表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の彼女がめちゃくちゃモテる件 〜派手にモテる彼女と、地味にモテる彼氏〜  作者: 丸深まろやか
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/44

044 「愛してる」


 電車を降りたあとは、美湖を家まで送った。


 もう何度も訪れた天沢宅は、豪邸というほどではないにしても、両親とひとり娘が住むには充分以上に大きい。

 シックなデザインの外観には、家主、特に母親のセンスが反映されているのだろう。


「じゃあな、美湖。また明日」


 門の前で軽く手を上げて、美湖に別れを言う。


 紗雪の件がひと段落して、明日からは普通の、穏やかな日常に戻る。

 まあもちろん、美湖に限っては、そういうわけにもいかないのだろうけれど。


 なにせこの期間にも、紗雪以外の相手から、いくつか相談を受けていたようだし――。



「侑弦」



 不意に、美湖が侑弦の名前を呼んだ。

 こちらをまっすぐ見つめる顔がやけに真剣で、侑弦は自然と、背筋が伸びるのを感じた。


「……どうした?」


「今日……家、誰もいない」


「え……えっと」


 それは……つまり?


「入って」


 美湖が言った。

 それから侑弦の返事も待たず、くるりと背中を向けて、門をくぐる。

 トン、トン、と規則的な足取りで、美湖は玄関へと進んでいった。


「……」


「早く」


「お……おう」


 若干ためらいながらも、侑弦は美湖のあとを追った。


 いつもなら、部屋に上がるときはあらかじめ、ふたりでそう決めている。

 突然招き入れられるのは、もちろんいやではないにしても、明らかにイレギュラーだった。


 玄関に上がると、美湖は靴も揃えずに階段に向かっていった。

 後ろの侑弦にスカートの中が見えそうになるのも気にせず、ぐんぐん上っていく。


 美湖の言った通り、家の中はしーんとして、人の気配がなかった。


「こっち」


 短く言って、美湖は自分の部屋の前で手招きをした。

 そのまま滑り込むようにドアを抜けた彼女を、また追いかける。


 部屋を覗くと、美湖はベッドの傍らに立って、こっちを見ていた。


「おい……美湖――」


「しよ」


 侑弦の言葉を遮って、美湖が言った。

 途端、侑弦は「えっ」と声を漏らして、一歩後退りした。

 そんな侑弦にも構わず、美湖が続ける。


「ううん、する。来て」


 美湖がふらりと、踊りの振り付けのような動きで、背後のベッドに倒れ込んだ。

 こちらに両手を伸ばし、侑弦を待っているようだった。


 普段同じようにするときは、もっと甘えた雰囲気があるのに。

 今日の美湖には、どこか差し迫った深刻さがあるように思えた。


「……どうしたんだよ」


「いいから。早く」


「……」


 仕方なく、侑弦はベッドまで歩いて、美湖のそばに腰を下ろした。

 美湖はすぐに侑弦の腕を掴んで、クイクイと引っ張る。

 髪を撫でてやると、「ん」と声を漏らして、動物のように目をつぶった。


 いつの間にか、さっきまでの深刻さが和らいでいるようだった。

 それに少し安心しながら、侑弦は美湖の頬に軽く触れてみた。


「侑弦ぅ……しよーよぉ」


「……いきなりだな」


 侑弦が言うと、美湖はつんとくちびるを突き出して、拗ねたようにそっぽを向いた。

 頬に添えていた侑弦の手を掴んで、胸元で抱きしめる。


 多少様子は変だが、完全に暴走しているわけではないらしい。


 侑弦はホッと息をついてから、自分もパタリと身体を倒した。

 自然、美湖の頭がすぐ目の前に来る。


「ほら、こっち向きな」


「……」


 美湖はくちびるを尖らせたままの表情で、ふいっとこちらに向き直った。

 大きな目が細まって、その奥の瞳が、わずかに揺れているようだった。


「なにかあったのか? ん?」


「……だって」


「だって、なんだ?」


「……なんか、不安になっちゃって」


 しょんぼりと顔を伏せて、美湖が言った。

 眉が下がって、心細そうに、上目遣いでこちらを見ている。


 珍しい表情に、思わず頬が緩んだ。

