塞ぎ混む六月

いつもの様に放課後ハナビと話して家に帰った俺を親父は待っていた様だった

夕食は俺の大好きなカレーが用意されておりそれを夢中で食べていると親父は一枚のチラシを差し出したのだった

そのチラシは俺は見なくても分かった

毎年恒例の夏祭りのチラシだった

夏祭りはお盆の三日間行われその最後の三日目に花火大会がありそのトリを飾る花火を親父が作っているのだった

コップ一杯の酒をくびっと飲みきると親父は話しを切り出した

「聡司、俺の花火見に来いよ」

そうこれも毎年誘われるのだった

親父は自分の花火を見せる事で俺に仕事を継いで欲しいのだ

幼い頃の俺はよく親父に連れられその花火を一緒に見に行き花火職人を継ぐのに迷いは無かった

だから一緒に行っていたが最近はそれを断っていた

花火職人を継ぎたく無かったからである

だけど親父の誘いは断っていたが俺は友達と花火は毎年見に行っていた


そうか、当たり前だったが今年も花火があるのか…

すると頭の中にはハナビの事が思い浮かんだ


そうだ、今年はハナビを誘って一緒に見よう

あいつ花火が好きだからな


「親父、俺花火見に行くよ」

俺は堂々と花火を見に行きたかったから正直に言った

親父は予想もしてなかった答えに少し驚いた様だったが一言

「そうか、俺の仕事、しっかり見てな」

そう言うだけだった


次の日の放課後、俺は意気揚々と親父から貰ったチラシを持ってハナビに会いに行った

「いらっしゃい!聡司!ってびしょびしょじゃない外たくさん雨降ってたのに無理して来なくて良かったのに」

そう言いながらハナビはタオルを差し出した

「ありがとう」

ハナビから受け取ったタオルで濡れた体を拭きながら

(なんだよ、せっかく花火を見に誘おうと思ったのに別に来なくていいみたいな事言いやがって)

拭き終わったタオルをハナビに返した

(ダメだ、気を取り直してハナビを誘うか)

「ハナビ、今度一緒に花火を見に行かないか?」

(しまった、今考えるとまるでデートに誘っているみたいじゃないか)

聡司はそう言ったとたんに自分の顔が熱くなるのを感じた

しかしハナビからの返事は直ぐには返って来なかった

恥ずかしさのあまり外していた視線をハナビの方へ向けるとハナビはまたあの表情をしていた

そう、それは最初に家に帰らないのかと聞いた時と同じ暗く悲しげな表情だった

「ごめん、私行けない…」

「どうして…!?」

唯一あの時と違っていたのは俺が追求した事だった

「…」

しかし、ハナビは何も答えなかった


しばらく、沈黙が続いた

「それより聡司、今日の本は何か借りて来てくれたの?」

その一言に聡司の怒りは込み上げてきた

「俺は、俺はハナビのパシリじゃないんだよ!!」

「ど、どうしたの聡司?私、別にそんな風に思ってないよ!」

「もういいよ、俺帰る」

そしてそそくさと俺は縄ばしごを降りた

「待って!聡司!」

呼び止めるハナビの声も無視して俺は縄ばしごを降りそのまま帰った

梅雨の雨はいつもより冷たく感じた


あれからハナビとは一度も会わず七月が来た

あの日は早くハナビを花火大会に誘いたかった俺はいつも借りている本を借りるのも忘れてハナビに会いに行った


だけど本当は分かっていたんだ

ハナビが俺の誘いを断る事を…

あの部屋から出ない様にしている事を…

ハナビは全然悪くない事を…


独りよがりで、勝手に苛立ち、引っ込みがつかず今だにハナビ会えないでいた

放課後、あの塔の前を通るといつも通り縄ばしごがかけられていた

気づいていたが登る事は無かったがハナビは毎日縄ばしごをかけてくれていた

きっと俺が来るのを待っている

そんな気がした


ハナビに謝れないまま夏休み前日がやって来た

その日も縄ばしごがかけられていた

ハナビに謝って仲直りしたかったがこのまま夏休みを迎えると何だか二度とハナビとは仲直り出来ない気がした俺は塔の近くまで来たのだった

どう謝ったらいいのか全然分からなかった

本当に仲直りしたいからこそ真剣に悩み、どうしたらいいのか答えが分からず踏み出せないでいた

すると縄ばしごの近くに一通の手紙が落ちているのを見つけた

その手紙は俺宛ての手紙だった

(差出人は…っ!?)

