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俺の彼女がめちゃくちゃモテる件 〜派手にモテる彼女と、地味にモテる彼氏〜  作者: 丸深まろやか
第一章

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032 「てっきり浮気現場かと」


 週末、土曜日になった。

 朝からのバイトだったけれど、目まぐるしい時間はすぐに過ぎて、十四時には退勤した。

 同じ時間にシフトを終えた榛名望実と一緒に、挨拶をしてから店を出る。


 凝り固まった身体を伸ばしていると、侑弦はふと、名案を思いついた。


「んーーっ。今日もお疲れー、朝霞っち」


「ああ……なあ、榛名」


「ん、どうしたの?」


「ちょっと、話があるんだが……今から時間、いいか?」


「えっ」


 途端、望実は呆気に取られたように、その場で固まった。

 口をぱくぱくさせて、どういうわけか、だんだんと顔が赤くなっていくように見えた。


 不思議な反応だな、と思う。

 やはり、突然こんなことを言って、迷惑だっただろうか。


「都合、悪いか?」


「……えっ!? う、ううううん! 全然悪くない! 聞けるよ……! その……話……?」


「お、おう……そうか。助かる」


 さすがにリアクションが気になるが、承諾を得られたのはありがたい。

 そもそも、どうしてこの発想がなかったのか。

 灯台下暗し、というか、普通に盲点だった。


「あ、あの……それで、どうしたの……?」


「ああ、それなんだけど」


「あっ! で、でもこんなとこだと……アレだよね! お店の前だし……」


「ん、そうか……そうだな。なら、フードコートにでも行くか」


 侑弦の提案に、望実はコクコクと頷いた。

 あそこなら座れるし、軽食もできる。それに、次の予定にも都合がいいだろう。


 そのまま望実を伴って、ショッピングモール内のエスカレーターにふたりで乗る。

 ただ、後ろにいる望実は普段と違って、妙におとなしかった。

 自分の靴を見ているかのように俯いて、黙ってしまっている。


「大丈夫か? 疲れてるなら、また今度でも――」


「えっ!? う、ううん! 大丈夫大丈夫! ただちょっと……まあ、その……あはは」


「……ホントかよ」


 いつも溌剌としている望実にしては、明らかに元気がない。

 まあ、本人がいうなら問題ない、のだろうけれど。


「なんか買うか。奢るよ、時間もらったし」


「えっ……う、うん。ありがと……」


 フードコートに着くと、空いている席を取って、ふたりでアイスの店に並んだ。

 望実にはダブル、自分はシングルのカップを注文する。


 こういうときにスッとお金を出せるのは、やはりバイトのメリットだなと思った。


「あ、あの……朝霞っち……それで、話って……?」


 向かいに座る望実が、アイスのひと口目を食べる前に、そう聞いてきた。

 まだ、顔が赤い気がする。それに、少しだけ目が潤んでいるようにも見えた。

 とはいえ、あまり気にしすぎても悪いだろう。


「ちょっと、綿矢について聞きたいんだ」


「……えっ」


 侑弦が切り出すと、望実は短い声を上げて、また固まった。

 口にアイスのスプーンを運んでいた手が、ピタリと止まる。

 どうしたのだろうか、と思いつつも、侑弦は続けた。


「この前、店に来てただろ。綿矢紗雪。榛名、同じ中学だって言ってたからさ」


「そ……え……あ、うん……そうだけど、え……」


 望実は言葉にならない声を断続的に出して、まだ固まっていた。


 もしかして、まずい話題だったのでは。

 そう思ったけれど、ここでやめるわけにもいかない。


「……あいつ、友達と喧嘩したらしいんだよ。それで、仲直りするために、どうすればいいかって話になってるんだ」


「へ……? と、友達と、喧嘩……?」


 侑弦は、そのまま最近の出来事について、ざっくりと説明した。


 ただ、紗雪から相談を受けたのは自分で、いろいろと調べている、ということにしておいた。

 美湖のことを話すと、ただでさえ複雑な話が、さらにややこしくなる。

 聞いてもらう、という立場上、それは避けたかった。


「で、佐野が綿矢を拒絶してる原因を、今探ってるってわけだ。ただ、いまいちしっくりくる仮説がなくてな」


「そ、そっか……そういう……」


「ああ。あのふたりと中学が同じ榛名なら、なにか心当たりとかないかなって」


「う、うーん……そうだね」


 望実は少し落ち着いた様子で、首を捻って考え込んだ。


 正直、無茶をいっている自覚はある。

 が、なにかとよく気がつくタイプの望実からなら、なにかしらのヒントが得られないとも限らない。


 わずかな期待を込めながら、侑弦はアイスを食べ進めて次の言葉を待った。


「中三のとき、同じクラスだったんだよね、実は」


「おお、そうなのか」


 それは、頼もしい。


「ふたりとも、けっこう目立ってたよ。真逆っていうか、珍しい組み合わせだし。あと、どっちもかわいいよね。綿矢さんは特に」


「なるほどな……まあ、そこは今も同じか」


「ただ、私はどっちとも仲よくなかったなぁ。桜花ちゃんとは、たまに話してたけど」


「ほお、そうなのか。佐野と榛名、合いそうなのにな」


 テンションや雰囲気が、わりと近いような気がする。


 教室で同じグループにいても、違和感がない。


「うーん、どうだろ。桜花ちゃんって、まあなんていうか、ちょっと怖いんだよねー。誰にでも気さくで明るいけど……こう、あざといっていうか、本音がわかりにくいっていうか」