 美湖の方は真剣なのだろうし、申し訳ないけれど。


「おいで、美湖」


 手を背中に回して、こちらに引き寄せる。

 すると、美湖はそれに従うように、ずりずりと身体をくっつけてきた。

 片手で美湖を抱きしめると、彼女の吐息が首元にかかって、くすぐったかった。


「侑弦ぅ……」


「あー、よしよし。かわいそうにな」


「……てきとーに言ってるでしょ」


「そんなことないって。ただ、そうなってる理由がわからないからさ。でも、べつに無理に聞きたいわけじゃないし」


「……」


「とりあえず、お前の気持ちが楽になれば、今はそれでいいよ」


 言って、侑弦は抱きしめる力を少し強めた。

 美湖は侑弦の胸に顔を埋めて、一度だけぐすんと鼻を啜った。


「侑弦はホント、優しいよね……」


「まあ、そう言ってもらえると嬉しいよ」


「包容力が染みるぜ……」


 そんなことを言ってから、美湖は続けて「えぇん」と震えた声を漏らした。


「……その優しさが、ちょっと怖いんだよなぁ」


「ん……なんだよ、それ」


 美湖にしては、今日はよくわからない発言が多い。


「……紗雪ちゃん、タイプ?」


「綿矢……? なんでいきなりあいつが……それに、タイプって……」


 やはり、話が見えない。

 まあ、唐突に話題を変えることは、もともと美湖にはよくあることなのだが。


「かわいいと思う? ……紗雪ちゃん」


「ま、まあ……さすがに美人だよな、あいつは」


「……まあ、さすがにねー……」


「……変なやつだな」


 侑弦が呆れていると、 今度は美湖が、抱きしめる力を強めた。

 埋めた顔をぐにぐにと動かされて、またくすぐったくなる。

 ふと、こんなに長い時間ハグをしているのは久しぶりだ、と侑弦は思った。


「やっぱりする」


 もう一度、美湖が言った。

 結局、事情はよくわからない。

 けれどどうやら、今日は冗談ではないらしい。


「いいよ」


 侑弦は言った。


 美湖が望むなら、今日がその日になっても構わない。

 それに、こんなふうに求められて拒否できるほど、理性的じゃない。

 そもそも、拒む理由だってないのだから。


 美湖と一緒に、ゆっくり身体を起こす。

 しわの出来たシャツの白さと、リボンの鮮やかな赤が眩しかった。


「美湖」


 両手で頬を包んで、キスをした。


「ん」と美湖が息を漏らして、一度離れたあとで、またくちびるを重ねる。


「愛してる」


 それを言ったのが、自分だったのか、美湖だったのか。

 わからなかったけれど、どちらでもいいような気がした。


 美湖の温度と、匂いを強く感じる。


 手のひらに触れる頬も、手の甲に触れる髪も。

 目の前の瞳も、鼻もくちびるも。

 全てがひどく、どうしようもなく、愛しかった。


「平気か?」


「……うん、大丈夫」


 顔を伏せたまま、美湖が頷いた。

 それから、自分でリボンを解いて、ベッドの端に置く。


 シャツのボタンに手をかけると、美湖が短く息を吸った。

 だが、少しするとまた呼吸のリズムが戻って、かすかな息が手にかかった。


「結弦」


「ん」


「私だけを愛してね」


 美湖が言った。


「お前だけが好きだよ」


 侑弦は言った。


「今じゃなくて、これからも。ずっと、私だけ見てて」


「ずっと、お前だけを愛してる」


「……えへへ。嬉しい」


 ボタンが外れていく。

 白いキャミソールが露わになって、首元の肌が覗いている。

 いつの間にか、美湖も侑弦のボタンを外していて、ほてった身体が少し、冷めるのを感じる。


 お互いに肌着になって、美湖がすごく綺麗で、かわいくて。

 なんだか泣きそうになってしまって、侑弦は目の前の女の子を、もう一度抱きしめた。


 ああ――美湖。


「美湖、好きだ」


「……うん。私も、侑弦が好き」


 身体を離して、キャミソールの裾に手をかける。

 美湖はゆっくり腕を上げて、目を瞑った。


 そのまま肌着を脱がせると、いつかと同じように、美湖の明るく長い髪が乱れる。

 ミルク色の肌の中で、ブラジャーの水色だけが咲いている。


 揺れる瞳が、侑弦を見つめる。

