第一章・第二節 じいじ、爆誕
孫の誘いでついにゲームを始める重蔵。だが最新機器に慣れぬ手は暴走し、狙い撃つは味方、拾えば爆発。伝説のポンコツじいじが誕生する瞬間――。
リビングに据え置かれた最新型ゲーム機。
重蔵にとって、それはまるで宇宙船の操縦桿だった。
「じいじ、まずはここ押して!」
美羽がリモコンを操作し、画面にタイトルロゴが現れる。
赤黒い文字――『ゾンビ・オブ・パニック:最終戦線』。
重蔵はごくりと唾をのんだ。
「うむ……なんだか物騒な戦の予感がするのう」
キャラクター作成画面で、名前入力が始まる。
美羽が「じいじの名前どうする?」と尋ねると、重蔵は少し考えて、こう答えた。
「……じゃあ、“JZ-65”でどうじゃ」
「じぇーじーろくじゅうご?」
「重蔵、六十五歳じゃ。わかりやすかろう」
その瞬間、ネットに伝説が誕生するとは、まだ誰も知らない。
操作説明を受けるも、重蔵はすでに混乱していた。
「この“ジャンプ”と“しゃがむ”が逆なのはどういう了見じゃ?」
「逆じゃないよ! 慣れるんだよ!」
「わしの頭の中じゃ、上が△で下が×なんじゃ!」
チュートリアルが始まる。
敵はゆらゆらと歩くゾンビ一体――だが。
「とりゃあっ!」
飛び出した重蔵は、銃を構えるはずが、なぜかボタンを連打。
キャラクターが突如、味方NPCに向かってパンチを繰り出し始めた。
「じいじ! 敵はあっち! なんで仲間殴ってるの!」
「む、すまん! こやつ、ゾンビに見えてのう!」
次の瞬間、画面に赤い文字が躍る。
《味方を攻撃しました》
《信頼度が下がりました》
「じ、じいじ……ゲームで友達減らすの初めて見た……」
そして決定打。
回復アイテムを拾った重蔵、説明を誤って読み――
「“使用する”じゃな? よし、押すぞ!」
――爆音。画面が真っ白になった。
《グレネードを自分に使用しました》
《GAME OVER》
リビングは一瞬静まり返る。
美羽が固唾をのんで祖父を見つめる。
しかし次の瞬間、二人同時に吹き出した。
「じ、じいじ! なんで回復しようとして爆発するの!」
「わ、わからん……! わしにも何が起きたのか……!」
笑いすぎて床に転げる孫を見て、重蔵の胸に温かいものが灯る。
――妻がいなくなってから、こんなに心から笑ったのはいつぶりだろう。
孫の笑顔のためなら、多少の恥はどうでもいい。
重蔵はそっと、コントローラーを握り直した。
「よし……もう一度やってみるかの」
その背中に、ほんの少しだけ“老兵の誇り”がにじんでいた。
失敗続きでも、孫と笑い合う時間はかけがえのない宝物。老兵の新たな挑戦はまだ始まったばかり。次回、予期せぬ“バズ”が二人を待つ。




