序幕、竜の騎士とライトアポクリファ〈儀式破壊の外典〉
魔力回路は機械ではありません。分かりやすいように機械の器官みたいなものと表現されています。
魔法年2000年。魔法界イルファントレイの首都居住地区、中心区にて。ある貴族区の一角、広大な屋敷の中庭に一人の少年がいた。少年の周りを囲うように、四つの大きな花壇がある。様々な花は、朝露に濡れ太陽の光をキラキラと反射させている。
その中心には、煌めくほどの短いプラチナブロンド、それに加えハッキリとした顔立ちに全てを見通してしまいそうな藍色の西洋眼を持つ少年がいた。その容貌はまだ幼いような雰囲気を残している。普通の人間から見ればかなりの美形であろう。
その少年、ミュランフェルトは、真新しい白い司祭服を纏い、中庭で緊張感を持ったまま、立ち尽くしている。少年は一度、深い息をはいて、藍の両目を閉じた。
(魔力回路、発動)
魔法使いのもう一個の心臓といわれる魔力回路が、胸の奥底で熱くなるのを感じる。
魔力回路とは、魔法使いが持つ独自の器官で、魔力を練り上げる為の器官といわれている。別名、コースターとも言われ、身体上その存在を見つけられる事が出来ない為、何がその機能を果たしているのかが不明とされている。しかし今では心臓が、鼓動を打つだけでなく、魔力回路の役割、つまり第二の機能をも果たしている。というのが定説である。
(回転数、増加)
体中が胸を中心としてさらに熱くなるのが分かった。
魔力回路の感覚を表す言葉として、よく「回転している」と表現されることが多い。
簡単に言えば、原動機みたいなものが体の中で高速回転して魔力を作り出していると思ってもらえれば良いかもしれない。
この回転数に応じて、魔力の精製量が決まる。
(魔法陣、展開)
その魔力を基に、魔法陣を展開させる。
半径5mぐらいの新円の陣の中に、大きな五芒星が組み込まれる。さらにその五つの星の頂点に魔法文字が煌めき、魔力を増幅させる。魔法使い固有の、魔法固有の魔方陣を各自が持っている。
ミュランフェルトの額に汗が浮かぶ。
魔法を発動させるには、四つの手順を踏まなくてはいけない。
一つ、体内または体外から、生命エネルギーまたはマナを取り込まなくてはいけない事。
二つ、その二つをガソリンにして、魔力回路を回転させ、魔力を精製すること。
三つ、その魔力を用いて、魔法陣を描く事。
四つ、その魔法陣上で、魔法を詠唱する事。
この四つの手順を踏んで、初めて魔法は発動することが出来る。
つまり、原料を体外または体内から作り出し、魔力回路で回転させる事で魔力を精製させ、その魔力を使って、魔力を増幅させる魔法陣を描き、詠唱する事で初めて魔法をつかうことが出来るのだ。
上空に手をかざし、ミュランフェルトは叫んだ。
「指先に集いし3矢の虚無。導く一筋の矢となりて、敵を撃て!【虚無の3矢】」
瞬間、魔法陣全体が紫色に発光する。増幅された魔力が、魔法詠唱を伴い、その効力を具現する。周りの花壇の花が揺らめき、ミュランフェルトの司祭服がはためく。
魔力で作られた三つの紫色の矢が、上空にかざした手から、発射された。
三つの紫の矢は、遥か上空ではじけた。
キラキラと。紫の粉を降り注ぎながら、消えてゆく。
ミュランフェルトはその儚く消える紫の粉を、ずっと見つめていた。
クーイ・ミュランフェルトは、魔法使いである。
簡単な用語解説
魔法界イルファントレイ:魔法界Illphantory。【始まりの魔法使い】が【七つの繋ぎ手】とともに作った世界。首都イルファントレイの魔法公社を首府として統治している。使われている言語は主に英語だが、それに加え魔法界特有の言語(イルファント式魔法語と古代魔法語がある)が使われている。ただオラクルによって同時多言語翻訳を行っているため、どの言語でも基本的に話せば通じる。街には様々な文字や言語が飛び交っているが、オラクルの普及に伴い、看板などに書かれる文字は英語が多くなっている。
魔法公社を中心として、円形に魔法首都イルファントレイの町並みが広がっているが、魔法公社の中心から離れるほど、町並みが消えて、広大な草原が広がっている。その距離は魔法公社を中心として半径100キロまである。球体世界ではなく平面世界図をしている。その外は【夢跡の霧森】(ルイン・ミスト)と呼ばれる冷たい白い霧が立ち込めていて、先が見えない。
首都には、魔法公社・移動機関・魔法城・競技場・貴族区・一般区(居住権は抽選と審査によって決められる一等区。倍率はとても高い。)・商店街区・MS区(MSH用の区画)・第一期魔法院・上空に第二期魔法院が存在する。世界観は中世の西洋建築で近代化されていない状態。
魔法:魔術とも。厳密な区分はしていない。魔法を使うためには魔力回路を用いる必要がある。以下の四つの工程を終えて、初めて使える。工程がかなり複雑なため、使うのに時間がかかるのが欠点。
一つ、体内または体外から、生命エネルギーまたはマナを取り込まなくてはいけない事。
二つ、その二つをガソリンにして、魔力回路を回転させ、魔力を精製すること。
三つ、その魔力を用いて、魔法陣を描く事。
四つ、その魔法陣上で、魔法を詠唱する事。
魔力回路:コースターとも。魔法を使うために必要な生体器官と定義されているが、実際に体の内部にはその存在を認知されてはいない。心臓が鼓動を撃つと同時に魔力を生成する第二の機能を持っているとされている。
魔力回路は体外から取り入れる自然エネルギーと体内の生命エネルギーの二つを混ぜ合わせたエネルギーを回転させて、魔力を得ることができる来魔法使い特有の器官であるとされる。
魔法の矢:基本的な魔法の一つ。魔力を固め、弓の形にし、放つ魔法。習得のし易さは一番下のF。魔法名はゼロ・マギカ。この魔法では基本10本繰り出すのが限界。属性別に放てるため、応用が利きやすい。属性によって矢の色も変る。無属性だと紫色。火だと赤色になる。
詠唱文は『指先に集いし△矢の○。導く一筋の矢となりて、敵を撃て!』※△=数字 ○=属性
今回の詠唱は『指先に集いし3矢の虚無。導く一筋の矢となりて、敵を撃て! 虚無の3(ガンマ)矢』となっていて、三本の無属性の矢を放つ。虚無とは無属性のことである。属性によって呼称が、大火、息吹、漆黒と変る。魔法使いが一番よく使う魔法で、使いやすさも抜群といわれている。