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俺の彼女がめちゃくちゃモテる件 〜派手にモテる彼女と、地味にモテる彼氏〜  作者: 丸深まろやか
第一章

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020 「どうしてそんなこと聞くの?」


 次の日は、朝早くからまたバイトだった。

 学校がある日とは違い、休日のバイトには、自宅から原付で向かう。


 まだ免許を取って長くはないが、最近ではもう、かなり車道にも慣れてきた。

 それでも安全運転だけは徹底し、控えめに風を切って侑弦ゆづるは走った。


 そして、バイトの前に寄るところといえば。


「あ、いらっしゃい、侑弦くんっ」


「おはよう、古賀こがさん」


 店のドアを開けると、すぐに古賀こが佳音かのんが出迎えてくれた。

 パン屋『さざなみ』で、休憩時間のための昼食を調達する。それが休日バイトの日の、侑弦のルーティーンだ。


「そういえば、前の『朝焼けメロンパン』、いただきました」


 他に客がいないことを確認してから、侑弦は言った。

 前回訪れたときに、佳音がくれた新作のメロンパン。その味の感想を、次の機会に伝えることになっていた。


「あっ、は、はい! ……どうだった?」


「うん、うまかったよ。普通のメロンパンより、俺は好きかも。二種類置いてくれると、気分で選べて嬉しいと思う」


 もともと、侑弦はメロンパンが好物だ。

 だがほかのパンとの組み合わせ次第では、若干甘みに飽きを感じることもあり、選びにくいことも少なくなかった。


 その点、朝焼けメロンパンはオレンジの爽やかさがちょうどよく、食べ合わせに左右されないよさがあるように感じた。

 単体で見ても申し分ない味で、かなり、いいんじゃないだろうか。


 それをそのまま伝えると、佳音はほっと胸を撫で下ろした様子だった。


「そ、そっか! よかったぁ……ありがと、侑弦くんっ」


「いや、こちらこそ。まあ、俺が古賀さんの味付けに弱いっていうのはあるかもしれないけど、また食べたいよ。楽しみにしてる」


「えっ……! う、うん! お店で出せるように頑張るね……! ふふっ」


 佳音は照れたように顔を伏せて、身体をゆっくり揺らしていた。


 店長の菜美の判断もあるため、店に並ぶかどうかはまだわからない。

 けれど、自分にできることはやれたのではないかと思う。


 それから、侑弦は今日の分のパンを選び、トレイに載せた。

 ピザパンと、クイニーアマンをひとつずつ。そのまま会計を済ませ、佳音から袋を受け取る。


「そういや、古賀さん。ちょっと聞きたいんだけど」


「ん、なぁに?」


「古賀さんって、友達と喧嘩したことあるか?」


 それは、最近侑弦のなかで、気になっている話題だった。


 綿矢紗雪わたやさゆきと、佐野桜花さのおうか

 喧嘩、なのかはまだなんともいえないが、仲が拗れているのは間違いない。

 男女で傾向に差があるのかは不明ながらも、女の子の経験談を聞いてみれば、少し視野が広がるかもしれない。


 相談を受けたのは、あくまで美湖だ。

 だがバイト中に紗雪に会ったことで、侑弦にとってもこの問題は、すでに他人事とも思えなくなってきているのだった。


「うーん、喧嘩かぁ。あんまりないかも? 私、けっこうなんでも許しちゃうし、受け入れちゃうんだよねぇ」


「ふむ……まあたしかに、古賀さん優しいもんな」


「優しいっていうより、たぶん気弱なの。直さなきゃなぁとは思うんだけど……」


 佳音は腕を組み、むむむと唸って首を傾ける。

 その動きに合わせて、ポニーテールが揺れていた。


「でも、どうしてそんなこと聞くの? もしかして侑弦くん、お友達と喧嘩?」


「いや、俺じゃないんだ。女の子の知り合いが、仲直りできずに困ってるらしくてさ」


「お、女の子の知り合い……へ、へぇ、そっかー……」


「ああ。できれば力になってやりたいんだけど、女の子のことはわからないからな」


 言いながら、美湖みこは例外だしな、と思う。

 美湖が喧嘩するところなど、今まで見たことがない。

 それに、彼女が人と争うときは、明確に相手の方に非があることがほとんどだ。


 侑弦が美湖を好きになったきっかけの、あのいじめ事件。

 あれだって喧嘩というよりは、美湖が首謀者を成敗しただけ。

 佳音のような普通の女の子の意見の方が、今回は役に立つ気がした。


「相手が怒ってる理由に、心当たりがないんだと。で、それを聞き出そうとしても、教えてくれない」


「なるほどなぁ……ちょっと困るね、それは」


「だろ? 謝ろうにも謝れないし、打つ手がない」


 だからこそ、紗雪は第三者である美湖に相談したのだろう。

 まあ、あのクールな紗雪が他人を頼ること自体は、多少意外な気もするけれど。


「相手の子に仲直りしようって気持ちがないと、たしかにどうしようもないよね……。そこまで怒れるのは、すごいなぁって思っちゃうけど」


「古賀さんなら、どうする?」


「うーん……本当に大切なお友達なら、なんとかしたいけど。相手の性格とかにもよるしなぁ」


「そうだな。相手の子は、けっこう気が強そうだ。それと、こっちはクール系」


「クール系?」


 繰り返すように言って、佳音は不思議そうに、またしても首を傾げる。

 つい紗雪の印象をそのまま伝えてしまったが、あまりしっくりきていないらしい。


「でも……女の子の大きな喧嘩の原因って、やっぱりあれが多いかも」


 と、佳音が少し、控えめな声で言った。


「あれ、っていうと?」


「うん、恋愛系」


「お……おお、なるほど?」


 それはつまり、いわゆる痴情のもつれ、というやつだろうか。

 だが、たしかに抜けていた視点ではある。


「あの子が好きな男の子が、こっちの子を好きだった、とかよくあるし」


「ああ……まあ、聞かない話じゃないな」


「うん。そういうの、女の子はまあ、なんていうか、ちょっとドロドロするしね。それに、相手がいやがることしちゃった、とかだと、本人にも心当たりがありそうでしょ? それがないってことは、無意識とか、その子の知らないところで、なにかあったってことかも。それに、恋愛系ってそういうこと多そうだし? わかんないけど……」


「ふむ……さすが古賀さん、鋭いな」


 さすが、と言いつつ、普段の佳音はどちらかといえば、おっとりのんびりしているタイプだ。

 けれど真面目な彼女は、やはり周りや人間関係のことは、よく考えているらしい。


 となると、一旦はそのあたりに、焦点を当ててみるべきだろうか。


「……あ、やべっ。行かなきゃ」


「え、ああ、もうこんな時間っ。ごめんね、私がゆっくりしちゃってたから……」


「いや、俺がアドバイス求めたんだ。ありがとな、むしろ」


 言いながら、侑弦は持っていた財布をカバンに仕舞った。

 そのまま店を出て手を振ると、佳音もガラス越しに振り返してくれていた。


「恋愛系……ね」


 原付のエンジンをかけながら、侑弦はつぶやいた。


 佳音の仮説は、たしかに説得力がある気がする。

 ただ、痴情のもつれというのは、紗雪には似合わない言葉だな、とも思った。




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