4.その子は、バイト先に現れた
「いらっしゃいませ——」
「え、陽斗じゃん!!」
「あれ、ひより?」
「うんうん! ここでバイトしてんの?」
「そうそう」
「とりあえず席に案内するね」
「ありがと!」
太陽のような明るい表情に透明感のある声の彼女、俺がひよりと呼んだ彼女の名前は鷹宮ひより。
俺とルナとも同じゼミの同学年で、ルナの次に仲良くなった女友達の一人。
普段は友達に囲まれているタイプなだけに、一人でこういうカフェのような場所に来るんだなという意外な感情が生まれる。
「ここのテーブル席でも大丈夫?」
「うん! ありがと!」
「ひよりも授業終わり?」
「そうそう、なんかいい感じのカフェとかないかなって探してたんだけど、まさか陽斗がバイトしてるとはね~?」
「意外?」
「いや! 割と解釈一致!」
「そりゃどーも」
軽口を交わしながら彼女を席へと案内する。
「こういうところには友達と来るタイプだとは思ってたけど」
「意外だった? でもね~割と一人になりたい時間もあったりするんですよな~これが」
「そういうもんか」
「そういうことだよ」
「じゃあ、メニュー決まったらお呼びください」
「ふふっ、決まってるじゃん」
はいはいと手を振りバックヤード側まで戻ってくる。
「可愛い子じゃん」
「こわっ」
「陽斗にあんな可愛い友達がいるとは……さっきお茶を濁したのはこれが理由か……」
「普通にゼミ仲間ですよ」
「“今は”かもだけど、“これから”は分からないよね?」
「ない寄りのあるの方かも知れませんが、見ての通り可愛いんでそれはないかと思いますけどね」
「行動は起こさないと何も変わらないよ?」
「だーかーらー!」
ホール側に漏れない程度にキャーキャーやっていると、ひよりのテーブルからの呼び鈴が鳴る。
「じゃあ、今度は私が行こう!」
「急に元気にならないでくださいよ!」
言うが早いか、そのまま「はーい」と明るい声でホールまで駆け出していく。
少し離れたところから楽しそうな声がこちら側まで漏れ聞こえてくる。
「どうせあの人ろくなこと聞いてないだろうからな……。あとで探りに行くか」
そう決意し俺は俺で仕事を行う。
タイミングよくパラパラとお客さんが出ていき、大分店内も静けさを見せる。
「ねね、陽斗少しサボってきな」
「何を急に」
「お客さんも落ち着いてるし、せっかくの友達を常連にするのも君の仕事」
「はいはい」
何を話したのか、席の方のひよりもこちらを見ると手招きをする。
「ちなみに陽斗は何飲みたい?」
「え~じゃあ、いつもので」
「はーい」
ミサ先の笑顔で見送られ、テーブルを挟んでひよりの反対側に腰掛ける。
「ミサ先に何言われたの」
「え、なんも? でもせっかくだから陽斗と話しな~って」
「そうかい」
怪しい気もするが、ひよりの言葉にも嘘はなさそうなのでいったん受け入れるか。
「というかさ、いつからバイトしてるの?」
「んー、二、三か月前くらいかな?」
「そうなんだ~周りも皆バイトしてて自分も何処かでやらないとって焦ってるんだよね」
「じゃあ、うちでバイトしなよ!」
「うわっ、びっくりした!」
呼ばれて飛び出てといった様子で急に後ろからミサ先が声をかけてくる。
心臓に悪いから素直にやめて欲しい。
「ひよりちゃん可愛いし、看板娘の座狙えるよ」
「そんなことないですよ!」
「初めてのバイトだったら誰か知り合い居るところの方が安心しない? 陽斗も仲いいって言ってるし私もかわいい子なら大歓迎!」
「今ってバイト空きあるんですか?」
「シフト考えたらもう一人くらいほしいって店長も言ってたし、何とかなるさ!」
「でも、悪いですよ!」
「まあ、陽斗と話しながら考えてみて!」
「ありがとうございます」
なんだかんだこの人、引くところも上手なんだよな……。
悩んでいるところで無理強いするのではなく、しっかりと考える時間を与える。
多分、ここに俺を座らせたのもある意味戦略だろうな。
「じゃあ、ムーンライト・ミルクティーと“いつものやつ”ね」
「ありがとうございます!」
「ケーキの方はもうちょっと待ってね~では少年少女、ごゆっくり~」
少年少女って……。そういう歳でもないんだが……。
あと、俺も店員。
