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あの部屋にだれかがいる……

掲載日:2026/05/12

※挿絵は生成AIです。

 挿絵(By みてみん)



 ぼくの家には『はなれ』がある。家の庭のすみにぽつんとたっていて、玄関から見えている。

 でも、ぼくはその『はなれ』の中をいちども見たことがない。窓があるけど、いつもカーテンがかかっている。


 家のまわりで遊んでいたときに気づいたんだけど、その『はなれ』には、カギがかかっていた。戸にも、窓にも。カーテンは厚くて、色があせていた。


 お母さんに聞いたら、『部屋にはカギをかけるものよ』、って言ってた。


 ぼくが『中を見せて』、って言ったら、『またこんど』とか、『中にはなにもない』って、遠くを見ながら言うんだ。


 ぼくは、だんだん、お母さんに『はなれ』のことを聞かなくなった。


 でも、お母さんはたしかにあの『はなれ』に入っている。


 いちど、学校へ行くとちゅうで、忘れ物に気づいて家にもどったことがある。


 その時に玄関から見えたんだ。お母さんが『はなれ』に入っていくのを。手になにかを持っている。布をかぶせたお盆だった。


 ぼくが家の中から忘れ物をとってきて、玄関を出るときに、お母さんが『はなれ』から出てくるのを見た。


 手にはなにも持ってなかった。


 お母さんの顔がちらっと見えたけど、なんとなくかなしそうに見えた。

 お母さんはそのまま、ぼくに気づかず、裏口から家に入っていった。


 それいらい、ぼくは『はなれ』のことが気になってきた。


 あの部屋にはなにがあるんだろう? って。



 ────



 今日は、学校が終わってから図書館に行った。ぼくはいろいろな物語を読むのが好きだから。


 読んだのは、昔のこわい話の本だった。


 生まれてからずっと家の中に閉じこめられていた人の話だった。大きな屋敷で、その人は、生まれたときにふつうじゃなかった。

 それで、家の人は、だれにも見せないようにその人を閉じこめておいた。


 でも、あるとき、だれかがそのことを知った。おなじ村の子供だった。

 その子は、閉じこめられた人のことを知りたくなって、こっそりと部屋をのぞきこんだ。


 ──ぼくは、どきどきしてページをめくった。


 そして、その子は見た。閉じこめられていたその人を……。



 ──ぼくはこわくなって本を閉じた。



 ────



 家に帰ると、玄関のドアにカギがかかってた。お母さんがどこかに出かけたらしい。


 カギを取りだしてドアを開けると、ちらっと庭の奥にある『はなれ』を見た。


 そのとき、ぼくは、なんとなくだけど、『はなれ』がいつもとちがうような気がした。


 気になって、『はなれ』のほうに行ってみた。

 なにかがいつもとちがう。

 なんだろう……?


 わかった……! 『はなれ』は引き戸になってるけど、カギが開いているんだ。


 ほんのちょっぴり戸が開いているのが、いつもとちがって見えたんだ。


 ぼくはすこしまよってから手をかけると、戸はすっと開いた。


 中に入ると土間になっている。入り口をしめて上がりこむと、障子をあけて、部屋の中に入った。


「ここが……『はなれ』の部屋……?」


 電気をつけてみると、外から見るよりけっこう広い部屋だった。中にはいろいろな物がおいてある。


 おもちゃがある。小さい子供のおもちゃだ。ミニカー、つみ木、ブロック。画用紙には、クレヨンでだれかの顔がかかれているけど、ところどころに、ぬれてにじんだあとがあって、よく見えない。


 カベには服がいくつかかかっている。どれも、大きさがちがう。

 部屋のいちばん奥には、写真がいくつもかざってあった。


 だれもいないけど、まるでいつも人がいるようだった。


 部屋のすみに、大きな箱がある。

 人が入れるくらいの箱だ。


 ぼくは、図書館で読んだ本のことを思い出した。


 箱のふたにそっと手をかけると、ゆっくりと開けてみた。


 ……箱はからっぽだった。


 ぼくはため息をつくと、ふたをしめて、部屋の奥の写真をよく見ようとした。

 そのとき、『はなれ』の外から足音が聞こえた。


 ぼくはカーテンがかかった窓のすきまから外を見ると、お母さんが帰ってきたみたいだ。

 まっすぐ『はなれ』に向かってくる。


 どうしよう……? かってに入ったとわかったら、きっとしかられる。

 お母さんはすぐにここにくるぞ……。



 お母さんが引き戸をあけて中に入り、またしめるのが聞こえた。

 そのまま、はきものをぬいで上がり、障子をあける……。


 部屋に入ったお母さんが、電気をつけて、たたみの上を歩く音が聞こえた。なにをしているのか、ぼくからは見えない。



 ──ぼくは、さっきのすみにあった箱に入ってかくれていた。クツを持って。


 お母さんがまだなにかをしてる音が聞こえる。箱のふたのすきまから、ちょっとだけ光が入るけど、外は見えない。

 ぼくは、体じゅうを耳にして聞いていた。お母さんのため息や、服がこすれる音が聞こえる。


 そして、ぼくが入っている箱の上で、どさり、という音がした。なにか重いものを置いたみたいだ。


「さて、……と。もどらなくっちゃ」


 お母さんの声と、カチカチっと電気を消す音が聞こえた。……もしかしてお母さん、『はなれ』から帰っちゃうのかな。入り口の戸にカギをかけて? 

