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ナルキッソス

作者: まはろ
掲載日:2013/10/25

生徒達が賑わう教室。


昼休みである為、皆それぞれのことをしている。



小説を一人読んでいる少女がいた。

ショートカットの女子生徒だ。

背筋を伸ばしていて、とても姿勢がいい。


本にはカバーがされておらず、彼女が何を見ているのか、一目でわかる。

池波正太郎の「剣客商売」だ。


それを読んでいる少女に近づく男子生徒がいた。



彼は、地毛である茶髪ははねることなど知らない、さらさらな直毛。同じ色をした弓なりの眉と、バサバサと瞬く度に音がしそうな長い睫毛。くっきり二重でアーモンド型の目。瞳は緑である。鼻は小鼻でつんと高く、顔は適度に彫り深い。肌は日焼け知らずなのか、真っ白だ。しみやそばかす、傷はひとつもない手入れしたかのような肌だ。

高身長な、その体は無駄な肉は一切なく、適度に筋肉がついている。今時で言う細マッチョというものだろう。

ハーフであろう、美男子だ。

彼の名前は玲司(れいじ)


そんな完璧にみえる彼は、本を読んでいる女子生徒に話しかけた。





「ねぇ、(しずか)ちゃん。僕の美しさに並ぶ、美しい女の子はこの学校にはいない。かろうじて言うならば、この学校の中で美しさを競うと、君はトップだ。ああ、そう、もちろん、僕には負けるだろうけどね。女子の中でって、意味だ。君の欠点は愛想がないことと、身長が平均的なことくらいだ。そこをどうにかして治すことが出来たら、君は俺の隣を歩いても、恥ずかしい思いはせずにすむ。君は何かにつけて、僕を見てたね。熱い視線の中で冷ややか視線だったから分かりやすかったよ。あと、何かにつけて、僕にそっけない態度だ。君は分かりやすいね。好きな人を虐めたくなるんだろう?けど、僕のことを知りたいから、見てたんだろう?そこまで、僕の事が好きなら、いいよ。特別に付き合って上げよう」






(しずか)と呼ばれた彼女は、本に栞を挟み、顔を上げた。

女子生徒もさらさらな直毛の黒髪だ。ショートカットのために、白いうなじが眩しい。前髪は眉にかかるほどの長さ、眉は細過ぎず太過ぎず意思が強そうに主張している。その眉の下の瞼はくっきり二重。猫のような瞳は大きい。さらに黒目も大きいために、ますます猫のようだ。そして化粧をしていないのに、玲司に負けないぐらいに睫毛がバサバサしている。肌は透き通るように白い。目を凝らせば、青い静脈が見えそうなくらいだ。

その体は小柄で華奢であるが、しなやかに筋肉がついている。


彼女は玲司に冷たい瞳で見てこう言った。


「ごめん。タイプじゃない」


玲司は面食らう。


「ま、まさか。そんなはずはない」


「ごめん。本当にタイプじゃない」


「フッ。わかったよ。それも、あれだろう?僕の気を引きたいための、戯れ言だろう?そんな駆け引きはいらないんだ。僕が付き合ってあげるって言ってるんだから、もうそういうのはいらないんだ」


静はため息をつく。


「いや、好きじゃない。もっというと、嫌いを通り越して興味があまりない。見ていたのは、うるさいって思ってたから」


「そ、そんな・・・。僕程の美男子を好きではなく、嫌いだと・・・?」


「そう。タイプじゃないから」


「タイプじゃない・・・?じゃあ、君がタイプの男はどんな奴だ・・・?あ、わかったぞ。あはは、そうゆうことか。君の恋愛対象は女だったんだな。そうかそうか」


「違う」


「え?・・・なんなんだ!わからない!!!じゃあ君のタイプはどんな男だ!!!」


静は眉をしかめる。


「うるさい。口で説明するのが面倒だから、明日、ここにきて」


明日は土曜日で学校は休みである。

静はメモに達筆な字で住所を書いて、玲司に渡した。


「ハハッ。わかったぞ。そう言って、デートしようって魂胆だな。君は本当に素直じゃない」


静は無視して、本を読み始めた。


















玲司は同じクラスの男子生徒に話しかけた。


「なぁ。静ちゃんって僕のことタイプじゃないんだっていうんだ。おかしいよな」


「いや、普通じゃね?」


「え?な、なんだって!?」


「だってお前って観賞用らしいし」


「か、観賞用!?」


「いや、女子がそう言ってたからな。ま、いいじゃん。お前、面白いから」


「お、面白い?」






玲司は同じクラスの女子生徒に聞いた。


「なぁ、静ちゃんって俺のことタイプじゃないんだって。おかしいよね?」


「あははは。当たり前だって!」


「え?な、なんだって!?」


「皆そうだよ。玲司くんは皆のアイドルだもん!面白いしね!!!」


「え?お、面白い?」


「うん!なんかそれがウリのイケメン芸人みたい!」


「え?ウリ?芸人?」


「うん!イケメン芸人いいと思うけどなぁ」


「イケメン芸人?」








家に帰った玲司は、家族に聞いた。


「僕のこと、タイプじゃないって女の子がいてさ。おかしいよね?」


「まぁ、お母さんが若かったたら、一緒に遊んで欲しいけど、旦那さんには、したくないわよね」と玲司母。


「え?この美しい僕と結婚したくないの?」


「お兄ちゃんはいつまでもひとり身だね。きっと。それで、孤独死。けど、それでいいと思うよ。みんなに夢を与えてくれるディズニーの王子様みたいな存在だから誰かとくっつくと夢みれないし」と妹。


