いかにも童貞そうな、クラスメイトの冴えない男子が、「家で一緒にDVD見ない?」と誘ってきた
昼休みの教室。
自分の席でボンヤリしていた私に、いかにも童貞そうな、クラスメイトの冴えない男子が突然声をかけてきた。
「ぁ……っ……ぇ……ぃ…………」
「え、ごめん。何て言ってるか聞こえなかった」
ぶっきらぼうに私は答える。だって本当に聞こえなかったんだもの。
でも、たったそれだけなのに……目の前にいるクラスメイトの男子は少したじろいでしまった。
「ううっ……あ、あの……家で……一緒に…………その……DVD……ぅ……ぃ…………」
だから……聞こえないっての。特に語尾がっ!
「ねぇ、何なの? はっきり言ってよ。聞こえないわよ」
「ご、ごめんなさい……」
彼はぎゅっと拳を握り、力を込める。
「あのっ、僕の家で……一緒にDVDを見ませんかっ!?」
「……はい?」
頑張って頑張って……やっと言えた内容が、それなの?
誘い方、下手過ぎ。ホント、呆れちゃうんですけど……。
私、こう見えて結構モテるのよ?
ほら、周りを見てみなさい。クラスの男子達が貴方を見て笑っているじゃないの。
あいつら全員、私に告ってきて……無残に散っていった男子達よ。
“俺達がダメだったんだから、お前がオッケー貰えるわけねーだろ”って顔に書いてあるようだわ。
「ふぅん……逆にさ、よくそんな誘い方で許可が貰えると思ったわね。下心丸出しな、テンプレ中のテンプレ……。仮に冗談だったとしても、全然笑えないわよ」
「え……そんな……。こ、こう誘えば……絶対上手くいくってこの本に書いてあるのに……」
彼は懐から取り出した本をペラペラとめくり、私に該当のページを見せてくる。
本のタイトルは、“恋愛必勝法”……。
いや……確かにこの本にはそう書いてあるのかもしれないけどさ。あくまで本よ。誇張表現なんて幾らでも使うものじゃない。
……てか、それ見せちゃダメでしょ、私に。
「はぁ……それで、いつ?」
「え?」
「だから、いつ行けばいいのよ?」
「え??」
「……怒るわよ」
何で何度も聞き返すのよ? 誘ってきたのはそっちじゃない。行くって言ってるのに、何を戸惑ってるの?
「で、いつなの?」
「……っ。こ、今週の……土曜日……」
「はぁ?」
それって明後日じゃない! あのね、女の子はそんな急に言われても普通は無理よ。予定がいーっぱい詰まっているんだからっ!
「……わかったわ」
まぁ……私はたまたま空いてたからいいけど。
◆◆◆
彼の家の前に着いた私は、大きく一度深呼吸した後、インターホンを押す。
「こ、こんにちはっ!」
次の瞬間扉は開かれ、ボリュームを間違えたかと思うくらいの大声で挨拶をしながら、顔を真っ赤にした彼が姿を現した。
もしやずっと玄関前で、私のことを待っていたの……?
「いやぁ、き、今日はいい……いい天気だねっ! じ、じゃ、あ……中へ……ど、どうぞっ!」
……キョドりすぎ。それに家でDVD見るのに、天気とかどーでもいいし。
「お邪魔します」
彼に案内され、後をついて行く。
彼の服装は、これから都内に出掛けるかのような出で立ちだ。まるで何処かの雑誌から引っ張ってきたような……。
「……ん?」
足元に転がっていた雑誌に目が止まる。その表紙には、彼と全くおんなじ格好をしたモデルがポーズを決めていた。
ちょっと……冗談でしょ? 上から下まで丸パクり!?
もう少し捻ろうとか思わなかったわけ!?
自分の意思で行動できないのかしら。
これは……先が思いやられるわね……。
◆◆◆
「じ、じゃあ……これ。この映画……一緒に見よう」
彼の部屋に通され、ベッド脇に腰掛ける。
お店でオススメされていたんだぁ……と言いながら、おずおずと取り出したDVDは……まさかのタイ○ニック!?
「はぁ〜〜……」
思わず大きなため息を吐いてしまった。
「……え、もしかして……見たことあった?」
悲しそうな目でこっち見ないでよ! 泣きたいのは私の方よっ!
見たことあるとかないとかそういう以前に……こんな長い映画、ホントに見る気なの?
「…………」
……ホントに見始めた。
しかも、彼は食い入るように映画に夢中になっている。
こっちはチラチラと彼の動向を気にしているっていうのに……一向に仕掛けてくる様子は見られない。
「……あっ! ふ、船が……氷山にぶつかった!? 嘘……ど、どうなっちゃうのかな……」
アワアワしながら私とテレビの画面を交互に見るなっ!
史実なんだから、知ってなさいよ! ……一言で言うなら、この後沈没するわよっ!
「ねぇ、この後の展開話していい?」
もう、我慢の限界だった。
「え……何で? だ、ダメだよ」
「この後……この船は……」
「だ、ダメっ!!」
どさっ……と、ベッドの上に押し倒される。
「あ……ごめんっ! ……え?」
慌てて身体を起こそうとする彼の腕を、私は掴んだ。
「ねぇ、今日の目的って……一緒にDVDを見ることなの?」
「うっ……そ、それは……」
明らかに狼狽している彼。
真の目的なんて……最初からバレバレなのに。
はぁ……何でこんなやつ、私は……。
「……あのさ。普通、ついてくると思う?」
「え?」
「何とも思っていないクラスメイトの男子の家に、女の子が一人でホイホイついて行く事なんて……あるのかな?」
「…………え」
そのまま黙りこくる彼。
ねぇ、早くしなさいよ。
……ここまで展開作ったんだから、もうわかるでしょ?
最後の最後くらい……男らしくビシッとしなさいよっ!!
「……あのっ!」
彼は私を真っ直ぐ見つめた。
「僕は……君の事が……好きですっ!」
「……!」
言葉が……全身へと駆け巡る。
告白される事はわかっていたのに……私の心は大きく揺れた。
「もしよければ……僕と付き合ってくださいっ!!」
「……っ」
……声が出ない。代わりに溢れ出たのは、涙だった。
「ええっ……ゴメン。い、嫌だったよね……」
彼は私から離れようとするけど、掴んだ腕をもう離さない。離したくない。
「違うの……嬉しくて……」
……これが嫌がっているように、見えるの?
「……っ」
彼の方も、ようやく悟ったようだ。今度は私を優しく抱きしめてくれる。
「……ずっと、待ってたんだから」
彼の胸元で、私は呟いた。