どこまでもオメデタイ人
太陽が沈み、すっかり夜になったザッツ町。
「さて、酒場に入るか」。
カンジは取っ手を掴んで扉を開いた。
酒場に入ると、昼よりもたくさんの人々がごった返していた。
「あ、あの~。昼に来た者なんですけど〜」。
カンジは近くにいた酒場の男に声をかけた。
両手に何本もの酒瓶を掴んでいる男は忙しそうにカンジの方を振り向いた。
「あ!? 今は忙しいから邪魔にならない隅の方で待ってろ!! 」。
男はぶっきらぼうにそう言い放つとその場からさっさと離れていった。
(隅の方か、しかし夜の酒場は人で溢れかえってるな~。相変わらず輩みたいな奴等ばっかだし、この人間達も仕事を求めてここにいるのか?)。
酒場では剣や銃を携えた者やローブを羽織った者、金属製の鎧に身に纏った者達が楽しく談笑していたり食事をしていた。
カンジはそんな人間達を横目で見ながら隅の方へ移動した。
「...? 」。
カンジが壁の方へ足を運んだ時、何者かの視線に気が付いた。
「もしかして、外から来た旅の方ですか? 」。
すぐ隣で壁に寄りかかっていた若い男がカンジに話しかけてきた。
「ええ、そうです」。
カンジがそう答えると、その男は笑みを浮かべた。
「ああ、やっぱり。この辺で見かけない顔だと思った。僕もそうなんですよ~」。
「そうなんですか、この酒場の仕事ってどんなのがあるんですかね。あまりよく分からなくって」。
「魔獣狩りがほとんどですかね、植物や薬草採集とかもありますけど...。僕は全然戦えないから採集を希望しますけどね~」。
「採集か~、自分も戦闘とかできないから採集の依頼を受けようかな~」。
「他にも依頼は色々ありますよ~! 町内の手伝いとか建設の手伝いとか、まぁ人材派遣みたいなもんですね~」。
男がそう言うとカンジは天井に視線を移し、少し考え込んだ。
(結構仕事にも色んなものがあるんだな~。なんか、楽ちんで高い報酬の依頼はないかな~? )。
カンジは世間知らずで引きこもりだった三十五歳。
そんな元ニートの自称旅人は後先の事を全く考えていなかった。