「え?ひとり身?孤独死?」


「レイジは、自分だけじゃなくて、他人を愛することをしないとダナ。ガールフレンドを早く作ってほしいよ。そうじゃないと、自分が写った水面に見惚れて、池に溺れて死んじゃうよ。パパは、そんな死に方をして欲しくはないよ」と父。


「え?溺れ死ぬ?」





その日、玲司は夢を見た。


アイドルになり、ライブをしていた。

しかし、いきなり、一発ギャグをさせられる事になる。玲司は一発ギャグをすると、皆が笑う。

玲司は皆を笑わして、家にかえる。

家には誰もいない。そして、何故か池がある。玲司は池をのぞきこんだ。その池には、のぞきこむ自分ではなくて、(しずか)が映っていた。

“ごめん、タイプじゃないから”

水面に映る静はそう言ったら、消えた。

そして、玲司は笑われながら誰かに背中を押されて、池に落ちる。

誰かに助けを求めても、誰も助けてはくれない。

一人で池に沈んでいった。







ハッと起きた玲司は、危機感を感じた。そして、考えた。


孤独死は嫌だ。

静のタイプを知って、旦那さんになりたい男に変わろうと。















土曜日になり、気合いの入った玲司は10時にメモにかかれた住所の所に向かった。











道場。

なんで、道場なのか。


混乱した玲司に声がかかる。


「来たんだね。靴を脱いで入っていいよ」


静だった。道着姿の。

姿勢がよい黒髪で色白な彼女の道着姿は、いつもより、凛としている。

玲司は一瞬見惚れた。


やはり、僕の隣に立てるのは彼女しかいない。


そう考えながら、勧められるままに道場に入る。




ヤァァ!

バシッバシッ


威圧感のあるかけ声と竹刀がしなる音が聞こえた。

中では剣道が行われていた。


「わたしのタイプの人、あの人」


彼女の目線を追うと、素人の玲司にも分かる強そうな大柄の男がいた。


試合中なのか、防具をつけていて、1対1で向き合っている。

顔は見えない。


男はかけ声をあげて、素早く踏み込む。敵が竹刀を振り下ろしてきたのを、竹刀で叩き落として、かけ声をあげて素早く敵の顔に竹刀を振り下ろす。


パシィィィン、という音が一面に響いた。


確かに強そうだ。


「ほんと、つよい」


静は、頬を緩ませて目尻を下げて、微笑んでそう言った。見たこともない表情に、玲司はムッとする。


問題は、顔だ。

どんなイケメンなのか。


玲司は男の顔を見ようと、目を凝らす。


勝った男は一礼をして、道場の端で防具を外した。

男の顔を見て、玲司は驚愕した。





ゴリラだ。

ゴリラ顏なのだ。

静はゴリラ顏が好きなのか?


「し、静ちゃんはああゆう人がタイプなの?」戸惑いながら、尋ねる玲司。


「うん。強い人が、好き」そういう静。


つまり、剣道で強ければいいと言うことか。


玲司は燃えた。

文武両道才色兼備の玲司に出来ないことは、ない。

まして、相手はゴリラ。

こちらは人間様だ。

負けるわけにはいかない。



「静ちゃん!僕もここで剣道を教えもらいたい!」


「え?なんでいきなり?」



「生きるために。死にたくないんだ」



孤独死したくない。そのために静をモノにする。


静はその発言に驚いた表情を見せる。そして、玲司が今まで見たこともない、満面な笑顔でこう言った。


「そういう心がけ、好き」


猫のような瞳が柔らかくなるのを見て、玲司は動悸がした。


いつも自分の顔を鏡で見て動悸していたが、初めてのことだった。

なんでだろう?と首をかしげる玲司。


そして、静の父に会って(なんと!静は道場の娘だったのだ)、入門することとなった。



それからというもの、玲司は今まで通っていたジムを辞めて、剣道一本で身を鍛えた。

めきめきと上達していく彼であったが、やはりゴリラには勝てない。

いつしか、自分を愛することよりも、鍛えることが楽しくなっていった。




「絶対勝つ!」


闘志を燃やしている玲司。


玲司は気づいてなかった。


そんな玲司を好ましく見ている静の姿に。















ある高校では有名な美形が2人いた。

残念、で有名な美形だ。


一人はナルシストで有名な美男子だ。

あだ名は、ナルキッソス王子。

または、ナルジ。

意味はそのまんまでナルシストだからだ。

ナルジはレイジとかけている。



一人は武士然とした硬派で有名な美少女だ。

あだ名は、たのもー。

または、ござる。

意味は武士が言いそうな言葉からとっている。




その高校の生徒達はまだ知らない。


ナルキッソス王子が、ナルシストを卒業して、剣道をするただのイケメンになることも。


たのもーが、武士っぽく無くなり、普通の、笑う美少女になることも。


二人が付き合い始めることも。








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― 新着の感想 ―
[一言] 剣道をするただのイケメンで腹筋痙攣
[良い点] 人物描写が実に軽妙で、読んでいて楽しかったです。 起承転結がハッキリしていて読みやすく、無理なくハッピーエンドを想像できる終わらせ方で嬉しかったです。 [一言] 残念なイケメン君が脱皮をす…
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