 見つめ返すと、また泣きそうになって、幸せなのに、苦しくて。


「美湖」


 もう一度、名前を呼んだ。

 美湖の背中に、ゆっくりと手を回す。


 少し前にも、同じことをしたのに。

 やっぱり手は震えていて、情けないくらい、おぼつかなくて。


 プチン、と小さな音が鳴る。

 抱きしめるようにブラジャーを押さえた美湖が、はぁっと息を漏らす。 


「……怖くない」


 いつもなら、ここでだめなのに。

 美湖はそう言って、かすかに、けれど力強く、頷いた。


「今日は……逃げたくない。侑弦に見てほしい。……もっと、触れてほしい」


「……美湖」


 ハラリと、水色が落ちる。

 交差した細い腕の奥に、膨らみが見え隠れする。


 美湖は顔を歪めて、大きな目をギュッと閉じた。

 目の端に雫が出来て、頬を滑るように伝って。

 でも、叫んだりはしなくて。


「結弦っ……好き。大好き。どこにも行かないで。ずっと、一緒にいて。わがまま言っても許して。無茶なことしても、どこまでもついてきて。どれだけかわいくても、素敵でも、ほかの子に靡いたりしないで。誰かに好きって言われても、全部無視して。私が、侑弦を幸せにするから。侑弦も、私を幸せにして。私……私っ――」


「美湖」


 抱きしめた。


 美湖は泣いていて、声も震えていて。

 それがいやで、侑弦は彼女を強く引き寄せて、頭を両手で包んだ。


「好きだ、美湖」


「……うん」


「ずっと一緒だ、なにがあっても」


「……うん。なにがあっても、ずっと一緒」


「かわいいよ、誰よりも。お前以外は、みんなどうでもいい」


「……ひどいね、結弦」


「いいんだよ、ひどくたって」


「ふふっ……でも、喜んでる私も、同じくらいひどいかも」


 美湖がグズっと、腕の中で鼻を鳴らした。


 お互いに、裸なのに。

 初めて、そうなれたのに。

 気持ちが溢れて、それどころじゃなくて。


 美湖。美湖。


 頭の中が、彼女のことでいっぱいだった。


 隣の教室に入っていく、あの背中。

 校門で声をかけたときの、不思議そうな目。

 放課後、夕陽に照らされながら笑ってくれた、あの声。

 初めて繋いだ手。触れさせてくれた髪、肩、頬。

 今、ここにいる彼女。


 そのどれもが、全てが、心から――。



「美湖」



 これから先、なにがあるかわからないけれど。

 どうなるかは、未知数だけれど。


 でも、この子だけは。


 美湖だけは、手放さないでいよう。いつまでも、守っていよう。

 命に代えても。ほかのなにを、犠牲にしても。

 自分はそのために生まれて、これからもそのために生きていく。


 そんなバカなことも、今だけは。


 この瞬間だけは、本気で思ってもいいはずだ。



「愛してる」



 今度は間違いなく、自分の声だった。 




ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

本作は、今回で一旦、ひと段落とさせていただきます。


今後については正確には未定ですが、機を見てガッツリ連載再開したり、後日談や外伝をふらっと投稿したりする可能性が高いので、その際にはまたぜひ、覗きに来ていただけると嬉しいです!


よろしければこれを機に、↓↓↓から★で本作を評価していただけると、今後のモチベーションや参考になります。


あらためまして、ありがとうございました。


なお、詳しいあとがきは活動報告に掲載しています。

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3555801/


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
連載お疲れ様でした あの後もドタバタがあると思ってたので終わってビックリです 嫉妬の理由が分からない主人公にヤバさは感じますが 相性バッチリの2人なので大丈夫でしょう
最後にトラウマ、乗り越えられたようで良かった。美湖ちゃんは可愛かったし面白かったです!
面白かったです。またいつかの続編に期待してます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