041 「終わらせたいの」
侑弦が紗雪と一緒にケーキを食べてから、また数日後のある日。
『今日にするわ』
朝、登校の準備をしていると、紗雪からそんなメッセージが来た。
『そうか、頑張れよ』
侑弦はそれだけ返事をして、家を出た。
教室に着くと、綿矢紗雪とすぐに、目が合った。
こちらを見て頷いた彼女の表情には、静かな決意が滲んでいた。
それでも、いつも通りの凛とした涼やかさは失わず、落ち着いていた。
一日が、異常に長く感じられた。
最後の授業が終わるチャイムが鳴ると、クラスメイトたちがバラバラと、教室を出ていく。
その喧騒の中で、紗雪が佐野桜花に近づいて、声をかけた。
「話があるの」
「……やだ」
すぐに、桜花が答えた。
けれど、声に以前のような力はなく、バツが悪そうに下を向いたままだった。
「だめ。今日は、逃さない」
「……」
紗雪が桜花の華奢な腕を、ギュッと掴んだ。
桜花は顔を上げて、今にも泣き出しそうな目で紗雪を見た。
「お願い、桜花。終わらせたいの。どんな結果になっても、今日で、全部」
しばらく、沈黙が続いた。
けれど、最後には桜花がかすかに頷いたのを見て、侑弦も自分の席を立った。
心の中で、頑張れよ、ともう一度唱えた。
「やっほー、侑弦」
生徒会室に行くと、美湖がこちらに手を振った。
が、今日はほかの生徒会役員が揃い踏みしており、まともに全員の視線を浴びてしまった。
四人の男女が、各々興味深げに、そして無遠慮に、侑弦を見る。
それも意に介さず、美湖はこちらへ歩いてきて、侑弦の手を取った。
「ちょっと、彼氏とデートしてくるねー。みんな、あとはよろしく」
侑弦は美湖に連れられて、中庭へ移動した。
隅に置かれたベンチにふたりで座ると、美湖はググッと両腕を上げて、身体を伸ばした。
「今、やってるんだね」
「……ああ。たぶんな」
侑弦が答えると、美湖は「そっかー」と言って、ベンチにもたれて上を見た。
視線の先には、侑弦のクラスの窓がある。
あの向こうで、紗雪が戦っている。
自分の望みを叶えるために。
大切なものを、取り戻すために。
そう思うと、侑弦は自然、胸が締めつけられるような気持ちになった。
「んじゃ、教えてもらいましょうか。桜花ちゃんには、結局なんて言うことにしたのか」
こちらに顔を向けて、美湖が言った。
少しの間をあけてから、侑弦は頷く。
あらためて教えるほど、特別なことはない。
けれど、なにか話していた方が、気が楽だと思った。
侑弦はもう一度視線を上に投げて、窓を見つめた。
息を吸うと、なぜだか、美湖に告白した日のことを、また思い出した。




