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チャージング・ユーザー  作者: 関羅々
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一章:奏太と来

一章:奏太と来


 『ゲームセット!』


 電子音が鼓膜の奥まで鳴り響いた。その後、遅れてドームの端から端まで反響する。

 『勝者、月奏ツキソウ!ブレイクポイント、32万2500ポイント』

 俺の周りで、プロジェクションマッピングで生み出された紙吹雪が舞う。それを見て安心したかのように、俺の手の中に収まっていた刀「退語ノガタリ」はブウンと鈍い音を立てて姿を消した。

 32万という数値に驚いた大会の観客たちは、どよめき半分、拍手半分。このドームの収容人数は10万弱だから、拍手してくれている人は4、5万だろうか。若干少ないようにも思えるが、それでも勝ったことと相まっていつもの倍嬉しくなる。

 上を向くと、こちらもプロジェクションマッピングで「CTW全国大会本戦」と写されている。

 CTWチェンジング・ザ・ワールド。通称「チュワ」

 27世紀に流行り始めた世界初リアルバーチャル・ゲーム。最新のスマホ型携帯電話「ディファレントガラパゴス携帯(通称ディッパ)」を使って、ディッパの中から自分専用の武器を取り出し戦闘するもの。日本で大流行していて、これをやっていない、やったことのない人は9割9部9輪幼稚園児だろう。このゲームは7歳以上からしかできないから。

 今日はそのチュワの全国大会。全国の強者たちがこぞって戦いまくるトーナメント形式の大会だ。俺は生まれて19年、チュワユーザーになってから12年。初めて手に入れた初期装備以外の武器「退語」は結構強い代物であり、それを相棒とし日々歩んできた。今ではランク618までいっている。

 そんな俺はこの大会でどこまで俺の力が通用するのか確かめたくて参加したわけだが、相棒と奮闘してもう16勝目。70位入賞確定のところまで上り詰めた。

 次の対戦相手が来るまで、または次の対戦相手のところへ行くときしか休憩のないこの大会は、まさにスタミナキラーだと思う。

次の俺の対戦場所は変わらないため、相手がこちらに移動してくるだろう。一戦前の自分を思い出して悲しくなる。あのときはここと一番離れたところからの移動で、息切れしながら急いで走ってきたのだ。

 そうこう考えている間に、次の対戦相手が俺のところへ歩いてきた。


 青みがかった白よりの髪の毛に、真っ青な瞳。クールな顔つき。どこの外国人様だよと思うほど、日本人とかけ離れた顔の持ち主だった。

 その人物が立ち止まった瞬間、自分のディっパはブブ、と震えた。

 ディっパのチュワ中の短いバイブレーションは、すなわち警告を表すものだ。対戦相手を前にして、「こいつは強すぎる、お前には無理だ」と親切にも教えてくれるのだ。それでも、大会中は棄権は許されない。

 ここまでか。そう思って、70位入賞商品を思い出そうとしていると、観客席から声が上がった。

 「あいつ...チャージングじゃねぇか!」

 チャージング。それは、チュワへの課金者のことである。

 チュワは全国民が楽しく遊ぶためのものであり、金で優劣を競うものではないとされているため、一回の課金額が半端ではない。それこそもう5000万から上の世界なのだ。そして5000万以上課金した人物は、忌名か敬称か、チャージングと言われている。

 そんなチャージングが、目の前にいる。自然と身震いがした。よく見たら相手のランクは999。カンストしている。

 チャージングはこの大会内では見ただけでわかる。履く靴を「赤のスニーカー」に統一されているからだ。逆にチャージング以外のプレイヤーは赤のスニーカーを履くことを禁じられている。それはチャージングがわかった方が客が沸くからか、一般プレイヤーに危険度を知らせるためなのか、意図までは知られていないが。

 さてどうしたものか。潔く負けてしまうか、それとも最後まで必死になって会場の同情を誘うか。やるなら圧倒的前者だろう。下手に同情を誘って失敗してただ相手にしがみついただけの格好悪いユーザーになるよりかは、なんぼかましだろう。

 

 戦闘開始の合図はまだ鳴らない。多分、他のユーザーでまだ移動できていない人がいるのだろう。俺は静かに対戦相手を観察する。

 所謂クールビューティというものなのだろうその顔は、学校に一人いるかいないかくらいの美形だ。かといって着飾っていない。長袖カッターシャツに、下は色の薄いチノパン。とてもシンプルだ。

 そこで、ビィーっとブザー音が響いた。


 『お待たせしました、戦闘開始まで、あと10秒です!』


 観客から、「10、9」とカウントダウンする声が聞こえる。四方八方から出されるそのコールに少し五月蝿いなぁと思いながら、ディっパの画面を除いて、武器を取り出す準備をする。

 チュワのルールのひとつで、「戦闘開始5秒前まで武器を出してはいけない」というものがある。逆に考えれば戦闘開始までに5秒の戦闘態勢準備の猶予があるということだ。俺は5秒を切ったところで退語を取り出し、ディっパをジーパンのポケットにいれる。

 ―――どうやって負けようか?と考える。とりあえずある程度戦ったほうがいいだろう。どこまで本気を出すか。対戦時間は最長30分。15分くらいまで奮闘しよう。いや、その前に負けてしまうかもしれない。それはそれでいいだろう。

 悶々と考えている間に、開始まであと2秒に迫っていた。退語を持ち直して、思考を止める。


 『戦闘開始!』


 ビュン。

 カタカナで表すにはそれが最適だろう。相手ユーザーは音速と言っていいほどの速さでこちらまで距離を縮めてきた。ユーザーの名前は、戦闘開始とともにそのユーザーの頭上に表示される仕様となっていて、俺はいつも......というよりかは全ユーザーが戦闘開始時に名前を確認するのだが、今、それができなかった。

 急いで退語を目の前へ持ってきて、防御の姿勢をとる。

 ガキンという音が二回響いた。相手は短剣二刀が武器らしい。退語を回すように振って相手の短剣を弾こうとするが、それより早く相手は剣を引いた。

 引いたと思ったら今度は右手に持っている短剣で俺の左脇を狙ってきた。急いで防御に入るが、防御したところで今度は相手の左手にある短剣が俺の右脇を狙ってくる。急いで身を引くが、掠ってしまったらしくピピっとダメージポイントが加算された音がディっパから鳴った。

 その音が鳴り終わるか鳴り終わらないかの瞬間に、相手の短剣二本が目の前に迫ってきた。それを防ぐためにこれもまた急いで退語を前へ持ってきた。先程と同じようにガキンと音が響いた。動きに動いていた体が、相手との押し合いになり一瞬固まる。


 「月見里・奏太ヤマナシ・ソウタ...」

 「っはぁ?」

 押し合いの最中、相手にそう呟かれた。月見里奏太、たしかに彼はそう言った。

 それは俺―――月奏の本名であり、チュワ世界では使ったことのない名前だ。なぜこいつは俺の名前を知っているのか。一瞬そんな不安にも似た疑問が浮かぶ。

 その一瞬が命取り。誰が唱えたかその名言兼教訓に俺は負けてしまった。気付いた時には相手の矛先が心臓へと向いていた。防ぐこともできずにぐっさりと短剣が刺さった。


続く

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