そんな言葉にならない思いと共にミサ先は去っていく。
「ってか、ここのメニュー超オシャレだよね!」
「そうだな、実際俺もオシャレだと思う。店名が月の名前だからメニューにもそれにちなんだ名前が採用されてるんだって」
「そうなんだ、確かにこのミルクティーもムーンライトってついてるもんね」
「そうそう、それに茶葉もアールグレイと少しラベンダーが入ったフレーバーティーらしくて、リラックス効果とかもあるのもあって六時以降のメニューなんだって」
「なんか店員っぽい!」
「そりゃあ店員だもの」
「なんか憧れるな~、私もここでバイトしようかな~? 陽斗はどう?」
「ミサ先も言ってるし、いいんじゃない?」
「違う! 陽斗がどうか聞きたいの~」
ぷくうと頬を膨らませる。
普通にかわいいのもそうだが、それよりも少しだけ幼く感じてしまって思わず笑ってしまう。
「俺も、ひよりがここで一緒に働いてるなら楽しいなとは思うよ」
「そっか、じゃあ本当にいいなら私もここで働きたいな」
「じゃあ、ミサ先に言ってみるか」
どうやら迷いも晴れた様子で、明るい笑顔を浮かべている。
俺としても知っているバイトメンバーが増えるのも嬉しいし、ひよりと働けるのであれば素直に楽しいんだろうなと思える。
ひと段落したところで目の前に置かれた“いつものやつ”もといアイスコーヒーをストローでちうちうと吸いこむ。
「ちなみに、陽斗は何と飲んでいるの?」
「ああ、これね、アイスコーヒーだよ。まぁ店で出ているメニューとは少し違うんだけど」
「何が違うの?」
「コーヒーの濃さと入っている氷の量を好みに調整してくれているんだよね、まあミサ先の場合結構その場のノリとかで作ってるんだけど……」
「ノリとか言うな! 可愛い後輩がバイト終わりに眠れなくならないようにってカフェイン量も考えて濃さを調節してるんだい」
「さいですか」
ちょうどいいタイミングでミサ先もホールに戻ってくる。
「はーい、月見チーズケーキと、後輩を思って優しい優しいミサ先輩が用意した夜の固めプリンだよ~」
「ありがとうございます!」
「そうだミサ先、ひよりのことだけど——」
「おうけいだよ」
「いや、俺何も言ってない!」
「その顔を見ればわかるよ! 店長にはうまく言っておくから——あっ店長!」
まるで飛んで火にいる夏の虫——ではなく店長が戻ってきたようで、ミサ先は店長の元へ駆け寄るとうまく状況説明している。
二、三度うなずいた様子を見せ、視線をこちら側へ向ける。
店長の革靴が、ルナリアの木張りの床をこつんこつんと鳴らしてこちら迄やってくる。
「うちの店員が無理言ってたりしないかい? 彼女も急だから」
「いえいえいえいえ! 全然そんなことないですむしろ急にこんな話になってしまいすみません!」
「大丈夫だよ。口には出していないもののミサさんの言うことも事実だしね。彼女の見る目は信じているし、それに陽斗君も知り合いだって言うならもっと信頼に足るし、君さえよければどうかな?」
「……ん? ちょっと聞き捨てならないような言葉が聞こえたような」
ミサ先の言葉は無視し、店長は優しい声音で語り掛ける。
それに対し何の迷いもない様子でひよりは応える。
「はい、私でよければよろしくお願いいたします!」
「ありがとう。それじゃあ、今後についてはまた相談するけど。どうせなら陽斗君がいる日の方が色々と都合がいいだろうし、次の陽斗君の出勤の日から来てもらうってことでどうかな?」
「今週は予定もないので大丈夫です!」
「じゃあ、陽斗君の次回が土曜だったと思うから一緒に来てもらって、その日に色々書類周りとかも用意しておくから」
「わかりました!」
急なこと過ぎてこれが一日だってことを忘れてしまうが、晴れてひよりがルナリアのメンバーとなることが決まった。
こんばんは月要です、プライベートの仕事の方が忙しく更新時間が遅くなってしまいました。
話の流れ的に一旦落ち着くところまで書ききってしまったため、少しだけ長くなりました。
その分皆さんにも楽しんでいただければと思います。
話のメインどころとなる新キャラも一旦落ち着くかと思いますので、是非お好きなキャラクター像を楽しんでいただければと思います。