「あざとい……ね」


 たしか、涼葉も同じ言葉を使っていた。

 女子の中では、わりと共通の感覚なのかもしれない。


「まあ、優しくていい子なんだけどね。あのクールな綿矢さんと、一番仲よくしてたし。そこは素直に、コミュ力すご! って思ってた」


「……そうか」


「うん。ただ……今思うと、なんだけど」


 そこで、榛名は一度言葉を切った。

 それから、うぅんと小さく唸って、派手な色のスプーンを弄ぶ。

 眉間にしわを寄せて、なにかを考えているようだった。


「どっちかというと……うん、桜花ちゃんの方が、綿矢さんを好きなように見えた、かも」


「ん……そうなのか」


 紗雪の話では、桜花は孤立していた紗雪を輪に引き入れるために、彼女に声をかけたということだった。

 そのきっかけからすれば、紗雪から桜花への気持ちの方が、強くなりそうではあるが。


「好き、っていうか……手放したくなさそう、っていうか……うーん」


「……」


「なんだろ。上手くいえないけど――」


「アクセサリー、じゃね?」


 そのとき、望実のセリフを遮るように、後ろから声がした。

 振り返ると、このあと会う予定になっていた、松永玲逢が立っていた。

 シンプルだがオシャレに余念がない私服で、ジャケットに高校生らしくない高級感があった。


「おいおい女子連れかよ。言っとけよ、そういう大事なことは」


「べつに大事じゃないだろ……。悪かったな、急に待ち合わせ場所変えて」


 玲逢はひらりと手を動かして、そのまま侑弦の隣のイスに腰を下ろした。

 向かいの望実が、驚いたように目を丸くしている。

 思いのほか玲逢が来るのが早かったために、伝えるのが遅れてしまった。


「榛名、こいつ、友達の松永玲逢。このあと、映画見ることになっててさ」


「あ、そうなんだ……。どうも、朝霞っちと同じバイトの、榛名望実です」


「よろしくねー、望実ちゃん」


 ペコリと丁寧に会釈をした望実に対して、玲逢は雑な挨拶を返した。

 派手さの近いふたりだが、振る舞いは対照的だ。

 玲逢にはもう少し、お行儀よくしてほしいところだが。


「なんかあれだね。松永くん、朝霞っちのお友達っぽくないね」


「まあ、だよな、わかる」


「わかるー。なんでこいつと仲いいんだろな、俺」


 と、玲逢が白々しく同調した。

 だが望実がクスッと笑ってくれたので、少しホッとした気分になる。


「で、なんだよさっきの、アクセサリーって」


 あくびをしている玲逢に向けて、侑弦は尋ねた。


 どこから聞いていたのかは知らないが、引っかかるワードだ。

 望実も、興味深そうな目で玲逢を見る。


「ほら、女の子って、一緒にいる子のレベルで格が決まったりするじゃん。イケてる子と一緒にいる子はイケてて、そうじゃない子はイケてない、的なさ」


「……ああ、なるほど」


 たしかに、そういう雰囲気は侑弦も感じている。

 もちろん、男子にはまったくない傾向だ、とはいえないけれど。


「わーっ、それだ! あたしが言いたかったの! アクセサリー!」


「お、気が合うねー望実ちゃん。まあ、実際はそんなのただの錯覚だ。でも周りの目が気になるやつにとっては、大事な問題なのさ」


「うん、わかるわかる。学校でペア組むときとか、誰が誰と組むとかで、ひっそり睨み合いがあったりするしねー。あたし苦手だー、あれ」


「ホント、怖いわよねー、女って」


 なぜか女性っぽい口調になって、玲逢が望実に続いた。

 さすが軽薄男子、馴染むのが早い。


「要するに……今回でいえば、綿矢と仲がいい、っていう立場が、佐野にとっては嬉しかった、ってことか?」


「そーいうことだ。あくまで推測だけどな」


「うーん……でも、それと桜花ちゃんが綿矢さんに怒ってるのって、なにか関係あるのかな?」


