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王子様(女)と王子様(オタク)

 次の日、私より少し遅く登校してきた美加ちゃんはとてもご機嫌だった。

 私たちは家も近く、中学までは一緒に登校していたけど美加ちゃんが早朝に空手の練習を入れるようになって高校では別に登校している。

 そのご機嫌な美加ちゃんだが、そのナニカを含んだ笑みに私は強烈に嫌な予感がする。

 あの顔をしている美加ちゃんは何かを企んでいて、尚且つ私のことを巻き込もうとするのだ。


「桃~! あのさぁ」


 ほら、来た。何かをお願いする時、美加ちゃんは私の名前を甘く呼ぶ。騙されない、いくら美男子系乙女とはいえ幼馴染なのだ。いやということは嫌と言おう。まだ何も言われてないけれど。


「なんか、隣のクラスの子に聞いたんだけどね。私の他にファンクラブが出来てるヤツがいるんだって。珍しくない?」


「へぇ……そうなんだ。それより今日の英語予習した?」


 見えた。そのファンクラブが出来た美少女か美男子を見に行こうという作戦だろう。

 いつもなら軽い気持ちで見に行ったかもしれない。でもなんとなくそのファンクラブを作っている人物に身に覚えがあるのだ。これはただの予感だけど、こういう予感は結構当たってしまうのだ。


「したした~。テキスト8ページからね。じゃなくて、そいつに興味あるから見に行ってみない?」


 ぶれない美加ちゃんに奥歯を噛みしめる思いで、はぐらかそうとする。私の様子に気が付いたのか、彼女はその綺麗な顔をこちらに近づけた。


「どうした? いつもなら軽い気持ちで見に行くじゃん?」


「いや、なんかあまりそういうの興味ないっていうか……その人が何組かとか分からないでしょ?」


「D組だってサ」


 うう、あのズボラな美加ちゃんが調査済みとは迂闊だった。


「名前は? 名前分からなきゃ確認できないよー」


 私は誤魔化す様に笑ってみる。嫌な予感が当たるならD組のファンクラブを作りそうな人に昨日知り合ってしまったわけで。


「いちのー? いちのナントカで、名前がね女にもいそうな名前だった。なんだっけなぁ」


「あ、あー! そうだ。私先生に呼び出し食らってたんだった。ごめん、美加ちゃん。一人で行ってきて!」


「あ! ちょっと待ってって!」


 私は止める美加ちゃんを尻目に一目散に教室から逃げる。

 一年D組、いちのナントカ、女にもいる名前。ええ、知っていますよ。それはさっこみゅ今月のピックアップファンタジー作家さんですよ。

 ファンクラブが出来てもおかしくないくらい美形だけど、本当にファンクラブがあったとは思わなかった。

 でもファンクラブのみんなは彼の中身がアニメオタク、しかもサイハイソックス萌えだというのは知っているのだろうか。

 ……知るわけないか。


「遠藤さんおはよう。昨日は早退して悪かったね」


 噂をすれば何とやら。目の前には麗しい一ノ宮瑞輝くんの姿がありました。


「おーい、桃! 待てってば!ってあ……」


 そしてナイスタイミング、美加ちゃんのすこしハスキーな声が後ろから響く。

 4月中旬、さわやかな朝。イケメン(女)とイケメン(残念)が華麗に出会ったのでした。


「遠藤さんのお友達、はじめまして。一ノ宮瑞輝だよ、よろしく」


「あ、あー。私、小村井美加」


 一ノ宮くんは私と初めて会った時と同じように、美加ちゃんと握手をする。


「なんだ、あんた知り合いだったんじゃん。みずくさいなー」


「いや、知り合いというかなんというか……」


 小声でやり取りする私を一ノ宮くんが不思議そうに見ている。


「きゃー、美加様と一ノ宮くんが並んでる! 絵になるわ~」


「本当、惚れ惚れするね」


 外野の女の子たちの黄色い小声での歓声に私はとてもいたたまれなくなる。

 それでも彼女たちのビジョンから私は除外されているようで、それだけは本当に助かった。


「人が増えてきて、廊下が狭くなってしまうから僕は失礼するよ。それじゃあ」


「あ、おう! じゃあ」


 会話だけ聞くと男の子が話しているみたいだ。

 一ノ宮くんはゆっくり私の隣をすり抜ける。外野から見ればただすれ違った一生徒に見えるだろう。

 だけど、時を巻き戻して一ノ宮くんの口元を見てほしい。私の隣をすり抜ける時に僅かにそれは開いて、けして他の生徒には聞こえない声が私の鼓膜に届く。


「今日こそはまじかる☆ステラについて語りあかそう、同志よ」


(いーやーっ!)


 顔面蒼白の私は冷汗をかきながら美加ちゃんを見つめる。

 美加ちゃんは振り返って私になんとも言えない表情を見せた。

 それは笑っているのか困っているのかなんともわかりにくい表情だ。


「あいつ、すげぇな。王子様だね」


 さすがファンクラブ作るだけあるな、と美加ちゃんは続けて呟いている。

 いやいや、あなたにもファンクラブあるからね。

 私は美加ちゃんの手を引きながら教室に戻る。うう、放課後になりたくない。

 鬼塚くんには会いたいけれど、これじゃあ部活にならないじゃないか。

 朝のHRが始まる予鈴を聞きながら足早に教室に戻る。

 嫌な予感が的中し、なんともブルーな1日が始まるのだった。

次話は2月17日更新予定です。

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