なぜ言葉が伝わる?
「この辺の魔獣はスライムとかそんな小さいやつばっかりだから、人間が襲われる可能性は低いはずだ。隣町のザッツも近いはずだから、そんな時間はかからないな」。
カンジは小川の近くにある小岩に腰をかけながらそう呟いた。
『...』。
アージェと名乗る白スライムはカンジの真横にある小岩の上で黙ったまま小川を見つめていた...様にカンジは感じていた。
「...」。
『...』。
再び沈黙が続き、カンジは目の前の小川をしばらく眺めていた。
『...』。
アージェも小岩の上でプルプルと白い身体を震わせたまま沈黙を保っていた。
ザブン、ポチャン...という小川の水流音と小風で擦り付けあう木々の葉音のみが鮮明に聞こえてくる。
「...ああ、名乗らせておいて挨拶遅れたわ。俺の名前はカンジ、近くにあるイッツ町出身なんだ」。
『...どうも』。
カンジが沈黙を破ると、アージェが素っ気なくそう言葉を返した...様にカンジが感じていた。
「えと、アージェさん...は? 」。
『...え? 』。
少し戸惑いながら問いかけてきたカンジに、アージェがそう問い返してきた...とカンジ感じていた。
「あの、いや...。どこから来たのかな...と」。
『...』。
アージェは考えているのか少しの間黙り込んでいたが、やがて話を切り出してきた。
『...町というか、どっかの原っぱに生まれて...そっから成り行き任せでここまで流れて来たんで...。出身とかそういうのはないです。流れてここまで来たもんですから、ちょっと絡まれちゃいまして』。
アージェがそう答えたように感じたカンジは、納得した様子で小さく何度も頷いた。
「ああ~、だから揉めてたのか~」。
『...カンジさんでしたっけ? 』。
「え、あ...はい」。
『自分達の言ってる事とか分かるんですか? 人間なのに』。
アージェにそう問われたカンジは、両目を固く閉じて考える素振りを見せた。
「あ~、何かそうぽいっすね~。こうして会話できてるって事はそういう事なのかも」。
『そ、そうぽい...? 』。
「ずっと家に引きこもってたんで魔獣と話す機会がなかったんですよ。だから、自分が魔獣...というかスライム達の声を何となく理解できるのは今日知りました。新発見ですね~」。
『引きこもり?? 今日?? 』。
カンジの事情を全く知らないアージェはただただ困惑していた。