「……さあな。ただ、なにかヒントになるかもしれない」


 依然、すぐにピンとくるものがあるわけではない。

 だが行き詰まっている今は、新しい視点や情報はありがたい。 


「なんだ、根本の問題はそれだったのか」


 と、玲逢が意外そうな声で言った。

 どうやら、その部分は聞いていなかったらしい。まあ、当然だけれど。


「最近空気悪いよなー、そのふたり。もしかして、この前綿矢が教室で碓氷に絡んでたのも、それ関連か?」


「ああ……まあな」


「ふーん。さすがの碓氷も、あんときはうろたえてたなー」


 くはは、と妙に愉快そうに笑う玲逢。

 どうやら、心配しているわけではないらしい。


「で? なんでお前が首突っ込んでるんだよ。そんなややこしそうな話に」


「まあ……ちょっといつものあれでな」


「天沢か。相変わらずのお人好しめ」


 言って、玲逢はバカにしたような、意地の悪い笑みを浮かべた。


「綿矢が生徒会室に来てな。仲直りを手伝ってくれ、って」


「ほーん。まあ、それでなんでお前まで出張ってるのかってのは置いといても、物好きなやつらめ」


 今度は、呆れた声で言う。


 もともと、玲逢は美湖の人助けには否定的、というか、理解を示していない。

 悦楽主義の玲逢と、利他的な美湖では、行動原理が対照的なのだろう。


「あの……朝霞っち? 天沢、さん? って……誰なの?」


 と、玲逢とのやり取りが途切れるのを見計らったように、望実が控えめな声で聞いてきた。

 さすがに、もう説明した方がよい状況だろうか。


「ああ、天沢……美湖は――」


「あれ、望実ちゃん知らないのか。こいつの彼女だよ」


「えっ」


 玲逢の言葉に、望実は気の抜けた声を漏らした。

 口と目をポカンと開けて、射抜かれたように微動だにしない。


 どうしたんだろうか、いったい。


「っていうか、そもそもここに来たとき、てっきり浮気現場かと思ったぞ。お前が天沢以外の女子とふたりなんて……いや、まあたまにあるか」


「浮気って……やめろよ、人聞きの悪い」


「いやー、世間じゃこれでも、浮気判定するやつはいるだろ。まあそれでいえば、誰彼構わず人助けしてる天沢なんて、もっと浮気だけどな」


「えっ……あさ……え……?」


 玲逢と侑弦が話すあいだも、望実は小さな声でなにかを繰り返していた。

 もしかすると、侑弦の浮気相手だと言われたことが、冗談でもいやだったのかもしれない。

 そう思うと、申し訳なさと玲逢への恨めしさが募る。

 デリカシーのないやつめ。


「けど、望実ちゃんに秘密にしてたってのは、ちょと怪しいなー。ん?」


「やめろ……彼女いる、なんて、わざわざ言うのもあれだろ……」


「まあ、今日のところは、それで納得しといてやってもいい」


「一生納得しろ。いろいろ、悪かったな、榛名」


 言って、侑弦はペコリと頭を下げた。

 謝ったのは、おもに玲逢の発言について、だけれど。


「あー……ううん、全然……あはは」


 と、望実は未だ、締まりのない声でそう答えた。

 だが、視線はこちらではなく、どこか虚空に向けられているように見えた。


 やはり、怒っているのだろうか。

 不安に駆られる侑弦の隣で、ククッと玲逢が笑ったような気がした。




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― 新着の感想 ―
玲逢の側から見れば、これが初めのケースじゃないんでしょうね。 傍目から見てもモテまくるより、こういう方が厄介というか。
始まる前に終わる恋、可哀想…泣
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