表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

1、訓練と魔法院と黒髪と

少しずつ更新していきます。ほんとに少しずつですが


剣戟の音がする。

だが、それは真剣の音ではない。ただの練習用の棒を使っているだけだ。

その音は、魔力によって振る強さ、スピードが強化されている。


「どうした、クーイ?」


クーイの数メートル前に、金髪でショートのがたいの良い男が立っている。手には二メートル弱の先を布で巻かれた棒を持っていた。

訓練、とクーイはこれを呼んでいる。朝起きて、すぐに体が鈍らないように叔父、ミハエルと手合わせを行う。もちろん実践向きだが、使うのは練習用の布を巻いた棒のみ。魔法も体術も使っていいが、喧嘩ではないのだ 

苦しそうに息を吐き、クーイは突かれた腹を撫ぜた。痛みを堪えながらも、立ち上がり、魔力回路の回転数増加を念じる。クーイの体の回りに、紫色の湯気みたいなものがまとわりつく。これが、魔力。

体制を整え、クーイは大地を蹴り、叔父との距離を削る。いや、無謀な突進をしているという方が正しい。

右手で持った棒を振り上げ、縦薙ぎに叔父の真正面を落とす。


「おおォッ!!」


咆哮と共に振るった棒は反動なく風切音のみが聞こえた、と思ったときにはミハエルはクーイの死角、右側に除け、すでに突きの体制に入っている。物凄い早い動術で立ち回っていた。


「 え 」


もう遅い。その突きが、クーイの右、水月に容赦なく叩き込まれる。

ありえないことに、それを受けたクーイは数メートル弾かれ、無様に後方の地面を転がり落ち着く。


「がはッ、ゲホゲホ…」


「甘いな、クーイ。棒術における突きってのは攻撃性には優れるが、その分、相手の間合いに入り突きの弱点を曝してしまう」


つまり、利き腕の突き、というのは相手の間合いに無謀にも入り、自分の弱点をさらしてしまう。それは利き腕側の伸ばした腕の方に避けられると、次の攻撃が出来ず、相手を見失い、詰まってしまう。さらにはのばした利き腕が、自分の水月部分が空いてしまっていることに他ならない。


「二式だ、と言っただろう」


二式。

ミュランフェルト家が抱える魔法使いには決まって伝わる流術がある。それがミュランフェルト式槍剣術というものである。ミュランフェルト家にはだいたいが剣、槍等を使うものが多いために形成された流派ということだ。

二式とは、振るった突きに対し、さらに横薙ぎの攻撃を加える、と言うものである。そうすれば、利き腕の死角に隠れても、追随することも可能だ。簡単に言えば流れるような連続攻撃を与えることによって、隙を与えるなということ。

それは棒や剣、槍を使うに当たって、基本となる動作になっている。


「そして、無闇に突っ込みすぎだ。魔力も上手く練れてない。魔法陣に具現するとは違い、体外で纏うというのは難しい。しかし、纏うことによって、身体的にも有利に進めることが出来る」


そう、現在では魔力と言うものは、魔法だけに使うものではなくなりつつある。魔力自体に有効性が見出され始めていた。


「詠唱の訓練はしたのか?前に教えたマタイ福音は出来るようになったのか?」


「はい…、あ…れは…大丈夫です。」


水月をさすり、息を整える。痛そうな顔をしながら、ゆっくりと立ち上がる。水月にうちこまれると、呼吸すら侭為らない。しかも手加減してくれている(一応されているとは思うが)とは言っても、大の大人でも回復するには少々時間がかかる。


(今日から、学校だって言うのに…)


そう、今日から魔法院が始まる。いわゆる魔法の勉強をするところで8年制の学校である。クーイは12歳になったので、魔法使いとしての上を目指すために通うことになっている。大体の魔法使いがこの魔法院というものに進むので当たり前と言ったら当たり前になる。

訓練がこのまま続くなら、さすがに魔法院に行ったら疲れて動けない。魔法や魔力を練るにも、体力を使うのだから。


「よし、今日はそのマタイの詠唱を5回くりかえせ。それで今日の訓練は終わりだ」


「はい!」


ようやく終わりそうに為ったので、クーイは安堵のため息をはき、少し安心する。

そして、魔力回路を発動させた。



クーイ・ミュランフェルトの受難は始まったばかりだ。



用語解説


ミュランフェルト流槍剣術:ミュランフェルト家に伝わる伝統の流術。その体系は剣・棒・槍を基本とし、隙のない流術となっている。主にミュランフェルト家のみしか伝わらないような形を取っている。クーイ・ミュランフェルトの戦闘方法である。


魔法院:魔法の勉強をする学校のようなもの。八年制の学校で、魔法界の子供、やく九割がそのまま進学する。また、魔法院には第一期、第二期といった分け方がされているが、クーイが進学するのは第二期魔法院である。ここは専門的、細分化された魔法の勉強を行うところでもある。全寮制の学校で、巨大な聖堂学校である。


マタイ福音第三章二節:クーイが使える魔法のうちのひとつ。光属性の魔法。習得レベルはF(一番下)。聖書魔法といわれる中の一つで聖書から文字通り抜き出し、そのまま魔術的な意味合いを加えた魔法。光の衝撃波を生み出す魔法らしい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