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この指に触れて  作者: 晴
アルヴァディア
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異世界来訪

 近江家には決して他人には渡してはならないとされている家宝がある。

 光の屈折の為か、虹色に輝く宝石のついた二つの指輪だった。

 祖母が嫁ぐ際に持ち込んだものらしく、祖母から母へ、そして私へと受け継がれている。私は二歳の時にこの指輪をもらった。祖母に見守られながら、母から左手と右手の小指にそれぞれはめられた。

 以降私の指から離れることはなく共に人生を歩んできた。面白いことに、指輪は私の成長に合わせて同じように成長するかのように指にフィットし続けてしている。少し気味の悪いものに思うが、どうしたって付き合っていくしかない。

 この指輪は何をやっても外れてはくれないのだから。



【この指に触れて】



 目覚めた時、私は草原の真っ只中にいた。草しか見えない丘の上で、緑のベッドは悪くないけれど、四脚の本来のベッドに寝ていた筈の私はどこへいったのか。

 夢だと思い、再び目を閉じた私の頬を無遠慮にも杖がつつく。杖を掴み、痛みに目を開けるとその先には見目麗しい子供がいた。

 この日から私は子供――アルヴァン・レギンと言う少年の弟子となった。

 まず私に現状が夢ではないと叩き込み、この世界が異世界であることも踏まえさせ歴史地理も叩き込み、ありとあらゆる魔術を教え込み、立派にこの世界に慣れさせた。半ば無理矢理に。

 そんな出会いから早くも六年が経っていた。


「化け物ですか、師匠」

「誰が化け物か、私は竜族<フォステス>だと言っておろうが」


 そんなやり取りをして杖で思いっきり叩かれる、というやり取りを飽きもせず私は定期的に繰り返している。

 師匠ことアルヴァンは六年経った今でも相も変わらず少年の姿のままだ。そんな少年の隣には少女からもはやおばさんと言われてしまう年になってしまった私がいる。

 そんな見た目はあべこべな師弟の様を周囲はなんとも言えない表情で見ている。

 この異世界グランファンタズマの中のアルヴァディアと言う国に私達はいる。師匠がこの国の最高魔導師であるからだ。彼は王と同等の権利を持ちこの国を動かしている一人だ。見た目は子供、されど既に数百年を生きた知識に富んだ竜族の一人である。

 人間よりも優れた知識も力も持つ彼が何故人の国に留まっているのかと言えば、一端は私にあるようだった。正しく言えば指輪に、だろうが。

 彼いわく指輪に命ぜられたそうだ。私を召喚し、迎え入れよと。私が指輪の持ち主だから乱暴さは否めないが世話をやいてくれているのだろう。

 指輪の価値はこの世界を変えてしまう程のものらしい。指輪に選ばれたものこそグランファンタズマの次代の王とされている。おまけに多大な魔力を宿し、宿主にそれを与える。かくいう私も指輪のおかげで魔術を行使できているのだ。

 そんな指輪が再びグランファンタズマに現れた、なんてそうとうなスクープだが生憎と騒がれてはいない。

 本来指輪はとある一族によって守られていたのだが、ある日指輪に選ばれた一人の少女と共に消えてしまって以来行方不明とされている。もう何十年と前の話で今更指輪に頼ろうとは思っていないのかもしれない。むしろ出てこられた方が争いの種になりかねない。

 私自身、手には常に手袋をはめて隠している。師匠にも言われたが時が来るまで下手にさらさない方が良いと言われた。魔力を行使できている時点でおまえも指輪に選ばれているのだとも。私も魔術師という職を楽しめるようになってきたので、ここで魔力が使えなくなるのは困る。


「サヤ、余所見をするな」

「ごめんなさい、踏まないで」


 お茶目な師匠は私の足を踏みながら叱咤する。

 現在私達が居るのは謁見の間だった。隣国であるリシュヴァルドの王が視察に訪れている。王が王座に御座し、その隣には師匠、逆隣に宰相と権力者達が経っている。私も師匠の弟子として師匠の一歩後ろに控えている。

 リシュヴァルドの若き王ガヴェイン・リシュヴァルドは銀鎧を惑い、赤絨毯の上を凜然と歩く。その後ろをリシュヴァルドの騎士達が続く。


「長旅ご苦労でした、リシュヴァルドの王よ」

「視察をご許可いただき感謝致します。仰々しい装いで申し訳ない」

「構いません。部屋を用意しておりますから、本日はゆっくりと休んで下さい」


 王と王が形式的に会話する中でガヴェインの視線が師匠に向く。


「彼がアルヴァディアの竜導師ですか」

「ええ……アルヴァン」


 王の呼び掛けに対し、師匠が動く。にこやかに対応する師匠の姿は珍しい。私には怒ってばかりの彼の顔が穏やかに笑う瞬間が好きだ。同時に弟を思い出し、少し切なくなる。

 ふと、リシュヴァルドの王が私を見た。


「彼女は?」

「……私の弟子です」

「名をお聞きしても?」


 リシュヴァルドの王はマイペースらしい。弟子の名なんて聞いたところで意味など持たない。


「些末な名です、王のお耳に入れる必要など」

「貴方は彼女が罪人だと?」


 私を庇おうとして師匠が放った言葉もガヴェインは退ける。

 師匠は私をあまり王に接触させたくないようだった。絶対ではないが、おそらく指輪に選ばれる可能性が高いのが王だからだと思う。

 私も接触したくないと思った。リシュヴァルドの王を見た瞬間、ざわりと心が波打つのがわかった。同時に指輪が共鳴するように脈打つ。説明は出来ないが何かを感じているのだ、私も指輪も。

 だがここで黙っていて国同士の関係に亀裂を入れるのはあまりよろしくない。私は息をのみ、前に出た。


「サヤと申します、リシュヴァルド陛下」

「サヤか、珍しい名だ。何度かアルヴァディアに訪問させていただいたが、今まで会ったことはないな?」

「……はい。私が城に上がらせていただいたのは一年程前からですので、お会いするのは初めてかと」

「そうか……」


 ガヴェインは顎に手を当て、観察するように私の顔をじっと見る。居心地が悪く、私は師匠に助けを求めるように視線を送った。師匠も何かを思ったらしく、動こうとしてくれたが、先にアルヴァディア王が動いた。


「気に入ったのであれば、後で部屋に向かわせましょう」

「っお待ち下さい!」


 師匠は焦った声を上げて、王の側に駆けた。私

は言葉も出なかった。


「サヤには文不相応な役割です、お考え直し下さい」

「何も子を為せと言う訳ではないのですよ。彼が気に入ったのであれば良いのです。浮いた噂のない彼が気に留めるものが我が国のものならばより密接な友好関係が築ける……彼は義理堅い男です、おまえも知っているでしょう」

「しかし……っ」

「おまえがそうまでして気にかけるとは珍しいこともある。大丈夫だ、無理強いするような男ではない、安心しなさい」

「お話は終わりましたか」

「……ええ」


 何かを確認するように私を見ているガヴェインの視線に耐えながら、私は師匠をもう一度見た。彼は首を左右に振っていた。私は言葉が出なかった。


「先程の王の申し出、是非お願いしたく思います。彼女ともう少し話がしたいので」

「気に留めていただけたようで何よりです。宴の後、向かわせましょう」

「有難うございます」


 今、何の許可が出たのだろうか。茫然とした私を師匠が無理矢理引きずるように退席させる。ガヴェインはアルヴァディア王と何かしらの話をしながら、私に向かって微笑んできた。


 何これナニこれなにこれ。



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