かたおもい
『やっぱり、博則くんはかっこいいな』
紺色のセーラー服を着た穐田香苗は、同じ高校の制服を着る男子生徒――博則の後ろ姿を、うっとりとした表情で見つめていた。
香苗が博則と初めて出会ったのは高校の入学式の時で、一目惚れなんてしたのは後にも先にもこの時だけだ。
最初は単純にルックスが好みだっただけだが、博則は性格的にもイケメンだった。優しくて、正義感が強くて、行動力だって備わっている。
そんな魅力的な男子である博則を想うのは香苗だけではない。学年を問わず、博則は校内の女子の憧れの的だった。
恋のライバルは多く、元々内気だった香苗は、博則への想いを行動に移すことはせずに片想いのまま見守り続ける道を選んだ。
たとえ見守るだけとはいえ、博則を想う気持ちは誰にも負けないくらい強い。香苗にはそういう自負がある。
実際、咲苗の想いはとても強く、その想いの片鱗は、博則にも確かに伝わっていた。
「持ってやろうか?」
「いや、大丈夫だよこれくらい」
高校からの下校途中。スポーツバッグを辛そうに持っている博則を友人が気遣ったが、博則は笑顔で首を横に振った。
「そういえば、ここだったな」
繁華街に近い交差点に差し掛かると、博則は悲し気な表情で、歩道の隅に手向けられた花束を見つめた。
「ああ、事故があったんだっけか」
5日前にこの交差点で交通事故があり、横断歩道を渡っていた女子高生がトラックに跳ねられ死亡した。
亡くなったのは博則たちと同じ学校、同じ学年の女子生徒で、名前を穐田香苗という。
「拝んでいこう」
「そうだな」
博則は手向けられた花の前で両手を合わせ、友人もそれに続いた。
「ヒロ、この子と知り合いだったのか?」
「いや、一度も話したことは無いよ。でも、同じ学校の生徒だし、何もせずに素通りするのは失礼だろ」
「真面目だなお前は」
「そんなじゃねえよ。人情っていうか、何ていうか……」
例え友人ではなかったとしても、予期せぬ死という不幸に見舞われた女子生徒を思うと、博則の心は痛んだ。
さぞ無念だったろう。将来の夢があったかもしれないし、恋人や好きな人だっていたのかもしれない。
彼女の未来は、この場所で潰えてしまった。
「……そろそろ行くか」
博則と友人は事故現場を後にし、帰宅の途についた。
「なあ、やっぱりバッグ持ってやろうか?」
頻繁にスポーツバッグを持ち替えている博則の様子が気になり、友人が再度そう提案した。
「……悪い、じゃあちょっとだけ持ってもらおうかな」
「お安い御用だ」
友人は博則からバッグを受け取り、左肩へとかけた。
「最近、肩の調子でも悪いのか?」
「ああ、何だか肩が重い感じがしてな」
「疲れてるんじゃないか?」
「そうかもしれないな」
「あんまり長引くようなら、病院に行った方がいいぜ」
「そうだな。考えておくよ」
「いつから調子が悪くなったんだ?」
「はっきりとは分からないけど、たぶん5日くらい前からかな」
『ひ、博則くんが、わ、私のために拝んでくれた!』
自らが死んだ事故現場の前で、香苗は喜びのあまり飛び跳ねていた。
『嬉しすぎて死んじゃいそう』
否、もう死んでいる。幽霊ならではのジョークのようなものだ。
『やっぱり博則くんは優しいな。ますます好きになっちゃうよ』
強い想いは、霊をこの世に留まらせてしまう。
強い想いは、時に霊障という形で、人や物に影響を及ぼすこともある。
今回のケースでは、香苗の強い想いが博則の体にある影響を与えていた。
香苗の片想いが、博則の肩を重くしている。
『片想い』と「肩重い」
意味はまったく違っても、音は一致している。
香苗の想いの成したことか、あるいはただの偶然なのか。
それは誰にも分からない。
了




