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俺の彼女がめちゃくちゃモテる件 〜派手にモテる彼女と、地味にモテる彼氏〜  作者: 丸深まろやか
第一章

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8/8

008 『お願いをしにきました』


 体育でバスケをした、その翌日の昼休み。


 侑弦ゆづるがひとりで昼食を摂っていると、スピーカーから音楽が流れ始めた。

 昼休み恒例の、放送部によるラジオ番組だろう。


『生徒、そして先生の皆さん、こんにちは! お昼の時間でーす!』


 ……ん?


 その声に、侑弦は首を傾げた。

 聞き慣れない、けれどやっぱり、聞き慣れている声。

 つまり、いつもとは違う誰かが、マイクを取っているらしかった。


 いや、これは……。


『あ、申し遅れました。私、生徒会長の天沢あまさわ美湖みこです。えへへ、お邪魔してまーす』


 ……なにやってるんだ、あいつ。


「わっ、やっぱり美湖ちゃんだ!」


「なになに? 天沢さんどうしたの?」


「会長! かわいいよー!」


 呆れる侑弦に反して、クラスメイトたちは盛り上がりを見せていた。

 そんな野次が聞こえているかのように、マイクの向こうの美湖は『どうもどうも、ありがとねー』と返事をする。


『さて、今日は放送部さんに協力してもらって、皆さんにお願いをしにきました。ご飯やおしゃべりはそのままで、ちょっとだけ聞いてください』


 少しあらたまった声音を作って、美湖が言う。

 ちょっとだけ、というセリフに反して、周囲の生徒たちはほとんど、その声に釘付けになっていた。


『実はさっき、私にひとりの生徒さんから、落とし物の相談がありまして。学校の中にはありそうなんだけど、心当たりのあるところを探しても、見つからないそうなんです』


 美湖が、今度は若干声のトーンを落とす。

 顔は見えなくとも、抑揚とリズムのせいで、感情の波がよく伝わってきた。


『落とし物は、銀色のキーチェーンです。小学生の妹さんから貰ったそうで、アザラシの形をしたガラス細工がついてます。今日一日だけでいいので、皆さんが下校するまでのあいだ、ちょっとだけ気にして探してもらえないでしょうか?』


 美湖の言葉に、今度は教室中がざわめき始める。

 隣のクラスの声までが、こちらへ聞こえてきた。


『もちろん、私も歩き回って探すつもりだけど、人手は多い方がいいしね。でも、みんなも忙しいと思うから、移動教室とか掃除のときだけでも、なんとなく探してみてほしいの。もし見つかったら、生徒会室に私がいるから、持ってきてくれると嬉しいです! 部活が終わる時間までは待ってるので、どうか、お願いします!』


 パチン、と手を合わせる音で締めくくって、美湖の話は終わった。

 途端、クラスメイトたちは口々に、相談を始めていた。


「落とし物だって。天沢さんのお願いだし、協力したいなー」


「あれ、なんか私、今日それっぽいやつ見たかも?」


「駐輪場とか怪しくない? あとで行ってみよっかな」


 ううむ、美湖の人望、恐るべし。


 そんなことを思いながらも、侑弦はわりと落ち着いた気持ちで、昼食を進めた。


 困った人は見過ごせない。助けるための行動は惜しまない。

 美湖がそういう女の子であることは、よく知っている。

 そして、だからこそ自分は。



 ――ごめん……今の、内緒にしといて?



「……」


 侑弦はふと、いつかの光景を思い出した。


 美湖とまだ、恋人同士ではなかった頃。

 同じクラスになって、隣のクラスで事件があって。


 あのときの、美湖の子どものような笑顔。

 それが今でも忘れられず、侑弦はあれからずっと、美湖に恋をしている。


「……ふっ」


 思わず漏れた笑みを隠すように、侑弦は窓の方に顔を向けた。

 中庭を見下ろすと、数名の生徒たちが声をかけ合いながら、花壇や物陰に目を凝らしていた。




『えー、皆さんこんにちは。天沢美湖です』


 終業のチャイムが鳴って、放課後。


 侑弦が昇降口へ向かっていると、再び校内放送が流れた。

 そばにいた生徒たちと同じく、侑弦は立ち止まってその声を聞いた。


『皆さんのご協力のおかげで、アザラシのキーチェーンが無事、見つかりましたー! パチパチ! 持ち主の子も、すごく喜んでくれています。皆さん、本当にありがとうございました!』


 美湖の言葉に、周囲が「おぉー」「おめでとー!」と歓声を上げる。


 解決が早い。さすがは全校生徒、おまけに教師陣総出の捜索だ。

 侑弦が関心していると、美湖はさらに続ける。


『今回みたいに、困ったことがあれば、なんでも生徒会に相談にきてください。できる限りお手伝いします。まあ、今回はみんなの力を借りまくっちゃったんだけどね、えへへ』


 美湖の照れたようなセリフに、今度は笑い声が上がる。


 美湖はたしかに、今までも多くの人の悩みや困りごとを解決してきた。

 学校の生徒や教師、それに、ご近所さんや友人の家族まで。あらゆる人の相談を受けては、本人以上に真剣に、それに向き合う。

 性分、という言葉で片付けるには忍びないほど、美湖の人助けは本気で、全力だった。


 ただ、それにしても。


「大規模な宣伝だな……やれやれ」


 また、相談者が増えたらどうするんだ。

 ただでさえ、生徒会の仕事で以前より忙しいのに。


 そう思ったけれど、美湖はきっと喜ぶのだろうという気がした。



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