 それじゃあ、ぼくは、出られなくなってしまう。


 ぼくは思わず体を動かした。すると、箱が動いて、ふたの上に置いてある物がぽとりと落ちる音がした。


「あら……?」


 お母さんが振り向いたようだ。


「なにか動いたような? なにかしら……」


 お母さんがふたたび電気をつけ、箱の上の物をどかす音が聞こえた。


 ゆっくりと……箱のふたがひらいた。うしろに電気がついているから、お母さんの顔はかげになって見えない。



「うわーーっ!」



 ぼくとお母さんは同時にさけんだ。


「ユウト! なにしてるの……」


「なにって……」


 ぼくは箱の中から写真のほうを見た。お母さんもそっちを見た。


「……じゃ、見たのね」


「うん……、なにがあるか気になって……」


 ぼくは箱の中から出た。


「でも、これ、なんなの? あれはだれの写真なの?」


「あれはね……」


 お母さんは、いったん言葉をとめた。


「あれは……、ユウトのお兄ちゃんの写真なの」


「ぼくの? お兄ちゃん……」


「あなたが生まれる前に、今のあなたよりも小さいときに亡くなったの」


 ぼくはおどろいた。そんなことは、はじめて聞いたからだ。


「じゃあ、あの写真はみんなそうなの?」


 お母さんがうなずいた。


「お母さんのいなかではね……。子供のころに亡くなった人がいたら、その子がおとなになるはずだった年になると、おとなになった絵や写真を作るの」


 お母さんは写真のひとつを手にとった。


「たくさん写真があるのはどうして?」


「お母さんはね、毎年、お兄ちゃんの写真を作ってたのよ」


 お母さんは、写真のわくをなでた。


「それをこの『はなれ』にかざって……。ほら、服も作ってたの」


 ぼくは、カベにかかった服を見た。よく見ると、大きい順にならんでいる。


「このおもちゃは?」


「それは、お兄ちゃんが遊んでたおもちゃよ」


 お母さんは、つみ木を手にとってにぎりしめた。


「亡くなった人の写真って、どうやって作るの?」


「昔は、絵で描いてもらってたんだけど、最近は、AIでお兄ちゃんの成長した写真を作ったの」


「そんなことができるんだ……」


 ぼくは、ならんでいる『お兄ちゃん』の写真をじゅんに見た。ちいさいころ、ぼくとおなじ小学生くらい、中学生……高校生……。


「でもね。それも今日で終わりなの……」


 お母さんが、ほかのものよりも大きい写真を手にとった。


「終わり? どうして? それはなに?」


「これはね、お兄ちゃんの結婚式の写真なの。おとなになったら結婚させるのよ」


 写真には、黒い着物を着た『お兄ちゃん』と、白い着物を着た女の人が写っている。


「その女の人はだれ?」


「だれでもないわ。これもAIなの。ほんとうにいる人と、亡くなった人を結婚させちゃいけないのよ」


「死んじゃった人が、結婚するの?」


「そうよ。……きっとね。ユウトには、信じられないかな?」


「うーん、わかんないよ。……お母さんは、信じてるの?」


「うん……、信じていてもいなくても……。お母さんがね、お兄ちゃんにしてあげられるのは、これくらいしかないから……」


 ぼくはしばらくだまっていた。


「今日でおわりって言ったよね? どうするの?」


「写真をね、奉納ほうのうするのよ」


「奉納って?」


「お寺にあずけるのよ。それでおしまいなの。お兄ちゃんは、一人前になったってことね」


「そうなんだ。……でも……」


「なに? ユウト」


(どうして、今までぼくにだまってたの?)


 ──そう言いかけて、ぼくはやめた。写真を見ながら、お母さんが泣いていたからだ。


「なんでもないよ……」



 ぼくとお母さんは、しばらくその写真を見つめていた。



 ────



 その夜。ぼくは夢を見た。会ったことがないお兄ちゃんと遊ぶ夢だ。


 おもちゃで遊んだり、勉強を教えてもらったりした。


 そのうち、お兄ちゃんはだんだんぼくより大きくなっていた。


『ユウト。……お兄ちゃんは、もう行くよ』


 そう言ったお兄ちゃんは、あの黒い着物を着ていた。そばには、白い着物の女の人がほほえんでいる。


『うん……』


『さいごに、お前と会えてよかったよ……』


『うん。さよなら……お兄ちゃん』



 ────



 次の日、ぼくとお母さんは、黒い服を着てお寺に行った。お兄ちゃんの写真を奉納するために。

 お寺はお線香のにおいがした。お坊さんはなにかを言っていたけど、ぼくにはわからなかった。


 帰り道、ぼくらはだまって歩いていた。

 ぼくは、お母さんの顔をちらっと見た。お寺に行くまでは、お母さんはすこしかなしそうだったからだ。



 でも、今はもうかなしそうにはしていなかった。



挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
ホンマ……どうして黙ってたんだろう? AIを巧みに使いましたね(๑•̀ㅂ•́)و✧ 新時代の童話という感じがしました。 途中まで『ホラー!?』と思いましたけど……(^.^;
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