第一章・第五節 じいじ、初配信に挑む
初めての配信。画面の向こうに広がる世界に、重蔵は妙な緊張を覚える。失敗すら笑いに変わる、その夜が伝説の第一歩になるとは知らずに――。
「じいじ、ほら見て! もうフォロワー千人超えた!」
美羽がスマホを見せると、重蔵は目を白黒させた。
「せ、千人!? わしの盆栽クラブでも十人集めるのがやっとなのに!」
コメント欄には《もっと見たい!》《ライブはまだ?》の声が並ぶ。
美羽はにやりと笑って宣言した。
「じいじ、今日は初めての配信するよ!」
「な、なにぃ!? わしが!?」
急ごしらえのセット。
ちゃぶ台の上にノートパソコン、隣にマイク。
背後には立派な松の盆栽が映り込み、まるで時代劇のワンシーン。
「よし……準備できた! じいじ、配信開始ボタン押して!」
「お、おう……(ドキドキするわい)」
クリック音と同時に、画面の端に「LIVE」の文字。
世界中の視聴者が、今まさにこの居間につながった。
「……えー、こほん。わしは佐……いや、“JZ-65”じゃ。六十五歳の……元、町内会計係じゃ」
《草》《町内会計係www》《じいじ声かわいい》
コメントが一斉に流れ、重蔵はさらに緊張する。
「わ、わしの声が世界に届いとる……!」
ゲームが始まる。
最初の敵ゾンビを前に、深呼吸。
「いざ参る!」
――ズドン!
弾丸はゾンビを華麗に外し、真後ろのドラム缶を撃ち抜いた。
大爆発。キャラクターは宙を舞い、そのままゲームオーバー。
《開幕即死www》
《ドラム缶相手に完敗》
《伝説更新》
「じ、じいじ! 一分で終わっちゃったよ!」
「む、無念……! しかしこれは、予行演習じゃ!」
必死の言い訳に、美羽は腹を抱えて笑う。
コメント欄も爆笑の渦で埋まり、配信は大盛況となった。
震える指でコントローラーを握り直しながら、重蔵は心の中でつぶやいた。
――妻よ。まさか余生にこんな戦が待っていようとは。
だが、この笑顔のためなら、まだまだ退けぬ。
「次こそ、わしの真の力を見せてやるわい!」
その声に、美羽と視聴者の笑いと拍手が重なった。
爆死、誤射、珍プレー。すべてが笑いとなり、コメント欄は大盛況。老兵“JZ-65”の物語は、ここから本格的に始まる。




