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俺の彼女がめちゃくちゃモテる件 〜派手にモテる彼女と、地味にモテる彼氏〜  作者: 丸深まろやか
第一章

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039 「好きなのか、甘いもの」


 それから、また数日が過ぎた。


 休日の今日、侑弦は午後から、ひとりショッピングモールへ原付を飛ばした。

 服屋で靴下や肌着を買い足してから、バイト先の百円ショップへ向かう。

 今日はオフだが、以前のバイト中、ツキが喜びそうなおもちゃを見つけたのだ。


 店に入って、こちらに気づいたスタッフ仲間に軽い挨拶をする。

 客足はそこそこで、店内は平和そうだった。


「……ふわぁ」


 ペット用品コーナーでは、ちょうど望実が品出しをしているところだった。

 フックに商品をかけながら、小さくかわいらしいあくびをしている。


「榛名、お疲れ」


「ん……ふぇっ! あ、朝霞っち……!?」


 声をかけると、侑弦に気がついた望実は声を上げて飛び跳ねた。


 思わず、笑ってしまう。

 なにも、そんなに驚かなくてもいいのに。


「ど、どうしたの……? なんか、買い物?」


「ああ。うちの猫用に、おもちゃをな」


「あっ、そ、そっか! 喜んでくれるといいね……!」


「だな。けど、好き嫌い激しいから、あいつ」


「ふ、ふーん……厳しい子なんだねー……」


 望実は心なしか、普段より元気がないようだった。

 あくびもしていたし、疲れているのかもしれない。


 ふと、先週のバイト後に、フードコートで話したときのことを思い出した。

 あらためて、美湖の存在を知られたことを思うと、なんだか少し恥ずかしい。


 そんな気持ちを隠すように、侑弦は棚に目をやった。

 以前見つけたふわふわの猫じゃらしは、無事ひとつ残っている。


「……たしか犬もいるんだよね、朝霞っちの家」


「いるよ、ポメラニアン。榛名のところはコーギーだったか」


「あ、うん……いいなーポメ。かわいいでしょ?」


「あいつは相当かわいいぞ。世のポメラニアンの中でも」


「ふふっ……親バカだ」


 望実は小さく肩を震わせて、短く笑った。

 よかった、と思う。どうやら、多少の元気はあるらしい。


「あ、あのさ、朝霞っち……この前の……その」


「ん? どうした」


「……う、ううんっ! ごめん、なんでもない! あはは……!」


 と、少し安心したのもつかの間、やはり望実の様子はおかしかった。

 さすがに、気にはなる。が、シフト外の自分があまり口を出すことでもないだろう。

 しっかりしている望実なら、マズいときには誰かに相談するはずだ。 


「じゃあ、そろそろ行くよ。みんなによろしく」


「あ、うん! またね……バイバイ」


 望実がひらひらと、控えめに手を振った。

 侑弦も振り返すと、望実はどこか切なそうな表情になる。


 その様子に後ろ髪をひかれながらも、侑弦はレジでおもちゃを会計して、店をあとにした。

 これで、目当ての買い物は終わり。あとはせっかくなので、美湖が家に来たとき用に、お菓子でも買っておこう。


 そう思い、侑弦はエスカレーターで一階を目指した。

 定期的に品揃えが入れ替わる、お土産コーナー。そこにチョコレートのカステラが置かれていて、目を引かれた。


「好きそうだな、美湖」


 彼女の好みは、おおよそ把握しているつもりだ。

 まあ美湖なら、なにを買っていっても喜んでくれるのだろうけれど。


「ん……?」


 と、不意に視界の端に映った背中に、意識が向いた。


 見ると、少しお高いケーキ屋の前で、ひとりの女の子が屈み込んでいた。

 長くて黒い髪が、少しの乱れもなく、スッと降りている。


「……」


 綿矢紗雪だった。


 紗雪はガラスケースの中のケーキを、鋭い目で睨んでいた。

 いつか、バイト先のガチャガチャコーナーで、彼女と出会ったときのことを思い出した。


「……朝霞くん」


 紗雪はこちらに気がつくと、すっくと立ち上がった。

 深い青のデニムに、シンプルな無地のTシャツ。

 華やかではないが、紗雪らしい。それに、整いすぎた顔とスラッとしたスタイルのせいで、やたらと映えて見えた。


「なにしてたんだ」


「……ケーキ、見てたの」


「見てた……買わないのか?」


「……悩み中」


 短く言って、紗雪はまたガラスケースに視線を戻した。


 やり取りは、それこそ以前のガチャガチャコーナーとほとんど同じだ。

 けれど、どうにも紗雪の語調に覇気がないような気がする。

 いや、もっと単純にいえば、元気がない。

 ちょうど、さっき会ったばかりの望実と、重なるようだった。


 まあ、数日前の出来事を思えば、無理もないのだろうけれど――。


「好きなのか、甘いもの。っていうか、ケーキ」


「……ううん。普段は、あまり食べない」


「そうか。……まあでも、たしかにうまそうだな、ここ」


 ひとつ千円近くするケーキは、見た目も豪勢で華やかだった。

 けれど高校生が気まぐれで買うには、少し贅沢だろう。


「……なんだか、無性に食べたくなって」


「ほお……それはまた、なんで」


「……わからない」


 言ってから、紗雪ははぁっと、短くため息をついた。


 やはり、元気がない。

 いつもの明瞭さと、凛とした雰囲気が、すっかり鳴りを潜めている。


 心配だ。

 あの日、美湖に佐野桜花の心中を聞いた日から、紗雪にはなんとなく、放っておけない危なっかしさと、頼りなさがあるような気がする。


 今日までの数日間も、教室で見る彼女はどこか、心ここに在らずという様子で。

 それでいて、ただでさえ冷えた紗雪の雰囲気が、ますますしんと研ぎ澄まされているように、侑弦には感じられていた。


 だが例の如く、自分がどこまで干渉するべきなのか、判断しかねるというのもまた事実で――。


「……ん」


 と、そこで紗雪は、ふいっとガラスケースに背を向けた。

 ゆっくりした足取りで店を離れて、さっきまで侑弦がいたお土産コーナーに歩みを進める。


 侑弦も追ってみたが、紗雪は特に、拒絶する様子は見せなかった。


「……なんとかなりそうなのか、例の件は」


 ある程度思い切って、そう尋ねてみた。


 佐野桜花との、いさかい。

 その原因はすでに、おおよそはっきりしたといえる。


 けれどそれは、紗雪には解決するのが難しいものだった。

 あくまで根本的には、桜花自身の問題。関係の修復には、桜花が変わるしかない。

 紗雪には、それを促すことしかできない。


 それが、美湖の出した結論、だったのだが――。


「わからないわ」


 紗雪が言った。

 今度は、さっきよりも少し、強い語調だった。




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