その手紙の差出人はハナビだった

直ぐに俺はその手紙を開いて読んだのだった


聡司へ

久しぶりだね

元気だった?

この手紙を読んでもらえたなら私は本当に嬉しいです

あの時は聡司の気持ちも考え無いで自分勝手な事言ってごめんなさい

だけど私、聡司と仲直りしたいです

だから花火大会の日、聡司が来るのを待ってます

ハナビより


その手紙を読み終えると聡司は塔を見上げた

ハナビの優しさがその手紙には溢れていた

だからうつむいたら涙が零れてしまいそうになった

そして聡司はぐっと目を擦り何かを決意したかの様に家へ走って帰ったのだった


遂にやって来た八月

お盆の三日目

夏祭り花火大会の日


「はぁ、はぁ、はぁ」

辺りが薄暗くなる中、ハナビの待つ塔へ俺は走っていた

一刻も早くハナビに会いたかったからか足取りは早く気付けば俺は走っていたのだった


薄暗くなった学園に入ると塔の側に人影が見えた

(ハナビか…!?)

近いてみるとそこにはいつも制服とは違った浴衣を着たハナビの姿があった

いつもと違ったハナビの姿はとても綺麗だった

「…」

その姿に言葉を失っていると

「どうしたの?」

ハナビは不思議そうに見ていた

ふと我に返ると俺はハナビに今回の自分の身勝手を謝ろうと思った

「ハナビ…俺が…!?」

謝ろうとする言葉をハナビは人差し指を俺の口の前に立てて制した

「もういいよ、聡司、来てくれただけで分かってるよ、せっかくのお祭りだもん、楽しまなきゃね!」

「おう!」

そう言って俺たちは祭り会場へと向かった


「わぁ賑やかだね!」

そこには沢山の出店が並んでおり人々の楽しげな声や美味しそうな匂いが立ち込めていた

「さぁ食うぞ!」

俺は今を精一杯楽しもうと思いそう叫んだ

「食うの!?」

ハナビも驚きながらも凄く楽しそうに笑顔だった


楽しい一時も瞬く間に過ぎて花火が上がる時間がやって来た

「もうすぐ上がるな」

「そうね!楽しみ!!」

ハナビがそう言い終えるとドーンと花火の強烈な音が響いた

「は…っ!」

その音を聞いた瞬間ハナビの脳裏には一瞬にして記憶がよみがえった


一年と半年前

小学校を卒業すると共に両親の都合で引っ越しをすることになった

友達はみんな同じ中学に上がる

それが普通の事だが転校する私はそんな事が堪らなく羨ましかった


一年前

私はこの花ノ宮の町の夏祭りで行われる花火大会はとても綺麗だと知り嬉しかった

何せ自分の同じ名前の花火(ハナビ)に心が惹かれないはずはなかった

そしていてもたってもいられずその花火大会の日、私は家を飛び出した

祭り会場の近くまで来ていた

「はぁ、はぁ、はぁ、間に合うかな?」

だけど花火の打ち上げる時間が差し迫っていた

だから私は走った

力の限り

そしてあと一つ道路を渡るだけだった


ドーン


私の全身にその音は響いた

花火が宙を舞ったかの様に見えたのだった


「一体ここはどこだろう?」

目が覚めると知らない部屋で私は寝ていた

扉の無い部屋

何も無い部屋

すぐ私は窓から出ようとした

「何で…!?」

部屋から出した手が消えていた

慌てて戻すと手は戻っていた

自分の手と窓の外を繰り返し何度も往復して見た

そして膝から崩れ落ちて私は泣いた

「扉の無い部屋、それは出られない、出る必要の無い部屋なんだ…」

こうして私のつまらない扉の無い部屋の生活が始まった


ドーン

「綺麗だな、花火」

聡司の一言で我に返った私は「本当、綺麗」と念願だった花火を見たのだった

そして、足からうっすら自分の身体が消えているのに私は気付いていた

しかしやっと見られたこの綺麗な花火と私のつまらない扉の無い部屋での生活に花火の様な綺麗でカラフルな色を着けてくれた聡司と一緒に花火を見られたら私は悔いは無かった

