象徴詩『諜報員』
鵯鳴きの円い道は
ある諜報員の魂を廻らせていた
脳間に挟んだ
当世のエメラルド表を
絶やさずに持つ者の仕掛けた
浮流機雷に接し
記入されている
思想の求心性の分析
出来るならば奪取
属す組織を突き止め
構成員を楽しませている
宗旨リストを作成する
概ね
次の三ヶ条
乞える
越える
超える
鞴を往復
粘った空気
蒸溜瓶を噴き上げる
湿った埃
百科の威に伏する愚行を難ずることが
新たなひとつの形骸に熟成すると
夥しいルルスの生まれ変わりが
水銀卵を抱えた体を晒し
六芒の蜘蛛の巣に引っ掛かってゆく
炉に石炭が爆ぜ
溜まる波線が思考を洗い流し
虚ろを隠すように虚ろから
爽やかな風が吹く
吸い込まないように
息を止めるが
既に幸福が満ちている
諜報員は
天と地の対極を繋ぐ紡錘体に
繊維化した蠅頭細書を
貼り付けてゆく
鵯鳴きの円い道
水銀卵を赤子のように抱えた
諜報員の魂を廻らせている
上長からの指令は届いていないが
道は手紙で埋め尽くされていた