表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

1‐3、魔法院入院式

 聖堂教会は、魔法院の中でも中心的な場所にある。魔法界が出来た初期からあるもので、その造りは絢爛豪華の一言に尽きる。カラフルなステンドグラスに、調度品を含め、かなり高価なものがそろっている。

 教会自体、途轍もなく広いこともあり、大規模な行事や授業等はここで行われている。収容できる人数は三百人を超す。広さは小規模の屋敷が丸ごと入っても、あまってしまうぐらい広い。


「間に合った。広いな……」


 強引に手を引っ張られてきたクーイは息を整え、汗をぬぐった。

 周りは新入生だらけでざわざわと騒がしかったが、入院式はまだ始まっていないらしい。誰もがこれからの生活に胸を躍らせているせいか、新入生の顔は笑顔が多い。


「どこか空いている席はあるかな?」


 シータがぐるりとあたりを見渡す。

 教会内は長方形構造をしていて、正面に長い。かなり奥の正面に聖壇があり、何かの銅像が建っていて、それを挟むように教員用の椅子が置かれていた。その前には何百もの椅子が並んでいた。ドアと聖壇を結ぶ正面の赤い絨毯の道を挟み、両側に椅子がきっちりと並んでいる。さらにその道と交差するように横にも絨毯の道があり、正面の道と横の道で椅子が四分の一ずつ固まって置かれていた。

 だいたいそのほとんどがもう埋まっている。


「こっちに席がある。シータ、こっちだ」


 前面のほうはまばらに空いている席があった。前のほうの席は皆嫌っているらしく、近寄らない。聖壇からみて、一番前の右側の席に陣取った。


「ここまでくるのに、結構疲れたね。途中で変なのに出会うし、遅刻しそうになるし」


 はは、と言葉に詰まってクーイは愛想笑いをした。遅れる原因を作ったのはシータ自身だったが、注意してもたぶんはぐらかされてしまうので、クーイは何も言わない。

 耳を傾けると、クーイたちと同じ新入生が世間話をしているのが聞こえる。だいたいがこの入院式の後に行われる、新入生歓迎会について話しているようだった。さらに隣では、最近騒がせている、義賊の話をしている新入生がいた。竜の仮面をつけた魔法使いが、人知れず悪者を懲伏している、という話だった。そのような他愛もない話が聞こえた。


「クーイ。聞こえてる?」


「あ、ああ。聞いてるよ。なんだ」


「そろそろ始まるみたい」


 聖壇の前に何人かの教師が集まり始めている。その教師の一人が黄金色の鈴を懐から出し、何回か揺らした。騒がしい聖堂内に打ち消されることなく、鈴の音が響き渡る。〈鈴音〉だ。どんなうるさい場所でも必ず聞こえる号令用の魔法具だ。その音が響くと、ひそひそと声が聖堂内に残っていたが、急に静かになった。


「えー、みなさん。これより、魔法院入院式を始めます!」


 一人の教師が前に出る。白い司祭服に、眼鏡をかけた男の魔法使いだった。髪は短く、小ざっぱりした真面目な印象だった。音声拡張の魔法具を使っているのか、普通に話すだけで、その声が聖堂内に大きく響く。


「私の名前は、デイ。デイ・T・ウーゴといいます。この魔法院で副院長をさせていただいている者です。教科担当はまあ、いずれ。まずは新入生の諸君、魔法院入学おめでとうございます。これから八年間この魔法院のエリアで生活してもらうことになります。これから諸君はここでたくさんのことを勉強し、経験し、この魔法界を支える柱になれるよう、頑張ってください。われわれは全力を持ってサポートしていきます。話したいことはたくさんありますが、長い話は疲れるでしょう?」


 後ろの一角から笑いが起こった。横でシータがその通りだと言うように拍手をしている。


 デイは右手で笑いの声を収め、笑顔で言った。


「私も、嫌です。なので簡単に。これから院長からお話があります。たぶん、長い話です。退屈な話でも、寝ないように気をつけてください。その後、新入生歓迎会を行い、各自解散となります。歓迎会に参加しない方は、学生寮のほうへ移動してください。各自の荷物は、すでに部屋のほうにあります。クラス分けや日程等は学生寮に掲示してあるので、忘れず確認してください。

では、みなさん。本当にご入学、おめでとうございます!」


 聖堂内が拍手で包まれる。ぺこり、とお辞儀をして、副院長が奥に引っ込む。


「なんか、真面目そうな先生だな?」


「そう? 私は面白い先生に見えたけど」


 クーイは首をかしげた。さっきのどこに面白いといえるだけの行動があったのか分からなかった。ただ、普通に見えただけだ。


「院長の話は長そうだな」


「うん。そうだね」



「だいたい皆はこう言うじゃろう。「院長の話は長い」と。先ほどデイも言っていたがのう。それは全くの誤解じゃ。分かるかな、未来の担い手たち。副院長には後でよく言い聞かせておかなければならないようじゃな。儂が昨夜からずっと話す内容を考えていたことを承知でそう言ったこともな」



 聖堂内が沈黙した。聖壇前には誰もいない。誰もいないのに、声だけが聞こえる。誰かが音声拡張を使って、声を出している。ざわざわと新入生がうるさくなった。周りの新入生もあたりを見回す。クーイも教員を見ていたが、誰も話している様子はない。


「ここじゃよ、新入生の諸君。上じゃ」


 クーイは呆気にとられた。上とはどういう意味か。上はない。この建物の構造は一階建てなのだ。急いで上を向くと、危うく大きな声を出しそうになった。

 文字通り、上に誰かいた。老人らしき魔法使いが宙に浮いていたのだ。




用語説明


聖堂教会:魔法院の中でも象徴の場としてしられる。教会としての機能よりも魔法院の大規模授業や行事等で使われることが多い。その様式は大きなステンドグラスや聖壇に祭ってあるといわれている聖具などが有名で、何百年もの歴史を持つ。新入生の入院式はここで行われることが通例となっている。


魔法院入院式の日程:魔法院入院式→新入生歓迎会→解散となっている。入院式は魔法院院長の激励の言葉、その他の注意事項等ですぐに終わる。無駄話が多いときもある。その後魔法院の中庭で朝までの新入生歓迎会が行われる。この歓迎会は上級生によって、しきられている。入院式が終わり次第各自自由解散になっているが、ほとんどがこの歓迎会に参加。

 ちなみに次の日から、新入生は魔法具選定儀式や授業カリキュラム相談会が開かれ、一週間の仮授業期間を得たあと、この一年間で履修するカリキュラムを申請することになる。それはまた後の話。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