「本当に綺麗だね、来て良かった」

そう私は笑顔で聡司に言った


君の花火の様に輝く笑顔が好きだ

俺はハナビの傍らでその横顔を見て思った

その花火(ハナビ)に目が離せなかった


だから気付いた

ハナビの足が消えていることに

嫌だ、ハナビ、消えないでくれ、もっと一緒に居たい、話をしたい


「どうしたの?怖い顔して?」

またハナビは心配そうに俺を見つめるのだった

溢れ出した感情は歯止めが効かず流れだした

暗い顔を消して決意したかの様に真剣な表情に替え真っ直ぐハナビを見て言った

「俺は、俺は!ハナビが好きだ!!だから消えないでくれ!!」

そう言うと今までとは比べものにならないぐらいのドーンと大きな花火が上がった

ハナビは激しく驚いた様な表情を見せた

そしてハナビの足は元に戻っていた


その花火は最後を締めくくる花火だった

辺りは鎮まりかえり暗く、綺麗な星空が広がっていた

告白したまま見つめ合う状況に俺は恥ずかしく思いハナビから目を反らしていたが足が戻っていて安堵した

「私…」

「そう言えば!」

「え?」

ハナビの答えが聞けず、俺はハナビが話すのを遮って話題を反らした

「俺、花火を作ったんだ!」

「え?凄い!」

「線香花火だけどね」

「いいじゃん!しよ!」


注意・子どもだけでの火の取り扱いは注意しましょう


ボゥ、バチバチバチ

「綺麗だね」

ハナビと俺は線香花火を始めた

ハナビの表情はまたみとれるほどの笑顔だった

「線香花火を見てると心がなんだか素直になれそうだね」

「そうだな」

ハナビの言うとおり本当にそんな気がした

俺は花火を見ている時のハナビの笑顔が好きだ

その笑顔を見続けたい


だから

「俺、花火職人になるよ」

「本当に?継ぎたくないって前話してたけど、決心したの?」

「ああ、俺、花火を見てる人の笑顔が見たい、そう思ったんだ」

「そっか、聡司なら出来るよ、私ずっと見てる」

「おう!任せとけ!」


「私も自分の心に素直になろうかな」

「え?」

今まで線香花火を見ていた俺の視線の先をハナビにやると同じくハナビも俺を見ていた

ハナビ満面の笑みで涙を一筋流して言った


「私も聡司の事好きだよ!そしてありがとう、沢山の思い出を、幸せを、聡司と一緒に花火を見れて良かった!花火が出来て良かった!!聡司の事…愛してます…」


線香花火が消えて行くと同時に花火の身体は薄れた

俺はハナビに手を伸ばした

ぼと、線香花火が落ちたとの同時にハナビは消えてしまった

ハナビが最後に見せた笑顔はより一層華やかな花火様だった


しばらく俺は言葉にならないほど泣いた

(ずっと、俺の花火を見てるんじゃなかったのかよ!俺が本当に見たい笑顔はハナビの笑顔だけだったのに…)

そこで俺は踞って一生分涙を流した気がした


十年後

「ねぇ?知ってる?この町にすっごいイケメンの花火職人が居るんだって」

「知ってる!知ってる!!すっごいイケメンだったよ!」

「でも仕事(ハナビ)しか興味無いんだって」

「じゃあ彼女作らないの?」

「もったいないね」

「ねー」


その年の花火大会にて

「聡司!!しっかり打ち上げろよ!!」

「おう!!任せとけ!!」


ドーン


「見事な花火じゃねぇか!!聡司!!」

「当たり前じゃねぇか!!親父!!なんたって俺が作った花火なんだからよぉ!!」


(きっとあいつも見てるかも知れねえからな)


扉の無い部屋のたからもの、扉が無いから持ち出してはならないかもしれない

だけど、そのたからものはどんな財宝よりも心を満たしてくれるそんなたからものだった

そうだよな、ハナビ…


そして俺は夜空に広がる一輪の花火(ハナビ)をただ見続けていた


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