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1.隣の席に座った女性が思ってたのと違った

☆   ★   ☆



「あのさ、今日の宿題になっている部分見せてくれない……?」

「フンッ——」


 こっわ。

 そんな態度を見せつつも、鞄の中から取り出したノートは綺麗な放物線を描き、俺の机の上にポンと見事な着地を見せる。


「ありがと」

「ふん」


 そのまま彼女は頬杖を突いたまま窓際へ目を向けた。


 傍目から見たらガチギレギャルな反応だが実際はそうじゃない。

 それはまあこの一連の流れを見ても明白なわけなのだが、あえてここで彼女の張りぼてな上っ面を晒し上げる、もとい代弁するのなら——。


『ほんっと、あんたは私がいないと何もできないんだから……。今後も私以外の人のノートとか見たらだめなんだからね』


 こんなところだろうか。

 先ほどの彼女、“黒名(くろな)ルナ”の態度からは想像もできないほどの姿に誰もがこう思うだろう。


 お前の思い過ごしだ……と。


 もしこの一部分だけを切り取って見たのならば、「なに妄言を言っているんだこのオタクが」と突っ込みを入れているところだろう。

 いくら俺も一人の男子だとは言え、さすがにそこまでの妄想をさらけ出せるほど強メンタルは持っていない。

 

 じゃあ何故こんなにも自信をもって彼女のことをまるで知った風に語っているのか、それについては、一年ほど前、入学式から少しだけ時間をかけて起こった俺こと白河しらかわ陽斗はるとと黒名ルナの一つの事件の日まで遡る——。



☆   ★   ☆



 その衝突事件が起こる半年くらい前、大学最初のオリエンテーションから話を始めよう。


 大学によって様々なスタートを切るのだろうが、うちの大学は最初の全体説明の後に一つ講義を挟んでゼミがあるという形だったこともあり、初日から授業を受ける人とその時間を空き時間にする人の二パターンに分かれた。


 俺はというと後者、サボりたかったからというより授業を登録するというシステムを理解できていなかったということもあり、知らずにゼミの教室に向かっていた。

 

 ——っ♪


 窓が開いていたからか、風に乗って誰かの鼻歌がドアを開けた俺の方まで届いた。 


「すみません、授業でした?」


 思わぬ先客に伺いを立てる。


「いえ、私こそすみません。この後ゼミだったもので——」

「あ、じゃあ同じだ」

「あなたも一年生?」

「“も”ってことは君もってことで良い?」

「うん……」

「俺は、白河陽斗」

「黒名ルナ」

「よろしく、黒名さん」

「うん……白河君」


 きっかけこそこんなもんだった。

 劇的でもない、ただただ普遍的な出会い——だったのだが、


「ちなみに、私学生証を見るとなんの部活をやっていたかわかるんだよね」


 何の前触れもなく彼女は言った。

 ある意味俺の中の彼女のイメージが崩れた決定的な瞬間だった。




「——クキッ!!」


 結論、大外し。

 凡そ女性から発せられる音とは思えない音と共に悔しそうな表情が漏れ出た。


「もういいか……?」

「あと一回ぃぃぃ」


 三度目の正直も虚しく机に崩れ落ちた。

 結果当たることもなく、教室内に無言の時間が訪れる。


 ……気まずい。


 というより、何とも言えない沈黙だった。

 互いにスマホを触るわけでもなく、かといって会話を続けるわけでもない。

 ただ同じ空間にいるだけなのに、そこには微妙な距離感が残っていた。


「……ちなみにさ」


 先に口を開いたのは俺だった。


「その、学生証で部活当てるやつ。なんでそんなことできると思ったの?」

「……なんか、当てられそうだったから」

「根拠なしかよ」

「あるし。雰囲気とか」


 そう言いながらも、黒名は視線を泳がせている。

 どうやら本当にノープランだったらしい。


「……白河君は、運動部っぽくない」

「それはわかる」

「文化部って感じもしない」

「それもちょっとわかる」

「じゃあ何部?」

「こんな話をした中だけど普通に陸上部なんだよな」


 拍子抜けした声と一緒に、黒名は小さく息を吐いた。


「そんなもんだよな」

「うん……」


 さっきまでの勢いはどこへやら、落ち着いたからこそ急に込み上げてきた恥ずかしさからか、少し照れたような横顔。

 口数は少ないのに、表情だけは妙にわかりやすい。

 そこでようやく、教室の時計が目に入った。


「……そろそろゼミの時間だな」

「そろそろゼミの時間だね」


 不思議とが声が揃っていた。

 思わぬ偶然に、目を見合わせてお互いにはにかむ。


「白河君」

「ん?」

「……こういうの、嫌じゃなかった?」

「なにが?」

「知らない人と話すの」


 一瞬だけ、答えに詰まる。

 けれど、考えるまでもなかった。


「別に。むしろ楽しかったけど」

「……そう」


 それだけ言うと、黒名は少しだけ口元を緩めた。

 ほんの一瞬。気づかなければ見逃してしまうくらいの笑顔。


 ——()()()()()()()のことだった。


 たったそれだけのことだけど、黒名ルナという女性に興味を持つには十分すぎる理由だったといえる。


こんばんは月要と申します。

小説を書くことを始めたサラリーマンです。


投稿頻度を安定できるように作品作り行っていければと考えております。

少しでも興味を持っていただければ幸いです。


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